109話 街中の戦い
メル達は空き家へと向かったが大した情報は得られず外へと出る。
すると、そこに現れた二人の男、一人はただの貧困民だろうか? 問題はもう一人……。
その男はカルロスの店に現れた一人でメル達を狙って来たみたいだ……。
男はその顔を歪め剣を振るうと大地を蹴り……剣を振り上げるとメルへ向け振り下ろす。
だが……。
速い……でも、追えない訳じゃない!!
メルはアクアリムの振るい銀線を描き――男の放つ凶刃を弾く!
「なっ!?」
それに驚いたのは仕掛けてきた男であり、彼は目を見開きつつも体勢を持ち直すと再び刃は線を描くが……やはりメルはそれを弾く……。
力の差は歴然としているように見えたが、メルは彼の剣捌きに疑問を持つ……。
なんだろう……この人思ったより弱い? ううん、手を抜いてる?
そう、メルが感じた疑問……一人で仕掛けて来るにしては弱すぎる。
そしてどこかワザとらしいのだ……。
まるで何かを待つかのように……ワザと防がれる攻撃を繰り返しているようにみえ――。
「――っ!!」
メルは何か嫌な予感がし振り返る。
そこにはリリアとエスイル……そして先程怯えていた男性が居るだけだ。
リリアちゃんが何も言って来てない、と言う事はこの人はあんぜ――。
「お姉ちゃん!!」
メルがほっとしたのも束の間、リリアの叫び声が響き渡った。
「馬鹿か!? 戦いの中、敵に背を向けるなんてな!!」
笑い声が背後から迫り、メルは慌てて男の方へと顔を向けるが――。
「あっ!?」
先程とはまるで違う……彼女はそう感じつつも剣を弾こうと振るうのだが、今度は身を守ることが出来ず――。
「安心しろ殺しはしないからなぁ!! ハハハハハハハハ!!」
男の笑い声がその場に響き渡った……。
嘘!? さっきのは私を不安にさせるための罠だったの!?
それへと気が付いたメルだったが、もう時はすでに遅く――彼女の剣は押され身を護る事は敵わず。
それでも歯を食いしばり何とか耐えようと刃に力を籠める。
だが、それはあまりにも無意味で……。
「お前さえ倒れればあとはただのガキだ!!」
男がそう叫んだ瞬間、風が吹き荒れ……メルはその手に持つアクアリムに感じる重さが若干和らいだことに気が付いた。
それは男も同様だったのだろう……。
「な……に……!?」
今度こそ本当に驚いた表情を浮かべた男は信じられないモノを見ている様にある一点を見つめ――。
メルはそれを目にせずにも何が起きたのか察した。
いや、寧ろこの場で風を起こすなど誰が出来るだろうか?
「エスイル! シルフ!!」
メルは二人の名を呼び目を向けるとエスイルは頷き、シルフは定位置であるメルの頭へと舞い降りる。
「精霊……精霊召喚だと!?」
何が起きたのか理解をした男はエスイルへと顔を……そして刃を向けるが――。
「シルフ!!」
メルは相棒の名を呼ぶと彼女は風を産み再びその刃を防ぐ……。
「クソッ!! 精霊魔法は弱いんじゃないのか!?」
攻撃が全く通らない事に驚く男だったが、それもそのはずだろう精霊魔法は魔族の魔法の元となった物ではあるが、その効果には大きな違いがある。
魔法では失敗すれば自身の命だけではなく、周りにも被害が及ぶ危険があるが精霊魔法に関しては精霊自身がその力を貸す。
魔法の元であるから強いという訳ではなく、術者の実力に左右される事無く一定の力しか生まない。
だというのに……。
「風で剣を押し返す手助けだと!? そんな事できるはずが無い!!」
男が叫ぶようにシルフが先ほどから産む風は突風の様だ。
それも一定の場所へと正確に撃ち込まれている……それは彼の知る精霊魔法とはかけ離れたものだった。
『メル、メル? あの人何か勘違いしてるよ?』
実体化した事で男が言っている事が理解出来る様になっていたシルフは小さな手でメルの頭をぽんぽんと叩き問う。
メルはそのくすぐったさに耐えながらも――。
「それならその方が良いよ」
そう答えた。
そもそも必要な力を借りるだけの精霊魔法と精霊そのものに頼む召喚では違う……。
何せ自然を司る精霊達は本来嵐を起こし、地を揺らし山々から火を産む……そんな恐ろしい一面もあるのだから彼女達の力がそれ以下と言う事はありえない。
「そうか、お前が……お前が精霊の魔法に合わせて魔法を使ったんだな!? 答えろ!!」
男はメルに刃の切っ先を向け、見当違いの事を言っているがメルはそんな事はどうでも良く……。
「とにかくこれで四対一だよ……まだ戦うの?」
彼女はそう言うと祖母の様に吊り上がった瞳で男を捕らえ……ゆっくりとアクアリムを構え直す。
「…………」
すると男はギリリと歯を食いしばり、剣を鞘へとしまい。
「不利なのを分かってて戦う理由はない、今日の所は此処で失礼させてもらうよ……」
「っ! 逃がさない!!」
このまま逃げられてはたまらない、そうメルは思い水の刃を足元へと飛ばすが……それは容易く避けられてしまい。
「その男以外にも人は見てる……そろそろ憲兵が来るはずだ……君も剣をしまった方が良いんじゃないかな?」
彼はそう言うと駆け寄ってきた憲兵に目を向け――。
「やぁ憲兵さん」
「何があった? ……いや、子供相手に何をしたんだ?」
憲兵はメル達を見るとすぐにその顔をこわばらせ男に問う。
だが、彼は笑い声をあげ――。
「いや、ちょっとね……あそこのボウヤが手伝ってた店の薬……効果が思ったほどではなかったので返金を求めたんですが……」
「薬だと?」
「いえ……詐欺と言ってしまって掴みかかってしまいましてね……そこをあの女の子に怒られていたところでした……いやいや大人げない」
彼はそう言うとメル達へ頭を下げ――。
「効果は少しはあったんですし詐欺は申し訳なかった……返金何て求めてすまない」
「…………」
憲兵の射貫くような視線にも動じず男はそれだけを残すと去って行こうとしメルは慌てて追おうとするのだが――。
「君、あの男には近寄らない方が良い……」
「え……?」
憲兵に止められ、メルは立ち止まりつつ彼の方へと目を向ける。
「アイツは裏で奴隷商をしているとの話もあるんだ……証拠が掴めず踏み込めないけどね、可愛い娘さんに何かあったら親御さんが心配するだろう……それより、さっきの話は本当かい? 何かされそうだったんじゃないのかい?」
急に止める憲兵に少しの不安を感じリリアの方へと目を向けるメルだが、彼女はふるふると首を横に振る。
それが意味するのは敵ではないと言う事だろうとメルは感じ――。
「いえ、その……怪我も無いですから」
そう答え……男の去って行った方へと目を向ける。
「そうか、それなら良いけど落ち着いたらもう一度詳しく話してくれるかい?」
「は、はい……」
メルはその言葉に頷きつつ、先程の男に対する不安が拭えなかった……。
襲って来ておいてあっさり引くなんて……あの人は何がしたかったの?




