121話 受け継いだモノ……
リラーグへと戻るように言われたメル達。
しかし、メル達にはすでに覚悟があった。
それは、どうやらその場に居ない母フィーナには分かっていた事だったようだ……。
「メル……」
「…………わ、私は言った言葉を変えるつもりはないよ!」
ユーリは納得をしてくれたようだが祖母ナタリアに名を呼ばれたメルは少し遅れて思いを放つ。
その際の言葉は少し躓いてしまったが、それでもメルは祖母の目から逸らさないように見つめた。
「ユーリママの魔法じゃ精霊を元気に出来ても生み出すことは出来ないの! だから、誰かがエスイルを連れて行かなきゃいけないなら私が行く!」
それはただのわがままとも取れる言葉……。
しかし、メルはそのつもりで口にした気などなかった。
彼女の中にあるのは苦し気にメルの名を呼ぶドリアードの姿だ。
そんな精霊達の姿を見た少女はもう後に引くつもりなんて無かった。
「しかしメル、分かっているのか? フィーは意見は変えんと言っていたが危険な旅に――」
ナタリアはそう言ってメルへと詰め寄ってくるが、それを制したのはユーリだった。
「ユーリ……ママ?」
「メル……僕もね、昔ナタリアに怒られた事がある……呪いを解くって言った時だ。勿論それを言ったらきっとナタリアと戦うって覚悟はしてたし、実際に戦った……それでも僕はそうしなきゃって思ったんだ」
母は何処か懐かし気な表情を浮かべ、笑みを浮かべると……メルへと問う。
「……メル、精霊を助けたいって言ってたけどそれをやり遂げる覚悟はあるの?」
「……うん」
もしかしたら認めてくれたのではないのか? それとも別の意味があるのだろうか? 思いもよらぬ母の言葉にメルは一瞬迷ったが、それがナタリアを納得させるためだと気づくと頷きと共に一言発する。
何が起きても、決して旅を諦める訳にはいかない……確かに精霊が滅んでしまえば世界の危機だと言う事は分かっていた。
だが、そんな事よりも――。
「私は……あんな苦しそうな皆を見てられない!」
「そっか……」
「ユ、ユーリ? ま、まさか本当にメルを行かせるつもりじゃないだろうな!? ユーリだって反対してたじゃないか!!」
ナタリアの慌て様はメルも初めて見る物だったが、ユーリはそうではないのだろうか?
微笑んだまま彼女に振り返ると――。
「前にフィーも言ったけど、メルは僕の子だ。もしここで駄目だって言っても戦って止める事になるよ? 僕はそれは出来ないよ……」
「そ、それは……私にも無理だ……」
「へぇ……僕にはやったのにメルには無理なんだお母さんは……」
目を逸らしたナタリアに声色を変えて問うユーリ……。
その声にびくりと身体を震わせたナタリアは――。
「い、いやあれはだな! ユ、ユーリ……!! こういう時だけ母と呼ぶのはずるいのではないか!? そ、それに……そ、その……し、仕方が無いだろう!?」
「そう言う事にしておくよ……」
呆れた声の母はそれ以上の追及は辞めたのか、ゆっくりとメルや仲間達へと目を向け――その頭を下げる。
「娘をよろしくお願いします」
それだけを伝え、再び頭を上げると――。
「つ、ついて行っては駄目なのか?」
「今回の事も考えてついて行かない方が良い……僕達を恨んでる人は居るはずだよ」
「そ、それは……そうだが……」
心配そうにナタリアに見つめられ、メルは思わずついて来てほしいと言いたかったのだが――。
「その、お願いがあるの……」
そう切り出した。
「お願い?」
「うん、ここに居るカルロスさん、この人はイアーナで私達を助けてくれた人なんだ……シルトさんに掛け合ってリラーグで商売が出来る様にしてほしいの……それと――」
メルは自分が抱いている少女へと目を向ける。
「リリアちゃん……怖い目に遭って来たから、安全な場所に……」
これかも困難がメル達を襲うだろう。
リリアも戦えはするはずだが、やはり恐怖の方が勝ってしまうはずだ……そう思うメルは少女の頭を撫で母達へと告げる。
「分かった、その子は僕達で預かるよ。それとお店の場所についてはきっと大丈夫、シルトさん今回の事で大分反省してたから……」
「全くだ……最初から言ってくれていれば、メルがここまで頑なにならなかったのになっ!」
今回の話で相当な怒りを買ったらしいシルトに申し訳なさを感じたメルは笑みを引きつらせる。
でも、良かった……。
これでカルロスさんとの約束は果たせるし、リリアちゃんも安全だよ。
「って、オイラ達ここで分かれるって事か?」
「この先は馬車が通れない、あの中には商品も詰まっているんだろ? だったらメルの言葉に甘えたらどうだ?」
「そうね、リリアちゃんもこれ以上危ない目には遭わせられないわ」
ライノの言葉に頷く一行……。
「そうだね、そのリリアちゃんとカルロス君は僕達が――」
しかし、ユーリがそう言った時やはりリリアはギュッとメルに抱きつき……。
「リリアちゃん……」
「絶対に……無事帰って来てね? お姉ちゃん……」
しかし、彼女もついて行けないと理解はしていたのだろう……。
そう告げると何かを求める様にメルを見つめ――メルは彼女の頭の上に手を乗せゆっくりと撫で始める。
すると、リリアは気持ちよさそうに目を細めた。
「大丈夫、絶対に戻るからね」
えへへ……お姉ちゃんか……。
リリアちゃんに言われると何か可愛い妹が出来たみたいで嬉しいな……。
メルは旅が続けられるとほっとしてか、その表情を緩めつつそう思っていると――。
「オイラはメル達について行くよ……」
「は? カルロスお前何言ってるんだよ! 折角メルが口添えしてくれって頼んだんだぞ!!」
「それはまぁ……そうだけどさ、そうしたらお前達どうやって金を稼ぐ? 冒険者でもない、依頼も受けられない、商品はあっても商売の仕方だって知らない! そんなんでどうやって!」
彼の言う事は最もだ。
しかし――それを見通していたのか……。
「そう言うと思って大丈夫だよ……フィーにこれを渡されてたからね」
「え? それって……」
母の言葉に再び目を向けた彼女の瞳に映った物は――。
「エルフの腕輪!? ユ、ユーリさんそれってつまり!!」
それの意味をするシュレムは驚き目を丸めている。
それもそうだろう、それは龍に抱かれる太陽の冒険者の証であり、エルフの使者の仲間である事を示す物。
リラーグ……いや、メルン地方においてその腕輪の価値は見た目よりも重い物だ。
それはユーリの手には三つの腕輪があり――。
「メルとリアス君、それに勝手に出て行ったシュレムの分だって言ってたよ……勝手に持ってきてたのはびっくりしたけど、こうなるってフィーには分ってたんだね……」
ユーリはそれを複雑そうな目で見つめた……。
「でも、それは……」
それを受け取ると言う事は冒険者として認められたと言う事だ。
メルはその事に思わず声を弾ませる。
「冒険者として認めるのはちゃんと帰って来てから、それまでは見習いだよ……だからちゃんと戻って来る事良いね?」
「うん!」
メルはそれでも構わないと思ったのだろう。
頷くとその腕輪を手に取った……。




