143話 小さな木
エイシェントツリーをライノの策で倒すことに成功したメル達。
しかし、まだ魔物の問題は解決をしていなかった……!
子供が口にした言葉、それはまだ街に魔物が居るという事を示す物だった……。
「よ、夜に小さな木……魔物が現れるだって!?」
子供の言葉に驚くリアス、それもそうだろうこの街に魔物が居る訳ないのだから。
一方シュレムは険しい顔でメルの方へと向き――。
「メル、どういう事なんだ?」
「……魔族や魔物はエルフの生み出した生き物じゃない、進化の過程で生まれたの……その時に生物は精霊力を魔力へ変える器官が出来た」
「その時に偶々理性を得たのが魔族のご先祖様って事よね」
メルはそれに頷いた。
「でも植物とかの魔物は違う、世界に魔力という新しい物が生まれてその影響を受けてしまったのが植物の魔物……だから、今回産まれたのもそう言う魔物で逆に言えば魔力がそこに無ければ生まれる事は無いの」
「でも、フェンは見たって言ってるよ!」
エスイルは新しく出来た友の事を信じているのだろう。
メルの言葉に怒り頬を膨らませる。
だが、メルも彼の言葉を偽りだとは考えてはいない。
「だからこそ小さな魔物が生まれたんだと思う……その魔物に魔力を蓄えるっていう性質があれば今回の魔物を動かすほどの魔力を作る理由にもなるし、それに森に生まれた魔物もそれの影響って考えてもおかしくはないよ」
それに私達は動く木という情報しか持ってなかった。
だから、少なくとも私はある程度の大きさの木を想像してたし、小さな木は見逃してたかもしれない。
この子の言ってることは調べないと!
「それでその木は何処に行ったか分かる?」
「メルお姉ちゃん!」
今度はその言葉が嬉しかったのかエスイルは表情を明るのだった。
「他に理由らしい理由もないし、何で誰も信じないんだ?」
「いや、メルの話からして魔物自体が珍しい街だからだろ?」
シュレムの疑問に対するリアスの言葉にライノは頷きつつ少年の頭を撫で始める。
「でも、もう安心しなさい、アタシ達がその魔物を倒してあげるわ……その前にメルちゃん」
「あ、うん……」
メルは魔法を唱える前に改めて傷口を見る。
痛々しい傷を目にし――。
「ライノさん先に消毒をしてもらえるかな? 私の魔法だと雑菌が入り込む可能性もあるから」
「あら、そうだったの? 分かったわ」
彼は荷物の中から薬液を取り出すと処置をしはじめる。
「ひっ!? し、染みるよ! 痛いよぉ!!」
「我慢して、もうすぐ終わるから」
だが、ライノはその手を止める事無く、傷口を綺麗にするとメルへとその瞳を向ける。
メルはライノに変わり少年の前に座り再び傷口へと手のひらを向け――。
「我が友の傷を癒せ、活力を与えたまえ――ヒーリング……」
彼女自身が完成させた母の魔法を唱える。
すると彼女の手に灯った暖かな光は少年の傷を覆い始め……涙目の少年は魔法を使われた事に驚き身体を震わせるのだが、自身に起きた変化に首を傾げる。
「……あ、あれ?」
それもそのはずだ。
本来は攻撃の為の手段であり、決して傷を癒すことは出来ない魔法……そもそも傷を治すのは医者やライノの様な薬師の仕事なのだ。
だが、メルは魔法でその傷を癒していく……。
「これで、よしっと……痛くはない?」
確認の為に少年フェンへと尋ねるメル……。
すると、何が起きたのか気になったのだろうこれまで黙ったまま固まっていた少女はフェンの元へと近づくとそれに驚いたような声を上げた。
「フェンの傷が無いよ! 綺麗になってる!」
「……い、痛みも無いよ? なんで?」
少年達は目の前で起きた現象に驚きつつメルを見つめる。
そして理解し、大きな瞳を更に大きくし、その顔に笑みを浮かべた。
「凄い! 怪我を治す魔法だ! お姉ちゃん凄い!!」
「どうやったの!? だってママが傷はお医者様達にしか治せないって言ってたよ!」
そんな二人に質問攻めをされ、困り顔のメル。
そもそも、メルの見た目では魔法は使うことが出来ないはずなのだが、まだ幼く、それも閉鎖的な街で育った少年達はそれを知らないのだろう、だがそれを少年達に行っても混乱するだろうと考えたメルは――。
「これはね、私のお母さんが作った魔法なんだよ……誰かを助けられるためにって……それよりも君が見た木は何処に行ったのか分かる?」
少年へとそう質問をする。
すると少年は不安そうな顔でゆっくりと口を動かした。
「夜、窓の外に何かが動くのが見えたんだ……僕気になってこっそり、家を出て……」
「それを見に行ったのか?」
腕を組みシュレムは少年に尋ねる。
少年は頷き――。
「うん……」
「それでその何かが小さな木だったって事か?」
続くリアスの言葉にも頷き答えた少年。
だが、彼は縋る様にメル達へと視線を流すと――。
「それで、その木のお化けは街の壁の穴を通って行ったんだ! 獣も通れない小さな穴なんだけど、僕恐くて化け物が居るからその穴を塞ごうって……そう、言ったんだ」
「……だけど大人たちは信じなかったのね、今まで魔物が居なかったから……もしかして木の魔物が現れたのはそのぐらいって事かしら?」
「森に魔物が出るって言い始めたのはフェンの話の後だよ、わたしも聞いたから覚えてるの!」
二人の話を聞きメル達は頭を抱える。
それも当然だ。
普通の街や村に取って魔物は脅威、万が一紛れ込んだらすぐに倒さなくてはならない。
それが例え子供の悪戯だとしても、安全だと確認が取れるまでは信じて動くのが街を守る兵たちの務めだ。
もし悪戯だった場合はその時に叱れば良いのだから。
しかし、今回の話は子供は確かに危機を伝えている……その事から明らかに街の不手際だ。
「それって誰に言ったの? 門兵の人? それとも領主様かな?」
メルは確認のために尋ねると二人は揃って首を振る。
「フェンもリディアも誰に言ったの?」
二人の子供に向けエスイルは首を傾げつつ問う。
「パパとママ……」
「他の人には言ってないの?」
頷いて答える少年達にメル達は唖然としつつも理由を察した。
安全な街に居たからこそ、魔物の存在を忘れていた彼らはそれが危険なものだとは気が付かなかったのではないか?
そして、そんな子供達の言う事を親は夜に外に出たと言う事を聞き夢だと勘違いしたのではないだろうか?
そんな事が頭に過ぎり――。
「そ、その穴に案内してくれるかな?」
だが、こうなった以上、魔物を見つけ倒さなくてはならない。
そう考えたメルは少年達に案内を頼むのだった。




