128話 幻惑の森
オオトカゲの魔物マタルラガルドの生息地を抜けた一行。
メル達は祖母ナタリアの故郷を目指し進む。
メル自身初めて訪れる場所であるが果たして無事見つかるのだろうか?
廃村アルムを駆け抜けたメル一行は幻影の森を目指す。
そこは入れば必ず迷い外へと出てしまうと言う呪いがかかった森。
リアスにはそう伝えられていたのだが、メルにとっては全く別の森であり……。
「それで、どう進めば良いんだ? メル」
リアスはその森を抜けられると言うメルに相談をし――。
「うん、まずは真っ直ぐ進もう」
メルはそう言うとシルフへと目を向けた。
『こっちから来たからあっちだよ!』
視線の意味を察したシルフはメルへとそう告げると目の前を舞い飛び先導してくれる様だ。
メルはその後をついて行くと仲間達はメルの後に続く……。
森は静かで、呪いの森と呼ばれるにしては心地よい風と草花の匂いがし、鳥のさえずりが聞こえ一同は思わず、安らぎを覚える。
「幻影の森と言われる割には平和な森ね?」
ライノが思わずそう呟くとメルはくすりと笑う。
そう、それは当然なのだと彼女は知っているからだ。
「どうかしたのか?」
「ううん、この森が平和なのは実は理由があるんだ」
それはメルだけではなくシュレムも知っている事だ。
だからなのだろう、彼女は警戒する様子もなく、メルの横へと並び歩いている。
それを見たリアスは少し眉を寄せるが――。
以前の事があったからかシュレムは慌てて首を振る。
「いや、これはちゃんと安全だって分ってるからだぞ!?」
「僕は知らないけど、どうして安全なの?」
二人の様子を不思議がる少年が首を傾げ聞くと、メルは誇った様な表情を浮かべ――。
「実はね、この結界……魔物とかも迷子になって森の外に出るの……ナタリアがそう言う風に作ったんだって」
「動物は大丈夫なのか?」
リアスは木の上に居る野鳥へと目を向け尋ねる。
「うん、魔力に反応するみたいなんだよ、森族や天族には魔力は無いけど、その時に心配されたのが魔物やタリムの王だったからそうしたんだって言ってたよ」
「そうなのか……そう言えばこの森に入ったって言った人も魔族だったな」
彼はそう言うと納得したかのように頷き、ライノもまた頷いた。
「そう言えば、幻の村に行ったって言ってた人が居たわね……その時はそんなのがあるわずが無いわって言ったけど、もしかしてここの事だったのかしら?」
そう言いつつ彼は物珍しそうに辺りを見回す。
「でも魔物まで居ないとは凄い魔法だな……」
「うん! 流石はナタリアだよ……でも動物は出るし、絶対に安全とは言い切れないんだけどね」
メルは笑みを浮かべそう言うがリアスは微笑み、首を横に振る。
「いや、それだけでも十分だ。警戒を怠る訳には行かないが助かるよ」
リアスは笑みを浮かべ、メルへとそう告げると彼女は顔を少し赤らめえへへと笑う。
「くそ……メルは俺の嫁なのに……」
「だ、だからシュレムお姉ちゃんは女の人で……」
「ユーリさんだって女性だろ!?」
エスイルにそう返すシュレム。
それを聞いてメルは何も言い返せるはずもなく苦笑いを浮かべるのだった。
それから暫く歩いていると徐々に森が開けてくるのが見え――。
「あった!」
メルはその街の入口である門を見つけると表情を明るくする。
「これがその街か……」
リアスもまたそれを目にし驚いたのだろう……呟き立ち止まると辺りを見回した。
そこは森に囲まれた街で森の木々より少し背の低い壁に覆われている。
「門兵が居ないわね?」
ライノは本来であれば居るはずの門兵が居ない事に疑問を感じ、門を見つめる。
彼の言う通り、本来であればそこには兵が居り、街に入る為の目的を伝え、通行料を渡す必要がある。
「無警戒……それとも警戒する必要が無いってことか? 森族や天族にも悪人が居ないとは限らないってのに……」
リアスの言葉は最もであり、メルも頷くのだが……。
この森は幻惑の森……そして、あのタリム近辺、好き好んでこの森に入る者は少ない。
「さ、行こう!」
メルは門の元へと駆ける。
この街に来ることは旅が始まった時から楽しみでもあったのだ……。
勿論、この街に来ることは他に手段が見つからなかった時の保険。
しかし、心の中では街に訪れる事を彼女は望んでいた。
曾お婆ちゃんに会えるかもしれない!
