150話 結界を解こう
祖母ナタリアが街に張った結界。
それを解くためにメル達は魔法陣の元へと訪れる。
しかし、その結界を解くのは一筋縄ではいかない様だ……。
メルは地面に書かれる魔法陣に描かれる文字をその瞳で一つ一つと追って行く……。
「なぁ、結界って魔法陣の文字を削るだけじゃ駄目なのか?」
四つん這いになるメルは真後ろからその真後ろから声がし、振り返った少女は瞼を半分閉じると――。
「シュレムは何をしてるの?」
「ああ、見えそうで見えないから困っている」
その言葉を聞きメルは顔を赤らめ、スカートの裾を押さえる。
慌ててリアスの方へと目を向けると彼は明後日の方向を見ており、その事にホッとしつつも今だにどうにか見えないものかと挑戦をしているシュレムを睨み。
「シュレム! いくら同性でもやって良い事と悪い事があるからね!?」
そう叫ぶとシュレムはバツが悪そうな表情を浮かべて謝った。
メルは溜息をつきつつも立ち上がるとシュレムの方へと向き直る。
「えっと結界を解く為にはね、ただ文字を消すんじゃなくて結界の核となってる言葉を探す必要があるの」
「へぇ……それで?」
感心した様子のシュレムだったが、やはりそこからどうするかは知らないからだろう、首を傾げつつ腕を組む。
「それでその核となってる言葉はバラバラになっててこの魔法陣のどこかに散りばめられてるの、だからまずはその元の言葉になりそうな言葉を見つけて、それを組み合わせて意味のある言葉になるかどうかを――」
メルはそう説明をするのだが、シュレムは首を傾げる角度を変えて行き眉をひそめると唸り出す。
「つまり、「街に入るな」と言う言葉でしたら「街に」「入る」「な」など、術者の好みで言葉を区切りこの魔法陣に組み込まれているんですよ」
柔らかい笑みを浮かべたイリアがそう言うとシュレムは未だに難しい顔をしたまま。
「な、なるほど」
「シュレムお姉ちゃん絶対に分かってないよね?」
「エスイルだって分からないだろ?」
そう言われエスイルは苦笑いをし視線を逸らす。
するとシュレムは驚き――この世の終わりかとでもいうような程大げさに膝をつくと――。
「嘘だ、エスイルは分かったのか……」
「いや、今の説明通りだろ? で、その結界の核となる言葉を消すのはどうやるんだ?」
「うん、そこの文字を魔力で書き換えるの……ディ・スペルで魔法を消す訳じゃないとは言ってもそれなりの魔力は必要だと思う……」
リアスはメルのはっきりしない言葉が気になったようだ。
彼女へと近づいた彼は――。
「どういうことだ?」
「ナタリアが何処に文字を隠してるのか、それは大体わかるよ? だけど間違った場所を書き換えた場合、それは勝手に修復するの……正しい順番で文字を変えないと結界は解けない、そうなれば必然と魔力は消耗するから」
「なるほど、さっき例だと「街に」「入る」「な」っていう言葉通りの順番で変えないといけないのか……」
リアスの言葉に頷き、メルは再び魔法陣へと目を向ける。
「だから、術者本人の癖とか性格とかが一番魔法に現れるのが結界魔法……家族の私なら解くのには有利だけど、絶対とは限らないから時間がかかるかもしれないの」
そう口にしつつもメルは一つ目の文字を見つけたのか、腰に着けた小さな鞄から羊皮紙とペンを取り出し、書き留めた。
「これは……分からないな、この中から結界の核になる文字を探すのか?」
魔法陣へと目を向けたリアスはそれを目で追って行き思わずそう口にした。
その事にキョトンとしていたメルだったが、すぐになにかに気が付くと、尻尾を立て慌てて彼に告げる。
「ご、ごめんリアス……そのこの魔法陣の中に上手く隠されてるとは思うけど、怪しい場所を探してほしいの」
「怪しい場所?」
リアスは腕を組み眉をひそめる。
そんな彼の言葉に頷いたメルは先程見つけたその場所へと指を向けた。
「例えば此処に膜ってあるでしょ? 横には膜とは関係の無い言葉が書かれてる」
メルの指差す場所には崩れた文字で書かれているため良く見ないとわからないものだったが、我は『膜』願うと書かれており、確かに関係の無い言葉に囲まれている。
「つまり、このデカい魔法陣の中からそれを探すのか?」
呆気に取られているリアス。
それもそうだろう……メル達の目の前にある魔法陣はやけに大きいのだ。
