14話 報告……
少年を助けるために魔法を使うメル。
だが、魔力が付きかけ僅かな応急処置も出来なくなってしまうかと思われたその時――
母ユーリが駆けつけ、少年の命は助かった。
しかし、問題はまだ残っており……
リラーグの王の屋敷へと辿り着いたメルとナタリアはすぐに王であるシルトに事の顛末を報告していた……
「それで、私は……あの人を切ったんです」
メルは包み隠さず、すべてを打ち明けシルトの言葉を待つ、するとシルトはナタリアの方へと目を向け――
「嘘は言っていない」
嘘は言っていない、当然ナタリアはそう答えるだけだ。
だが……
「家族だからそう言ってるだけではないですかな? 大魔導士……いえ、ナタリア殿」
そう言うのはシルトの傍で控えていた魔法使いだ。
「ほう、ボルア……殿、流石の私もこればっかりは正直に言うしかないのだが?」
ボルアと呼ばれた男はどうやら特別扱いをされているメル達が気に入らないらしく、いつも突っかかってくる。
とは言え、今回ばかりは彼の意見も正しいだろう、何故ならナタリアはメルに甘い……それは酒場の人は勿論、街の人の一部にも知れ渡っている程だ。
「正直にね……いくら生死問わずと言われても一般人が人を殺めたのです。リラーグに置いて……いや、そうでなくとも殺人は罪、よもや知らず存じずと逃げるつもりではないですかな?」
「ああ、知っている……なにせリラーグで無益な殺生を禁ずると言う法は愛娘のユーリも作るのを手伝ったのだからな」
ナタリアは不機嫌な様子を隠すそぶりもなく、ボルアにそう告げる。
彼女達をボルアが嫌うようにナタリアもまた彼を嫌っていた……
その理由はどうやらユーリにあるようだが、そんな事を知る由も無いメルは二人の様子に慌てた様に顔を左右に振った。
「だが、この件に関してはメルは嘘をついていない。事実、証人も居る……今はとても話せる状況ではないがな」
「ナタリア殿? こちらからすればその証人も金で用意したものと思えるのですが?」
続いたボルアの言葉は酷い物だったが、しかしメルはそれも仕方が無いのかと落ち込んだ……
龍に抱かれた太陽はリラーグの中では最も新しい酒場だ。だが、メルの親であるユーリ達の活躍によってすぐに街一番の酒場と呼ばれるようになった。
当然他の酒場から仕事を奪う形になり、冒険者や酒場の店主を始めとした幾人は恨んでいる……それが例え、元がゼファーの龍狩りの槍だったとしてもだ……
そして、目の前にいるボルアもまたつぶれた酒場の腕利き冒険者であり、酷く嫌っているのはそれが理由だった。
「ふむ……確かにな、だが……これを見ろ」
だが、ナタリアは苛立ちを見せる彼に対し、口角を少し上げそう言うと懐から一つの箱を取り出した。
「これがメルの所為で盗人に渡った物だが……」
そう言って中身を取り出すナタリア……その場に居る者達はメルを含め彼女を見つめている……やがて、取り出された物は首飾りだ。
素朴な造りで、でもどこか惹かれる物を感じる。
何故だか分からなかったが、メルはそれがなんだか温かい感じ、不思議な首飾りだなぁ……と思っていると周りの人からも「ほぅ」だの「素晴らしい」といった声が聞こえた。
価値も無さそうに見える、素朴な首飾りなのにだ……だが盗人が欲しがっただけの物で惹かれるなにかはあった。
「古いマジックアイテムだ。もしかしたらアーティファクトの可能性もある……それよりも気になるのはこの首飾りに彫られている紋様だ」
彼女はそう言うとボルアに首飾りを見せる。
すると手に取って確認しようとしたのだろう、ボルアが手を伸ばしかけるとナタリアはそれを遠ざけた。
「何をするんです?」
「高価な物だ……下手に触って壊されては困る……それよりもシルト、ボルアもだこの紋様の意味が分かるな?」
怪訝な顔をするボルアに対し、もう一度首飾りを見せるナタリアは何処か自信に満ち溢れている。
いつの間に持ってきていたのか、というか何故そんな勝ち誇った顔をするのだろうか? メルは疑問を浮かべる……
「………………っ!!」
だが、今一度首飾りを確かめた魔法使いボルアが目を見開き――メルへとゆっくり顔を向けてきた。
「メアルリース・リュミレイユ……これを持っていた者は?」
「ナタリアが言った通り今は話せる状況ではないです……ただ、凄い大事な物らしくて取り戻すのに必死だったんです……」
あの時私が騙されなければっと、彼女は後悔を感じつつ伝えると……
