114話 攫われた情報屋
情報屋のイーギが攫われた。
そして、メルの元へと来たジャッドによって伝えられた言葉はまた人を巻き込むのか? と言う物だった。
しかし、メルはその言葉を聞き困惑するもあるいくつかの感情が心の中に生まれた。
助けなければという強い想いと共に彼女の中に生まれてしまったそれは……果たしてなんなのか?
その後すぐにメル達はジャッドから何があったのかを聞き出す。
彼が言うにはイーギはすぐに情報収集に向かったのだが、外に出て少し歩いた所を男に襲われたとの事だ。
そしてその男は――。
「若い男性で父親の為だって言ってたんですか?」
「ああ、父さんとか言っていたよ……それに間違いない、あの男は街の外の家の者だ……」
彼はそう言いつつがっくりと肩を落とし……。
「これでも元冒険者なんだ……なのに何も出来なかった……あの男が筒のような物を出した時、何故か嫌な予感がしてね、動けなかったんだ」
それは彼の冒険者としての勘なのか、なんなのか……それは分からなかったが、メル達は驚いた。
その筒は間違いなくあのミミズが入っている物だろう……。
「そうだったんですか……」
「ジャッドさんの判断は正しい……その筒の中にミミズみたいな生き物が容れられてる」
「ミミズ? ああ、地喰い虫の事かい?」
ジャッドが返した言葉に一同は頷き――。
「そのミミズが体の中に入って人を操るの……わたしも……そうやって……」
「……人を操るミミズ……いや、もしかしてそれは動物の凶暴化に関係が?」
「はい、聞いた話だと恐らく同じものだと思います」
メルの言葉に唸るジャッドだったが、すぐに首を振ると――。
「それも気になるが、今は旦那様だ! 君たちに伝えろと言われたが冒険者にも――」
「いえ、私達が行きます……それにリラーグの冒険者はこっちに来てくれますから」
母はきっとここに来てくれる……それを信じメルは告げる。
だが、相手もそれを望んでいるのは分かっているのだ……。
「私達でイーギさんを助けます」
メルはそう言うとリリアとカルロスへと目を向ける。
カルロスさんは危ないし、リリアちゃんもあの状態だと身を護れないかもしれない。
ここは待ってもらった方が……。
そう思いメルがジャッドへと頼もうと口を動かすとリリアに服の裾を引っ張られ――。
「リリアちゃん?」
「一緒が良い……」
「でも……」
メルは危ないんだよ? 冒険者の人と一緒に待っててねと少女に告げようと思っていた。
しかし、リリアは真剣な瞳でメルを捉え――。
「案内が必要だから……お姉ちゃんも一緒に来てほしいから武器をくれたんでしょ?」
「…………そうだったね、分かった。でも、私達から絶対に離れないでね」
念を押したメルは仲間達へ視線を向ける。
「イーギさんを助けに行こう!」
彼女の言葉に頷く仲間達……しかし――。
「いや、助けるってそれはありがたいが君達では危険だ!」
「でも、他の冒険者を呼んだらイーギさんがどうなるか分からないぞ?」
「そ、それは……」
リアスの言っている意味に気が付いたのだろうジャッドは口をもごもごとさせ――。
「貴方はもしもの時の為にカルロスちゃんと一緒に信頼できる冒険者を雇って街で待機してくれるかしら?」
「もしも……とは?」
「何でもそいつが別の奴と手を組んでたって時で良いのか?」
「ええ、そうよ」
ライノは片目を瞑り微笑んだ。
それからメル達はカルロス達と離れ街の外へと向かう……。
リリアのお蔭で迷うことなく家の近くへと辿り着いた彼女達。
「あの中にイーギさんが?」
「入って見れば分かるだろ? さっさと行こうぜ」
声を潜めつつメルがした問いにそう答えたシュレムは片手を肩に置き腕をぐるぐると動かす。
そんな彼女に溜息をもらすリアスは――。
「待ってくれ……そんな安易に突っ込むな」
