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122話 母達との別れ

 メルの意志は変わらない。

 そう判断したユーリはそれ以上止める事無くある物を手渡す。

 それはフィーナから渡すようにと言われた物……龍に抱かれる太陽の冒険者である事を示すもので……。

 腕輪を受け取ったメルとシュレムを寂しそうな瞳で見つめていたユーリはその手に残るもう一つの腕輪をリアスへと渡す。

 だが、彼は静かに首を振り――。


「お気持ちだけ受け取っておきます……俺は師匠との約束で旅人をしているので路銀の為であるのは分かっていますが、見習いとはいえ冒険者には見られたくないので……」

「そ、そうなんだ……」


 ユーリはきょとんとしながらリアスの言葉にそう返すとすぐにナタリアへと目を向ける。

 すると――。


「旅人は冒険者の元とも呼ばれている。遠い昔に酒場に舞い込んだ依頼を受けた旅人が自らを冒険者と名乗ってからは冒険者と呼ばれるようになった。しかし、君は今までどうやって旅を?」

「あ、ああ……一人分なら猫探しとかでも十分貰えるので街に寄った時にそいう言う依頼を受けてたんですよ」


 メルはその話を聞きつつ、もしかして仕事の件はリアスに頼めば何とかなったのではないかと思い。

 彼の方へと向く――すると、呆れた様な溜息をつくリアス。


「期待されてもこの人数じゃ無理だよ……流石に猫探しとかじゃ安いし依頼の数が少なすぎる」

「そ、そっか……」


 でも、この腕輪があれば……。


「メル、注意はしておくけど腕輪は龍に抱かれる太陽の冒険者だって示すものだよ、分かってるよね?」

「う、うん」


 母の言葉に強く頷いたメル。

 彼女は出来うる限り真剣な顔で返したつもりだったが……ユーリはどこか怖い笑みを張り付け――。


「だから、もうイアーナみたいな無茶はしたら駄目だよ? 街の人困ってたんだからね」

「………………ぁ」


 その事について触れられなかったことを思い出したメルはカタカタと震え始め……。

 尻尾は再び垂れてしまい、ゆっくりと母の顔を見て――。


「あの、その……あれは、それで……け、怪我人はでないように……」

「一歩間違ってたら死人が出てたし、そうじゃなくても魔物に襲われる可能性はあるんだ……それは分かってたよね?」

「ひ――っ!?」


 この後、メルを含む仲間達はユーリとナタリアにこってりと絞られた。

 ただ一人、その時には関係の無かったリリアを除いて……。





「じゃ、僕達は帰るからね」


 話が済むとユーリは立ち上がり、リリアの手を取るとそう口にする。


「え、もう……?」


 叱られたとはいえ母が帰ってしまうと知り、寂しさを隠すことなくメルが問う。

 するとユーリは微笑みナタリアの方へと目を向ける。


「今は我慢してるけど、これ以上いたら僕もナタリアもメルが心配で帰りたくなくなっちゃうよ……それだとフィーもきっとこっちに来ちゃうし、メルが心配していた風になってしまうかもしれないからね」

「そ、そうだけど……」


 そうは言っても母との別れをこの短い期間で二回もしなくてはならない。

 そう思うとメルは途端に悲しくなり――。


「戻ってくるんでしょ? それにクルムさんにも言われてる。どうにかお金を工面するから故郷に連れて行ってほしいって……」

「ママが?」


 クルムと言う名を聞き反応をしたエスイルの方へと目を向けたユーリ……。


「うん、エスイルのお母さんはちゃんと約束を守ろうとしてる。その時にデゼルトにお願いできる人が居なかったら困るでしょ?」


 そして、彼女は我が子に再び瞳を向け、言い聞かせるような優しい声で告げると――。


「だ、だったら私は今ついて行っても問題は無いだろう?」


 メルの祖母は自身の娘に瞳を向ける。

 しかし、目を向けられた母の方は溜息をつき――。


「ナタリアが居なかったら空で襲われた時にどうするの? 僕は空でもある程度戦える……それでも弓や魔法にも限度があるよ」

「そ、そうだな……そうだった……」


 ユーリの言葉にがっくりと肩を落とすのだった。

 そして、メル達に再び目を向けると――。


「リリアちゃん、それにカルロス君もリラーグにおいで」


 二人へ向け手を差し出す。

 リリアその手を取らずともユーリの方へと歩いて行くが、カルロスは――。


「……オイラはやっぱり足手まといか?」

「そんな事ないよ!」


 彼の言葉にメルはすぐに答えた。

 それにはリアス達も頷き――。


「カルロスが居なかったらあの強行策は出来なかった……」

「ここまで来るのにもかなり時間が短縮されたしなぁ!」

「そうね、それに馬車が無かったらメルちゃんは死んでたかもしれないわ」


 皆の言葉にこくこくと首を縦に振るエスイル。

 そんな彼女達の姿を見て、カルロスは笑みをうかべた。


「そうか……」

「うん! それにこの髪飾りもリラーグならきっと売れるよ!」


 メルはリアスに買ってもらったそれへと触れると若干顔を赤らめつつ、満面の笑みで彼へと伝えた。


「チッ……」


 何故かシュレムが不機嫌そうだが、メルはあえて気にしない事にし……カルロスへとその顔を向けると彼は満足そうに頷き――。


「いや、本当にお嬢様だったとしたら、うならせた一品って謳い文句が使えるな! ちゃんと帰って来いよ……次は皆にぴったりの装飾品を作って置くよ」

「はい!」


 その言葉と共に頷いたメル。

 それを見届けてから母達は歩き出し――。


「もし、自分達で無理だと思ったらちゃんと連絡して、戻って来る事……そこからは僕たち引き継ぐから、約束だよメル」

「分かった……約束する……」


 ユーリはナタリアの手を引っ張りつつ部屋の外へと向かい――。


「じゃ、気を付けてねメル、皆――」

「ユーリママも帰り気を付けてね……」

「うん、ちゃんと気を付けるよ」


 そう言葉を交わし、メルの母と祖母……そして、カルロス、リリアはその部屋から去って行った……。

 残されたのはメルを始めとする五人だ。


「……エルフの腕輪………」


 メルは腕にはめたそれを見下ろし、そっと手を触れる。

 母の手からこれを渡して来たと言う事は恐らく旅の路銀の為だろう……。

 しかし、それだけならお金を工面してくれていたはずだ……それでも腕輪を持ってきた理由はメルには一つだけ思い浮かんだ。


 少しは認めてもらえたのかな?


 そう思うと夢であった冒険者が大きく近づいたと彼女は喜ぶ反面――。


 これで戻れれば私は冒険者になれるのかな? ううん、なって良いのかな?


 母より告げられた言葉……無事リラーグへと戻ることが出来たらメルは晴れて冒険者になれる。

 しかし、彼女の脳裏に浮かぶのは精霊の苦しむ様子だ。


 もし……もし、冒険者になったら私は酒場の仕事を請け負わないといけない。

 そうなったら……皆が苦しんでても助けられないかもしれない……ううん、そもそも私には精霊を助ける術なんてない……。


 メルは腕輪を見つめ続けていたが……その瞳は全く別のモノを捕らえていた……。


 私はママ達と同じ誰かを助ける冒険者になりたい。

 それは今も同じ……でも、本当に冒険者になって……良いの、かな?

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