「そうか……では、メアルリース・リュミレイユ……その場で少し待て」
メルはこの場から逃げるつもりもなく、待てと言われなくても話が終わるまでは勿論そのつもりだった。
でもなんでこの人は私の名前を全部言うのかな? 長くて言いにくいと思うんだけど……
とはいえ、愛称である『メル』と呼ばれるのも何だか嫌な感じだと思いそのまま黙って待っていると、ボルアは首飾りの事に気が付いたのかシルトへと何かを伝えている。
その様子にメルが首を傾げていると、シルトが真剣な表情でメルを見ている事に気が付いた。
「メル……君はその荷運びに変わってその荷物を責任をもって届けなさい」
「……え?」
メルに告げられたのはただそれだけ、元々そうしようって考えていたのだからメルとしては良かったことなのだが……
それほどまでに重要な物なのだろうか? とメルは疑問を浮かべた。
だが、そうであれば子供であるメルに任せるのも不自然だ……
「あの、大事な物なら――」
「決して奪われてはいけない、ある程度の実力がある君なら守り切る事も出来るはずだ……それにそれが君への罰にもなる」
「それは……一体?」
彼女は何も言えなかった。
認められている事自体には嬉しさを感じた、だが……実際にはただの子供である事を思い知らされていたメルは首飾りを守る自信が無かったのだ。
「それが何処なのかはナタリアさん……その人の記憶を辿り確かめて下さい」
「任せておけ、すぐに帰って調べておく」
シルトさんの言葉にそう答えるのは勿論ナタリアだ。
会話を聞き、メルは震える声でシルトへと尋ねる。
「あの……リラーグじゃなかった場合はどうするんですか?」
リラーグはメルン地方では有名な冒険者の街だ。
そこに来たと言う事はもしかしたら彼は護衛を得る為だったのかもしれない……
彼はその護衛が必要ないくらいには強い様には思えたのだが、今回みたいな事があるかもしれないと考えればおかしくはない。
もし、そうなった場合は子供であるメルよりは――
「その場合は勿論、リラーグを発ってもらう……ちゃんと届けるまでは此処には戻ってきてはいけないよ」
誰か腕利きの冒険者に頼むのだろう、そう思っていたメルに告げられたのは予想外のその言葉だった……
メルは言葉を失いその場で呆然としてしまった……
それもそうだろう、確かに年相応以上の実力はある……だが、まだまだ実力不足。
それはシルトも分かっている事なのだろう、どこか辛そうな表情だ。
「安心しろ、その時は私がついて行こう」
ナタリアが確かそんな風に言い、メルは頭に暖かい手が置かれたのを感じた……だが……
「それは……・許可できません」
王であるシルトは言葉一つで拒否した……それだけじゃなく。
「勿論、ユーリさんやフィーナさん……龍に抱かれる太陽に所属する冒険者を連れていく事も許可いたしません」
「何を言っている! メルはまだ子供だぞ!?」
「確かに……それにメルがやった事は盗賊を討ち、人を救った……フォーグからも依頼が来てたのですから褒められる事ですが……生憎、その現場を見ていた者が居たそうで……人殺しだと騒ぐ者が居るんです……更には別の事でも多いくて……」
「多い……って何が?」
メルは呆然としつつも、シルトへと尋ね、彼は辛そうな顔でメルへと目を向ける。
「メル、いえ、メアルリース・リュミレイユ」
「…………」
名前を呼ばれた彼女はゆっくりとシルトの顔を見る。
それは辛い物から真面目な顔へと変わり、彼女は……思わず逃げ出したい気持ちに駆られた。
「貴女は先日屋台で無料で食料を得ましたね?」
「先日……無料で?」
「ここリラーグにも貧困の差はあり、まともに食事が取れない者も居ます……だが、貴女は店主と仲良さげに話し、金銭を払わずに食事を得た……それも見ていた人が居ます」
昨日の事だ、メルはソレを理解し……まるで大槌で頭を打たれたかのような衝撃を受けた。
確かに無料で得た……だが、それは屋台の店主との約束もあったはずだ……
何時か冒険者になったら仲間を引き連れて食べに行くと言う約束……それだけじゃない、メルが屋台の前で食べたお蔭で儲かったとも言われていた。
「で、でも……私は――」
彼女はそれを伝えようと声を上げるが――
「他にも色々とありましたが……一つ大きな問題がありまして」
声は遮られ……シルトは更に深刻そうな顔を浮かべた。
なんだって言うのだろうか?
