149話 領主イリアの決断
結界を解く……。
それを黙ってする訳にはいかない。
領主であるイリアは民を集め、その事を伝える様だが……果たして、民は納得するのだろうか?
メル達の話し合いから暫くし、彼女達は領主イリアを連れ広場へと急ぐ……。
目的は勿論この街ソーリオスの結界を解く事を伝えるためだ。
そこに集まった人々の目の前にある足場へとイリアは立つ、すると彼女はメル達を手招きで呼び寄せた。
メル達は自分達もそこに立つ事になるとは考えてはいなかったのだろう、少し緊張したそぶりでイリアの手招きに応じた。
彼女達がそこに立つとようやくイリアは人々へと目を向けた。
「ここに居る者達はこの度、街の危機を救ってくれた者達です。知っての通り、この街の者ではなく……ここに来れたのは私のひ孫であるこのメアルリースの導きがあっての事です」
彼女は声を張り、伝え始める。
「本来魔物が現れるはずの無かったこの街ですが、微弱な魔力を浴び……魔物が生まれました。極めて稀とは言えるでしょう、ですが今後ないとは限りません。そしてその時、今回の様に運良く戦える者が街を守ってくれるとは限りません」
平和な街で唯一戦える者であったライラの家族は魔物に殺された。
そう、それは魔物を知っている者はその恐ろしさを……知らない者は未知への恐怖を覚えただろう。
だからこそ、今対処をしなければいけない……そうメル達は感じ、行動に移した。
そして、それにイリアも答えたのだ。
「その時はこの街ソーリオスは滅ぶだけです……ですから、私はこの街を覆う結界を解くことを決めました」
メル達の見守る中、イリアはその事を告げた。
それを聞き当然民達は騒めきだす。
冒険者が在中できる酒場を作ろうという者も居れば、結界を解く事で魔物が来る事を恐れる声。
英断だという者あれば、人殺しと罵る者。
メルは思わず身を乗り出し反論をしようとしたが、それはイリアの手によって防がれた。
「お婆ちゃん?」
「私にはこのソーリオスの民を守ると言う役目があります。街が無くなっても貴方達が居るのならばそれで良い、街などは新たに作ればいいだけです……ですが、人は違う、死んでしまったらそこまでなのです。誰一人として誰かの代わりが出来るなんて事はありません、だからこそ危険だとしても……いえ、危険だからこそ他者の力を借りれるようにすべきなのです……ましてや、もう犠牲は出ているのですから……」
その言葉にメル達は驚いた。
街と言うのは大事な物だ……人々が住む上で大きな塀に囲まれ、魔物の脅威を軽減し雨風を防げる家。
職にさえつけば食料も衣服も買える……。
何より、街はそこに住む人達が苦労して作り上げてきた物だ。
勿論、そこに住む人の方が大事だ。しかし、それを言える領主は少ないだろう……何より自分の暮らしを捨てる事になるかもしれない状況では特にだ。
「このままではいざこの街を捨てる時、私達はどうやって逃げるのですか? 魔物に怯え、外に怯えこの街から逃げることが出来るのですか!」
「ふ、ふざけるな! 魔物が出ないかもしれないんだろ! 結界を解けば魔物が!!」
それは誰が行ったのか分からない言葉。
しかし、恐怖を感じた人々の言葉だろう……メル達の目には不安そうな顔を浮かべる人たちが見えた。
「だからこそ、ここに居るこの子達の案に乗りました。タリムには魔物との戦いになれた者がいるようです。それにもうすでにリラーグには連絡をしてもらっています。時期に冒険者が派遣されるでしょう」
イリアの言葉に黙り込む人々。
やはり、不安なのだろう、だが――。
「そ、その冒険者に稽古もつけれ貰えるんじゃないか? そうすれば俺達でも魔物と戦うことだってできる!」
そう口にしたのはあの門兵だ。
その横には女性の門兵もおり、頷いていた。
「魔物と戦う!? 出来る訳――」
「あんな子供だって魔物と戦ったんだ! 出来ないって事は無い」
