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98話 失敗か、成功か……

 メルは魔法の式を書きだし、机とにらめっこをしていた。

 しかし、元から間違っているのでは意味のない事に気が付きライノの力を借り魔法を成功させる。

 そして、ついに本来の「ヒーリング」を完成させたのだが……。

 リリアの瞳は完全には戻らなかったのだった……。

「お姉ちゃん、お買い物……行こ?」


 メルがリリアの瞳を治してから数日後。

 自身の傷も治したメルは机に向かっていた……その理由は勿論、リリアの瞳に色を取り戻す為だ。

 だが、その顔は酷く疲れていて……。


「ごめん、もう少しもう少しやらないと……」

「でも……お姉ちゃんずっと……」


 リリアが泣きそうな顔を浮かべている。

 だが、メルはにっこりと微笑むと――。


「大丈夫、だからすぐにその目を治してあげる……」


 泣きつかれて頼まれた訳じゃなく、ただメルがどうしても治したいのだ。

 だが――その様子は明らかに無理をしており……。


「もう、良いの!」


 リリアは堪らず悲鳴のような声を上げる。

 それもそうだろう、もう治ったとはいえ、メルに傷を与えたのはリリアであり、本来ならば目を治してもらう義理なんて言う物は無い、少女はそう考えていたのだ。


「でもそのままじゃ……」

「お姉ちゃんはちゃんと目を治してくれたよ?」

「ちゃんとは――!!」


 治せていない。

 だからこそメルは納得できていないのだ。

 メルの瞳には色がある、だからこそ色が無いと言うのが怖く、不安だろうと考えていた。

 しかし、リリアは首を振り……。


「お姉ちゃんあのね、聞いて……くれる?」

「な、なにを?」


 リリアの言葉に耳を傾けるメルは頭がはっきりとしない。

 こんな状態でまともに魔法が作れる訳が無い、そんな事はメル自身も理解していた。

 

「見えないって不安だった……そこに誰かが居るってそれが誰だって分かるのは私がそう言う修行をしてたからだからなの……」

「…………」

「だけど、もしかしたら私が思っているのと違うかもしれない、そう思うと怖かった……だから、色が無くても見えるのがうれしいの……」


 リリアは泣きそうな顔でメルは罪悪感だけがその胸に残る。


 そうだよね……私の家の所為でこの子は視力を失った……。


「でもね、一番怖かったのは……平気で人を殺せてた自分なの」

「…………え?」


 メルはその言葉を聞き、垂れていた尻尾を上げる。

 言っている事が分からないのだ……何故ならリリアは――。


「記憶が……無いんじゃ?」

「ごめん……なさい……本当はずっと覚えてた……その事の方が怖くて……でも、わたし……もし話したらもう……」


 大粒の涙を流すリリア。

 そんな彼女の頭へと手を乗せたメルは幼い頃自分がしてもらったようにゆっくりと撫で始める。


「大丈夫、大丈夫だよ……もし、覚えててもそれはリリアちゃんを利用した人の所為」


 そしてそう言うが、メル自身それで彼女が救われるとは思えなかった。

 メルもまた人を殺めている……助けるためだとはいえ、犯罪者相手だったとはいえ……それはメルがやった事に変わりはない。


「わたし……人を殺し……笑いながら……」

「………………」


 それはユーリの言っていた違いなのだろう、人殺しとそうなら無い者との差……。

 だからこそ、メルはそれを告げる事が――。


「あのね、リリアちゃん……本当の人殺しならミミズが出た後でも狙って来たと思う……」

「でも……」

「でもリリアちゃんは私の怪我を心配してくれた……だから、その辛い気持ちは忘れちゃ駄目だよ? でも、そのままじゃ辛いだけだから……教えて?」


 そう告げることが出来た。

 リリアは操られていただけ……例えそうでも彼女にとってはそれがその時感じた本当の自分だったのだろう……。

 今更無かったことには出来る訳が無い、だが……彼女達の背に隠れている臆病者を叩く好機だとメルは考えた。


「お、教えるって?」

「リリアちゃんを利用して……私のお母さんにちょっかいを出そうとした人を捕まえるの」


 メルは上手く話を逸らされてしまったと苦笑いをしつつも尻尾をゆらゆらと振る。

 それに今思えばリリア以外の仲間達もメルに休むように何度も告げて来た……だというのに、それを聞かず頑なに魔法を作ろうとしていたのだ。


 そうだ……私が納得出来なくても、リリアちゃんがそれで助かったならそれが一番なのに……。

 私はユーリママじゃない……完璧に治す事は出来ない、そう思ってたのに……。


「で、でも! そうしたらお姉ちゃんまた!!」


 焦るリリアはいやいやと首を振り、メルの身体に拳を当てる……その場所は彼女が傷つけた場所でもあり、魔法のお蔭で癒えたとはいえメルは未だに残る傷痕を思い出し、少女の悲しそうな表情を見て……。

