141話 巨木の魔物
街の中に現れた魔物。
それは森で出逢った魔物にそっくりな物であり、それよりもはるかに大きい魔物だった。
魔物が出た事を知り急ぐメル達。
そして、子供達を守る為に耐えるシュレムとエスイル。
そんな中ライノはある事に気が付き、急ぎ空を舞うのだった。
メル達の視線の向こう建物の奥に見える魔物……。
それは巨木の姿をしており、彼女達は苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべる。
「まさか、街の中にもいたなんて……」
「自然に生まれるって頻繁に起きるって事か? なら他の街でも起きてるのか聞いた事がない……」
リアスはメルへと問うが、メルは静かに首を振る。
「そもそも生まれる事が稀なの! それにこの街の中の魔力はほとんど結界に使われてるから、可能性も低くなる……でもああいう魔物は一匹増えたらその魔物の影響でどんどん増えていく……早く倒さないと」
でも、それには魔物がこの街の中に入ってないと説明がつかない。
たしか交配を必要としないエイシェントウィローって増えるのに木を切り倒すはず……もし、似たような習性があるなら、近づいて何かをしてるはずなのに……。
ううん、その前に例えばあの木がさっきまでは動かなかった普通の木だったとしたら……
「――まさか、もう!?」
「メル、なにかあるのか!?」
「昨日私達が出入りした時に魔物が入ってたのかも!」
青い顔をし、そう口にするが――。
「まさか、門兵が居るんだぞ!!」
「そ、そうだよね……」
でも、それじゃ……あの魔物は何処から? まさか本当に突然生まれたの?
確かに絶対はない、生まれる可能性はある……。
「考えるのは後だメル! 今はあの魔物を――!!」
「分ってる! あそこには二人も居るはず! 森の時と同じ倒し方で!!」
二人はそう言葉を交わし、もう少しでエスイルとシュレムの姿を捕らえられるであろう場所へと辿り着くというメル達の目の前に白い羽を持つ男性が舞い降りる。
「二人共ちょっと待ってもらえるかしら?」
「ラ、ライノさん!?」
突然現れた仲間に驚いたメル達は思わず立ち止まるのだが……。
「待ってってそんな状況じゃないだろ?」
「駄目よ、今話してたの聞こえてたけど……この中であんな戦い方をすれば被害が広がるわ……よく考えて見なさい!」
「……ぁ……そっか、魔物が倒れるし、それにあの大きさ……」
ただ建物が犠牲になるだけなら、それだけならば……後で何を言われてもメル達は耐えられるだろう。
しかし、人に危害が及んだ場合……。
「でも……どうしたら、シュレムの攻撃もリアスのだって――」
「分ってるわ、勿論火の魔法も駄目……暴れられて火の粉が舞ったらいけないわ、だから……メルちゃん、リアスちゃん私の話を聞いてもらえるかしら?」
「何か……手があるのか?」
リアスの言葉に笑みを浮かべたライノは荷物の中から液体の入った瓶を取り出す。
「それは?」
「これを魔物に振りかけるの、植物の魔物に良く聞く枯れ薬よ、ただ確実にあの魔物にだけ当てないと精霊ちゃん達が苦しんでしまうの」
「じゃ、じゃぁ魔弾じゃ……周りに飛び散っちゃうんじゃ? ユーリママなら丁寧に運ぶこともできるだろうけど……私じゃそこまでは……」
安全に運ぶ手段はない。
そう思っていたメル……。
「俺もあの攻撃を掻い潜りながら魔物にだけ当てるのは難しいぞ……魔法で空を飛ぶのはどうだ?」
「それなんだけど、これはまだ出来てない薬なのよ、使う直前に作らないと効果が無いの。だから使う直前で薬を混ぜないといけない……だから四人には魔物がアタシに気が付かない様に動いてほしいのよ……」
「で、でもそれじゃ気が付かれた時ライノさんが危ないよ! それにそれじゃ暴れる可能性だって――」
メルの言葉にライノは微笑み――。
「そうね、だからメルちゃんには石壁で魔物を囲む壁を作って欲しいの……アタシの方は心配いらないわ、だってこれでも皆の仲間なのよ? 少しは役に立ちたいじゃない」
メル達は揃って首を傾げる。
少しはと言われても、少しどころかいつも世話になっていると思っていたからだ。
「だけど、確かにメルの魔法じゃ、倒した後が危ないか……」
「うん、石壁ですぐに支えれれば平気だけど……流石に二つの魔法をほぼ同時に使うのは無理だよ」
頷き合った二人はその瞳をライノの方へと向け――。
「頼む……」
「でも、無理だけはしないでね?」
「それはメルちゃんには言われたくないわ」
メルは笑われてしまい思わず頬を膨らませるのだが、その視線を巨木の魔物へと向ける。
「ライノさん……リアス、行こう!」
「「ああ」」
彼女達は再び巨木の魔物の元に居るだろうエスイル達と合流すべく駆け始めた。
ライノに呼び止められた場所から近い事もあり、メル達は程なくそこへと辿り着く。
「シュレム!?」
目に映ったのはたった一人、魔物の攻撃を耐え続けるシュレムの姿と……。
「それに、あれは精霊か……!」
巨木の足元をツタで絡め拘束する精霊の姿。
「エスイルちゃんね……リアスちゃん、メルちゃんも! 魔物の注意をお願いね!」
「うん!」
「任せてくれ!」
二人はそう言うとそれぞれの武器を構え、魔物へと近づき。
「シュレム!!」
メルは姉の名を叫ぶ、彼女が来た事に気が付いたシュレムとエスイル。
二人は笑みを浮かべ――。
「メル! 魔法であいつをぶっ飛ばせ!!」
「って駄目だよ! ここだと危ないよ!!」
エスイルの指摘を受け、心底面倒そうな顔を浮かべたシュレム。
しかし、それは先程メル達もライノと話した事であり――。
「シュレム、エスイル! もう少しだけ耐えて!」
メルはそう叫び、銀色の線を描いた。