「大きな問題? それは一体なんだ? 人の孫の命に関わる事なのか……」
ナタリアは苛立った様子で組んだ腕の上で指を動かす。
「ええ、メアルリース・リュミレイユの為ならば……ユーリ・リュミレイユはすぐに動くとも言われています……以前から行方をくらましていた子供の捜索をしてくれと頼んでいたのにしてくれなかったっと」
「子供の……捜索……」
「難航しているのは私、自身存じ上げてる事ではありました。ですが、その中でもアジトと犯人に目星をつけ、いくつかの場所へは新人を送り込んだ事もね、その内の一人が見事犯人で……メアルリースは偶々攫われたようですが、住民はそうは思っていないみたいでして」
「……なんだそれは! あれはユーリも頭を悩ませていたんだぞ!! 奴らが街から出たり、売りに出てくれれば問題はすぐに解決した、だがそうではなかった……自身で抱え込み情報が洩れぬよう――」
シルトの言葉にナタリアは我慢の限界が来たようで怒鳴り声を上げる。
彼の言う通りメルは偶々攫われ、そこにすでにゼッキと言う冒険者が居てくれたのだが、事件が事件だ……下手に喋って情報を漏らす訳にもいかないだろう……
偶然が続き、母ユーリまでもがそんな事を言われていた事にメルは胸が締め付けられたように苦しくなり……
「ですから、それは私も存じ上げています……」
「――っ!! だから、メルを一人で外に出せと言う事か? それでは危険な魔物に遭った場合どうする? 冒険者は一人で行動できるものではない! ましてやこの子は冒険者ではないんだぞ!!」
ナタリアの声は部屋の中へと響き――シルトは目を閉じ言葉を受ける。
だが……大きいはずのナタリアの声はメルには殆ど届いていなかった……
「確かに……」
「メル……?」
「確かに、ユーリママはすぐに助けてくれた……だけど、そんなの酷いよ……言ってたんだよ? 目星をつけてたってゼッキさんだって二日も待ったんだって言ってた……なのに……私が攫われたから、私の所為でそんな事なんで言われなきゃいけないの!?」
話からして事件はメルが知るずっと前から知られていたのだろう……
「ユーリはデゼルトに街から怪しい者が出ようものなら拘束を支持していた。メルにも街の者にも事件の事は黙っていたのは先程も言ったように情報が洩れ、捕らえられた者達を人質に取られんためだ……」
「…………結果、メアルリースは攫われ、こんな事になったのです」
何故自分には黙っていたのか? メルはそんな疑問を浮かべたがすぐに何故か理解した。
あの時の彼女には自信があった……そんな話を聞けば勝手に調査をしていたかもしれない……ましてや誰かを助けたいと言う意思は祖母からずっと受け継がれてきた意志だ。
怒られようと助けられれば良い、メルはそう考えていただろう……
「酷いよ……」
だが、メルはそれを理解して尚、一言を漏らし……瞳から涙をあふれさせた。