 彼女にぐいぐいと押されると思わず倒れてしまいそうになる。

 ……自分よりも幼い少女にあっけなく押し倒されそうになったことでようやく自身が無理をしていた事を認めたメルは……自嘲気味に笑みを浮かべ彼女に告げた。


「ごめんね、リリアちゃん……言っておいてなんだけど、今日は少し休むね?」

「え?」

「その、お買い物は起きてから行こう?」


 申し訳なさそうにメルはそう告げるとリリアの表情は明るくなり――。


「――うん!」


 笑みを浮かべ首を縦に振った。

 メルはそれを見ると何処か申し訳ない気持ちになりつつベッドへと入りる。


 なんか、無理するなってリアスに言われてたのに……。

 私は結局……ぅぅ、怒ってるよね? 後で謝った方が……うん、そうしよう。


 メルがそう思いつつ、横になるとベッドの中に誰かが入ってきたようだ……と言ってもその部屋にはメルの他に一人しか居ない。


「リリアちゃん?」


 彼女の名前を口にしたメルの横には笑みを浮かべたリリアが居り――。


「ライノさんから、見張って置けって……言われたの」

「…………」


 リリアの言葉を聞いて思わず顔を引きつらせたメル……。


 もしかして、ライノさん……リリアちゃんなら私を説得できると思って?

 でも、なんでリリアちゃん? リアスやエスイル……それにシュレムだっているのに……。


 そんな事を考えているとガチャリと言う音共に扉が開かれ――。


「あら?」


 声からしてライノが入ってきたのだとメルは理解し、ゆっくりと扉の方へと目を向ける。

 そこには予想通りの男性が立っており、彼は二人を見るとにっこりと微笑んだ。


「やっぱり、リリアちゃんに頼んで正解だったみたいね」

「や、やっぱりって……」

「ほら、メルちゃんに良く懐いてるし、可愛い妹みたいでしょ? だったら言う事聞くかと思ったの」


 ライノの言葉にメルはそんな事……そう思ったが、結局彼の思惑通りになっているのに気が付く。

 恐らくはライノの思った通りとは違うだろう、だがメルは休むことを選んだ。

 そうさせたのはリリアに他ならないのだ。


「全く、手間をかけさせないで……」

「す、すみません……」

「そう思うなら初めからね? 勝手だと思うかもしれないけれどアタシは貴方達の保護者って思ってるんだから」


 そう、それがライノがメル達について来てくれた理由。

 子供だけでは心配だからと言ってくれたからこそ彼が居るのだ。


「はい、これ飲んでおきなさい」


 ライノはそう言って一粒の薬と水を差しだして来た。

 メルは起き上がりそれを受け取ると薬を口に含む……。


「っ!? ――――っ!!」


 そして、顔を歪め何かに耐える様な表情を浮かべ……。


「お姉ちゃん!?」


 その様子に驚き、泣きそうな顔でリリアがメルを呼ぶ――。

 だが、メルはそれに答える事無く、水を一気に飲み干すと……。


「ぅぅ……なに、これ……苦すぎる……」

「その分良く聞くわよ? ただし、言う事聞かない罰として苦味はおまけさせてもらったけど、ね?」

「ライノさん酷い……お姉ちゃん大丈夫?」


 口元を覆うメルはゆっくりと首を縦に振る。


「だ、大丈夫……これで休めば良くなるから……」


 ライノに文句を言いたい所ではあるが言った所でメルが悪いのは変わる事が無い。

 そもそもライノ以外の仲間にも無理をするなと言われているのだから、それを破ってしまった事にメルは罪悪感を感じ――。


「だから、ちょっと寝るね?」


 無理に笑顔を浮かべるとリリアの頭を撫でつつそう言うと、ベッドの中へと潜り込み……。


「そうそう、ちゃんと休んでね、リリアちゃんもうちょっと見ててあげてね」

「…………」


 ライノの言葉に答えないリリアに疑問を持ちメルが目を向けると頬を膨らませ横になった少女に抱きつかれ――。


「リ、リリアちゃん?」

「ライノさん、嫌い……」


 そう不機嫌そうに言うとメルの胸へと顔を埋めた。


 なんか、私も似たような事言った覚えがあるなぁ……。


 昔の事を思い出し、メルはどこか懐かしい気持ちになりつつもゆっくりと瞼を閉じた。

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