「うん、それを探してそれでその文字を組み合わせる、その上で結界の核になりそうだったら実際に試して消してみる……しか、ないよ?」
「わ、分かった」
リアスは一言そう返すと引きつった笑みを浮かべつつも魔法陣へと目を向け、メルの求むであろう文字を探し始める。
それを見てシュレムも同じように探し始め――。
「メル!」
早速何かを見つけたのだろうか? メルの名を呼び、メルは彼女の元へと近づく――。
「えっと……」
そして、指を向ける場所へと目を向けると其処には『我が願い聞き届け』と書いてあり……近くにも今探しているような怪しい場所は無かった。
「ご、ごめんシュレムこれは関係ないかな?」
メルは申し訳なさそうに告げるとシュレムはがっくりとし、メルは慌てて彼女にお礼を告げた。
「他にも怪しい場所があったら押してほしいな?」
そう付け足すと途端にやる気を出したシュレム。
そんな彼女に頼もしさを感じつつメルもまた文字探しへと戻るのだった。
それから暫くし、メルの仲間と領主イリアそしてその執事は魔法陣からあらかた怪しい文字を抜き出すと羊皮紙を目の前に集まっていた。
「見つけられた文字は『街』『覆』『守』『護』『壁』『魔力』『魔』『民』『拒』『邪』『膜』『結界』『力』『払』だね」
「これを全部組み合わせるのか? 一体どんだけ長い言葉になるんだ」
リアスは困った様に腕を組みそう言うが、メルは静かに首を横に振る。
「それがね、リアス……困った事にナタリアの結界は此処からが癖が強いんだ……」
そうそれはメルは家族であるから知っている……いや聞かされた事であった。
普通の魔法使いの結界ならリアスの言った通りなのだ、だが――。
「ナタリアの結界はワザと式を大きくして使わない文字を仕込んでる。つまり、この文字の中から正しい物を抜き出さないといけないの」
「……は?」
「それと……多分自然に読める場所にまだ文字が隠されてる、と思う……例えば『る』とか『む』とか『う』とか……」
メルの言葉が理解できないのだろう、イリアと執事以外のその場に居る者達は口を開いたまま固まっていた。
「ちょ、ちょっと待てメル! ナタリアさんってそんな細かく区切って隠したのか!? オレだったらややこしくなって頭が痛くなるぞ!? そもそもそれが何処にあるのか分からないなら解くのが無理になるじゃないか!」
「大丈夫、抜き出したもの以外の部分は直接核にならないよ、だけど例えば『守』だと『守る』なのか、それとも『護』と合わせて『守護』なのか、そう言った組み合わせも考えないと……」
「な、なるほどね……一文字だけじゃ読むこともできなくて核にならないけど重要な文字が抜けてる状態ってことかしら?」
ライノの言葉にメルは頷き、困った様に笑みを浮かべるとゆっくりと尻尾を揺らす。
すると、仲間達から一斉に溜息が聞こえた。
だが、その中で執事は羊皮紙へと目を向け――何かを思いついたのだろう、文字をゆっくりとなぞって行く……。
「ですが、この結界を解くには試さねばならないでしょう……メアルリースお嬢様『街を守る結界よ民を護れ』などはどうでしょうか?」
「うん! やってみる」
メルはそう言うと鞄の中から炭と白い棒を取り出した。
それで一つ目の文字である『街』を書き換え魔力を込める……そして、二個目の文字を変え魔力を込めた所で魔法陣から放たれる光は強まって行き――。
「だめだ……違うみたい」
メルが書き直した文字はまるで燃える様に消え、消したはずの文字は再び魔法陣へと浮き出ていた。
「メルお姉ちゃん、魔力は大丈夫?」
「うん、ありがとうエスイル……大丈夫だよ」
心配をしてくれる弟の頭を撫でつつメルは再び羊皮紙へと目を向ける。
街は合ってたって事だよね……でも次の文字が違った。
ユーリママ程の魔力があるなら総当たりでいいけど、私にはそれは無理だし……。
それに大丈夫だって言ったけど、思ったより魔力が減ってる。
多分これはナタリアが何かを仕掛けたんだね……いくつか候補を出してこれだって思えるのを見つけた方が良いかもしれない。
でも、ナタリアは一体どんな言葉を核にしたんだろう……?
メルは一人、考え込み――やがて一人では答えが出ないと悟ったのだろう。
「ねぇ、他に何か思いつかないかな?」
仲間達を頼る事にしたのだった。