「だけどよ、相手はもう来ることは分かってるだろ」
リアスの訴えに今度はシュレムがため息交じりでそう告げた。
「確かにそうかもしれないわね……メルちゃん、どうする?」
「……正面から行こう?」
「メルまで……」
メルの言葉が予想外だったのかリアスは驚き声を上げる。
対し、シュレムは満面の笑みを浮かべ――。
「流石メル! 分かってるなぁ!」
「い、いや……人の気配が周りに無いし……」
メルは近くに居る精霊ドリアードへと目を向ける。
するとドリアードはメル達の真似をしているのだろうか? 隠れるようにしていては両腕で円を描くと口を大きく動かした……。
恐らくその意味はメルが最も聞きたい気配の事だろう……。
「ドリアードも大丈夫だって言ってるよ」
「そ、そうだったのか……でも正面からか……」
そう渋るリアスにメルは笑みを浮かべ――。
「大丈夫、私に考えがあるから――」
何か良い手があるというような風に口にする。
「考えってメルお姉ちゃんどうするの?」
「うん、エスイルはまずドリアードを召喚してライノさんとリリアちゃんと此処に……」
「わたしも此処?」
不安そうにしているリリアの頭を撫でつつメルは頷き――。
「リアスとシュレムは左右に分かれて合図を待って……それに合わせて奇襲をお願い……合図は――相手の叫び声かな?」
メルはそう言いつつ腰に身に着けていたアクアリムをリアスへと手渡す。
「メル!? 剣を――」
「奇襲の時に返してね?」
「ちょっと待てメル! いくらなんでも丸腰じゃあぶないだろ!?」
焦るシュレムの言葉にメルは笑みで返すと荷物の中からナイフを取り出し、それを腰へと見に付ける。
そんな事は分かっている。
だが、メルは一応は体術も使える……そう、母ユーリとは違い、母フィーナより受け継いだ才能は確かにあるのだ。
「大丈夫……きっとうまくいくから」
「うまくいくって納得いかないぞ!? 武器無しで――」
「そうね、いくらなんでも危険すぎるわ」
「何度も言うけど大丈夫……だって、あの人達はユーリママを知ってるんでしょ? 知ってるなら裏をかけるはず」
メルの言葉に一同は呆けるがすぐにエスイルとシュレムは何かに気が付き――。
「で、でも……メルお姉ちゃん! それでも武器が無いのは危ないよ」
「いや……待てよ確かにそれなら裏をかけるのか? 本当に大丈夫なのか?」
困惑するエスイルと納得しかけているシュレム。
だが、他の仲間達はその理由が分からず。
「お姉ちゃんどういうこと?」
リリアはメルへと問い。
「簡単な事、ユーリママは人を傷つけるのが大の苦手……それは魔法にも表れてるし、剣だけを使ったら私でも勝てる」
そう、それは母の弱点でもあり、同時に自身や仲間、人々身を守る事に長けているという長所にもつながる。
だが相手には長所であるとは取られないだろう……。
「……でも危険だメルは声を変えられないだろ?」
「だね、だからあまりしゃべれない……」
メルはシュレムの言葉に頷くと姉は溜息を洩らし――。
「旦那、爆弾があったら一つくれ……もしもの時助けるためにな……」
「わ、分かったわ……話を聞いている限りだともう決まってるみたいだし、とは言っても危険ならすぐに逃げる事、リリアちゃんを先に逃がすためにお願いね」
「……うん」
シュレムはライノから筒のような物を受け取り――リリアはライノの言葉に頷く――。
リアスは納得できてはいない様だが、言葉が無いと言う事は他に良い案が浮かばなかったのだろう。
「また無理を……」
「ぅぅ……で、でも――」
「はぁ……とにかく危険なら俺の方へ走って来てくれ、今度こそは助けて見せる」
しゅんとするメルにリアスはそう告げ――メルはその顔を上げると――。
「分かった、お願いね」
申し訳と嬉しさを感じつつそう答えた。