反論する声にそう答えたのは女性の門兵。
辺りに響いたその声に反応し――。
「そ、そうだ! このまま街の中に居ても安全だとは言い切れないんだ。戦えるようにした方が良い」
そう叫びだす者もいれば、それを否定する者も居る。
その声は徐々に広がって行き、収まる事が無い――やがて、イリアは大きく息を吸い。
「今回は私の独断で申し訳ないのですが、もう決めた事です! 私を非難するのは仕方のない事でしょう、それは覚悟しております」
彼女はそう言うと前に居る人々へと改めて目を向ける。
そして――。
「話は以上です。色々と話したい事があるでしょう、それはちゃんと聞きますので――屋敷に来てください、私は拒みません」
最後に頭を下げイリアの話は終わった。
足場から降りる彼女を慌てて追うメル達、中でもメルは曾祖母であるイリアを心配そうに見つめる。
イリアはそんなメルの視線に気が付いたのだろう……笑みを見せると――。
「さぁ、結界を解きに行きましょう」
そう口にし、メルの手を取ったのだった。
メル達が向かった場所は広場から少し離れた場所にある祠のような場所だった。
イリアは執事から鍵を受け取るとその扉を開けはじめる。
「所で結界を解くってどうやるんだ?」
そんな時、ふと疑問に思ったのだろうシュレムの質問が飛び――。
「その魔法陣を読み解いて壊す事になるわね」
ライノの言葉にイリアとメルは頷いた。
そう、結界を解くにはその魔法陣を読み解く必要がある。
「もう一つディ・スペルを使う事だけど……この街の結界にはユーリママの魔力が使われてるから多分私には無理だよ」
「前にも聞いたけどディ・スペルって結局なんだ?」
気になっていたのだろう魔法なのだろう、リアスは開かれる扉の奥を覗き見つつメルへと聞く。
「ユーリママがどこかで見つけた魔法みたいだよ? 相手の魔力を上回る魔力でその魔法を使えば魔法を消せるの……だから、ユーリママの魔力が籠められてるこの結界は私には解けない」
「ですので結界を解く為、まずは魔法陣を読み解かなければなりません」
イリアの言葉にシュレムは頭を押さえるとうんざりした表情を浮かべる。
「オレ、そう言うの苦手なんだけど」
「あのな、誰がシュレムに頼むって言ったんだ? 魔法は当然メルの方が知識があるだろ」
それにはシュレムも思わず口をとがらせる。
「そんな事言ったってな、オレの嫁なんだぞ! それ位手伝って当然だ!」
「だからシュレムお姉ちゃんも女の人だよ……」
エスイルはいつもの突込みを入れた所でイリアはくすりと笑い。
「さ、この先に結界がありますよ」
その祠へとメル達を誘う。
そこには魔法陣が描かれており、そこからは淡い光が灯されている。
メルはその魔法陣へと近づき、傍に座り込み魔法陣へと瞳を向ける。
「……ちょっと時間がかかりそうだけど、大丈夫ナタリアの癖なら良く知ってるし、これなら解読できそうだよ」
「魔法の事は良く分からないが、何か手伝う事があったら言ってくれ」
「おい待て! リアス! オレが手伝うんだぞ!」
リアスに掴みかかるシュレムを見てメルは思わず慌てるが、リアスは笑みを浮かべると……。
「落ち着け、俺達皆でって意味だ」
「そうよ、魔法が使えなくても言葉の意味や式を読むことは出来るはずよ? シュレムちゃんも元からそのつもりだったんでしょ?」
二人の言葉にシュレムは納得した様で大げさな動きで首を縦に動かすと満足そうな笑みを作る。
「全く、そういう事なら早く言え、また勘違いするところだったろ!」
その勘違いはカロンでの事を言っているのだろう……。
「こ、今度は勘違いしても出て行ったら駄目だよ? メルお姉ちゃん凄い心配してたんだからね」
「……わ、分かってる」
気まずそうにシュレムは瞳を逸らし、メルもまた同じように視線を動かす。
「じゃ、じゃぁ取り掛かるね?」
そして、再び魔法陣へと注視するのだった。




