145話 屋敷へ!!
魔物が屋敷に向かっている!
メルはその事を知り、焦る気持ちを押さえられず魔法で空を飛ぶ。
どうか間に合って……そう思いながら、曾祖母の屋敷を目指すのだった。
空を駆けるメルはシルフに案内をさせつつ曾祖母の居る屋敷へと急ぐ。
本当にそこに魔物が向かっているのだろうか?
祖母たちは無事なのだろうか? そんな不安を感じつつも彼女は前を見据え――。
「メル!!」
あの人混みをかき分けてきたのであろう少年の声に気付く。
「リアス!?」
聞き間違えるはずもないだろう、屋根を伝って追って来たのはリアスと言う少年だ。
「リアス!? じゃない、勝手に一人で飛び出していくな! 何かあったらどうするんだ!」
「その何かあってからじゃ遅いから、こうやって――」
メルはそう言いかけ、リアスの視線が微妙にずれている事に気が付くとはっとし、自身のスカートを押さえる。
「へ、変態!!」
「あ、あのなぁ……今はそれどころじゃないだろ!? 早く降りて来て魔物を追うぞ!!」
リアスの言葉を聞き頬を膨らませつつもメルはゆっくりと地上へと降り立ち、魔法を解除する。
それを確認し、リアスは改めてメルの方へと目を向ける。
「シュレムとライノ、それにエスイルは他に魔物が居ないかを確認してくれてる。俺達は小さい方をやるぞ!」
「う、うん……」
メルは赤い顔のまま頷き、リアスと共に走る。
目指すのは先程教えてもらった通り、メルの曾祖母の住む屋敷の方だ。
冒険者見習いと旅人の二人は人々を避けつつ其処を目指す。
周りの人々は彼女達とは正反対の方へと目指し走っている事から魔物がこの先に居る事は間違いではないはずだ。
そう確信を持ち、二人は屋敷へと辿り着いた。
「お婆ちゃんは!?」
屋敷へと着くなり彼女は扉を開けようとし――。
「お、落ち着けメル!」
リアスはそれを止める。
「落ち着いてられないよ!」
「扉も窓も締まってる! ガラスが割れている様子もないんだ! 魔物は外に居る可能性が高い、扉を開けたら入り込むかもしれないぞ!」
「そ、それは……そうだね」
メルはリアスの言葉に頷くと、扉から手を放し辺りの様子を窺う。
「他に隠れられそうな建物もないし、ここに居るとは思う、んだけど……」
相手は木の魔物。
だが、塞いだ穴の大きさから考えてもそんなに大きな魔物ではないだろう。
しかし――。
「擬態にはこの上ないほど便利な場所だな」
リアスが言った通り、そこには小さな苗木が幾つかあった。
その中に魔物が居るのだろうか? それともすべてただの木か、魔物なのか分からない。
「何でこういう時に限って……」
メルは思わずそう愚痴を漏らす。
しかし、そこで諦める訳には行かない。
アクアリムの刃を鞘から滑らせると構え、その木々がある場所へとゆっくりと歩み寄る。
リアスもまた棒を組み立て、メルと共に近づくのだが――。
「近くで見るとますますわからないな」
元が木だった為か、メル達はすぐに見分ける事が出来なかった。
だが……。
『メル!』
先程の事から事情を察していたのだろう、ドリアードはメル達を見つけるなり彼女の傍へと寄り――。
『こっちじゃないよ、あっち』
その小さな手でメル達が目を向けていた処とは別の場所を指す。
「あっち?」
「精霊か? だが、向こうは……」
ドリアードの示す方には大きな木があるが、小さな木は見当たらない。
だが、精霊が嘘をつくはずがない。
ってそういえば、薬草の洞窟の時ドリアードは……う、ううん、確かにそうだったけど、こういう時までは無いよ!
思い、リアスへとその翡翠色の瞳を向ける。
「木の陰に居るかもしれないよ、行こう」
「そうだな、精霊もそう言ってるなら一応確認した方が良い」
その言葉に思わずメルは笑みをこぼす。
すると、リアスは首を傾げ――。
「どうした?」
「ううん、普通なら精霊なんて目に見えないからって言う人が殆どらしいんだ」
メルは森族の血を引いている。
だからこそ精霊を目にする事が出来、またここまで育つのに見守ってくれた。
周りには精霊を信じる者達も多く、実際にそう言われた事は無かったのだが……。
「そうは言ってもな、事実俺はあの首飾りを届けるよう約束したし、これまでだってメルやエスイルを通して精霊が助けてくれたんだろ? 何をいまさら言ってるんだ?」
「そ、そうなんだけどね」
なんだろう、良く分からないけど……何か安心した。
メルは自身でも良く分からない安堵を感じつつ、ドリアードの示した場所へとリアスと共に歩み寄る。
そして……。
「居た!」
ドリアードの言う通り、そこには小さな木が一本の木の陰に隠れるように居り、それは今まさにその木へと枝を振り下ろそうとしていた。
その時メルは祖母ナタリアより聞いた事を思い出す。
古木の魔物エイシェントウィローは決して交配では生まれない。
生まれるためには木々を傷つけ、枯らす……その時に自身の魔力を分け与えるのだと言う。
つまり、あの若木がしようとしている事は間違いなく――。
「リアス!!」
「分かってる!!」
自身では間に合わないと判断したメルは傍に居る少年の名を叫ぶ。
すると、少年はメルの横から飛び出し、その手に持つ鉄の棒を今振り下ろさんとしている枝目掛け振り抜く!
辺りには鈍い音が鳴り響き、折れた枝は引きちぎれ回転しながら飛んでいくのがメルの瞳に映る。
それを見てその魔物に痛覚があるのか分からないが、魔物にさえならなかったらこんな事をせずに済んだのにとメルは何処か辛い気持ちが芽生えた。
だが、相手は魔物……。
ここで倒さないとどんどん被害が広がるんだ……。
恐らくは目の前に居る魔物が生み出した、森に居たエイシェントツリーにすでに殺されている者はいるのだ。
メルは手にしていた剣、アクアリムを構え直すと若木の魔物へと向け、駆け出し――。
「これで――終わりだよ!」
その刃を振り抜いた。