メルはその事を考え門へと近づく、すると――。
「止まれ!!」
彼女の頭上からは声が響き、メルだけではなく仲間達もその声の方へと目を向ける。
そこには弓を背負った男女の姿があり――。
「森族……ここまでは迷い込んできたのだろうが、なんの用だ?」
「門兵……?」
そう、門兵は其処に居なかった訳ではなく、塀の上に居り、槍や剣ではなく弓矢を身に着けていた。
「あ、あの……私はユーリママ……じゃなくてユーリ・リュミレイユの娘でナタリアの孫です。長旅の途中で数日その……とどまりたいのですが……」
メルは門兵に聞こえるように大きな声で告げる。
しかし、上の二人は互いに目を合わせ――。
「嘘ならもう少しまともな嘘をつけ」
「……へ?」
「確かにリュミレイユ家の特徴である夕日髪、でも絶対に居ないとは限らないわ……何でここがリュミレイユ家に縁のある場所か知っていたのかは分からない、けど……ただ一つ言える事があるわ」
相手の雰囲気が変わった事に気が付いたリアスは咄嗟にメルの方へと駆け寄り――。
「ま、待ってくれ! 逆に絶対に違うとは言い切れないだろ? メルは確かにリラーグから来てる、それに――」
彼はメルの腕を取り、そこにはめられた腕輪を上に居る門兵へと見せる。
「彼女の実家である龍に抱かれる太陽の証もある。これでもまだ怪しいっていうのか?」
「そ、そうだぞ! そっちが知らないのもメルが今までここに来れなかったからだろ!!」
シュレムは思わず門兵に向け叫び声を上げる。
すると、その声にびくりと身体を震わせた門兵たちは矢をつがえ――。
「さ、去れ!! そんな腕輪は簡単にまがい物が作れる!! 怪しい事に変わりはない!!」
「――なっ!?」
彼らの行動に驚いたのはシュレムであり、リアスはメルを庇う様に前に立つ……すると――。
「何の騒ぎ、何が起きているの!?」
女性の声が響き、門兵は慌てて矢尻をメル達から逸らす。
「怪しい者達が、リュミレイユの名を名乗りまして!」
その声を聞き、メルは尻尾を丸める。
本当なのに……本当に私はユーリママの子供でナタリアの孫なのに……。
たった一つの母と祖母との繋がりである髪をまがい物呼ばわりされ、メルは涙をこぼす。
そして、門兵へと目を向けると何やら話している様で――。
私はこの街に来たかったのに――曾お婆ちゃんに会いたかったのに――!!
その事を考え、思わずその瞳をつらせる。
すると、塀の上から先程とは違う女性が顔を出し――。
「――――ッ!!」
彼女は表情を変えるとすぐに後ろへと振り向き――。
「門を開けなさい! 早く!!」
「で、ですが……」
「早くしなさい!!」
女性の声が響き、彼女は塀の上から姿を消す。
「な、なんだ……」
「わ、わからない、だが……門が開いて行く、入って良いって事なのか?」
突然現れた女性に疑問を浮かべるリアスとシュレム。
「さっきメルちゃんを見て表情が変わったみたいだったわね」
「私を?」
開いて良く門へと目を向けると先ほどの女性がメルの元へと駆け寄り――その顔を覗き込む様にし、メルは思わず警戒をするように再び瞳を釣り上げるのだが――。
彼女は微笑むと――。
「ああ、やっぱり……その目ディーネによく似てる……」
そう呟くのだった。




