表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第一部完結!】貧乏令嬢、第一王子の騎士になる  作者: 日之影ソラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/39

大天才の素顔①

 選抜試験は異例の事態となり、会場中がざわついた。

 王子直々に告げられた不合格。

 しかし、一人だけ異を唱え、王子に挑んだ者がいたという。


「ブレイブ家って落ちこぼれじゃなかったのか?」

「殿下に善戦してるぞ」


 ブレイブ家を知る貴族たちは、彼女のことを侮っていた。

 所詮は没落貴族の令嬢。

 ここに残れたのも偶然か、あるいは奇跡。

 しかも女性であることは、肉体的なハンデを抱えている。

 それなのに……。


「すごい……」


 彼らは目撃する。

 大天才と打ちあい、未だ倒れることのない一人の女騎士の姿を。

 圧倒的才覚の差に、皆が王子を恐れた。

 勝てるはずがないと。

 最初から諦めてしまっていた。

 彼女が違う。

 挑んだ。

 圧倒的な差を知りながらも、剣を握って戦っている。

 その姿に、多くの人は感銘を受けた。


「チッ……」


 中には快く思わない者もいた。

 しかし多くの者たちが、彼女の努力を認め始める。

 これは始まりである。

 一人の大天才を隣で支える騎士がいる。


  ◇◇◇


「戻りました」


 試験終了後、私は真っ先にラントさんの元へ向かった。

 どうしてもすぐに伝えたかった。

 ラントさんは訓練指導中だったけど手を止めて、他の騎士の方々も集まってくる。


「ミスティアちゃん! どうだった?」

「合格しました!」

「本当か!」

「はい!」


 合格を伝えた直後、歓声が沸いた。

 ラントさんだけじゃなく、周りの騎士たちも一緒に喜んでくれた。

 おめでとうという声が響く。

 彼らはラントさんと一緒に、この七年間私のことを支えてくれた。

 一緒に喜んでくれることが何より嬉しい。

 期待に応えられて、心からホッとする。


「よし! 今日の訓練はここまでだ! お前たち! 祝いのパーティーをするぞ!」

「さすが隊長! わかってますね!」

「そうと決まれば準備だ! 今から会場は無理だから、どこかいい店を決めるぞ!」

「私も手伝います!」

「ばーか、主役は堂々としてればいいんだ。ですよね? 隊長!」

「ああ。疲れただろう? シャワーでも浴びてくるといい」

「……ありがとうございます!」


 確かに汗だくだ。

 訓練後よりも疲れがどっと来る。

 私はお言葉に甘えて、皆に任せてシャワーを浴びに行く。


「隊長」

「ああ……寂しくなるな」


  ◇◇◇


「ミスティアちゃんの合格を祝って、かんぱーい!」

「「かんぱーい!」」


 皆がお酒を片手にグラスをぶつけ合う。

 私はお酒が苦手なのでジュースで乾杯をした。

 ラントさんの部隊に所属する騎士全員が集まると、お店を貸し切ってもパンパンだ。


「おめでとう! うちの隊から専属騎士が出るなんて最高だな!」

「ありがとうございます。皆さんが快く指導してくれたおかげです」

「何言ってんだ! ミスティアちゃんが毎日頑張ってたからだろう? 俺らなんて、ミスティアちゃんに剣でも抜かれまくってるしなぁ。でも不思議と悔しさはないんだ。俺たちの中で一番、頑張ってるのを見てるからかな?」

「皆さん……」


 なんて温かいのだろう。

 私のような他人、しかも貴族としても中途半端で、地位などなくなってしまった令嬢に、ここまで優しくしてくれる。

 ラントさんだけじゃない。

 ここにいる全員が、まるで私の家族のようで……。


「ミスティアちゃん? 泣いてんのか?」

「いえ、嬉しいだけです!」


 ラントさんが私の肩にぽんと手を置く。

 みんなに感謝している。

 でも、やっぱり一番感謝したいのはこの人だ。

 彼があの日、指導を名乗り出てくれなかったら……。

 今の私はいなかっただろう。


「ラントさん、本当にありがとうございます」

「こちらこそ。少しは恩返しができたかな」

「十分すぎるくらいです!」

「そうか。なら……よかった」


 ラントさんの瞳に涙が浮かんでいる。

 嬉しそうなのだけど、少し寂しそうにも見える。


「ラントさん?」

「ミスティアちゃん……いいや、騎士ミスティア」

「はい!」

「明日より君は、殿下の専属騎士となる。よって、我が部隊に所属するのは今日までだ」

「――!」


 そうか。

 そうだった。

 どうして……忘れていたのだろうか。

 私がここにいるのは、見習い騎士として働かせてもらっているからだ。

 専属騎士になれば、殿下の元で働くことになる。

 当然ながら、騎士団に毎日顔を出すことはなくなるだろう。

 今まで通り、彼らと訓練することは……。


「……」


 涙が流れる。

 嬉しかった気持ちが、一気に流れるように。


「泣いちゃダメだ。君は成長した。先に進んだんだよ」

「……ぅ……」


 そうだ。

 私はこのために努力してきた。

 ここにいるみんなだって、私を強くするために協力してくれていたんだ。

 悲しんで流す涙は、彼らが私に費やしてくれた時間を侮辱する。

 涙をぬぐい、私は立ち上がる。


「皆さん! 今まで本当にありがとうございました!」


 私は叫ぶように伝える。

 自身の想いを。


「皆さんのおかげで夢に近づけました! この七年間は私にとって宝物です! お兄さんがたくさんできたみたいで嬉しかった! 一人じゃないって思えて……安心しました!」

「こっちこそありがとな!」

「毎日楽しかったぜ!」

「ミスティアちゃんの兄ちゃんか。そう思われるのは光栄だぜ」


 子が育ち、家を出る。

 まさにそんな感覚なのだろう。

 私は巣立つ。

 育ててくれた人たちに、最上の感謝を告げて。

 夢に向かって、突き進む。


 明日から私は見習いじゃない。

 第一王子付き専属騎士、ミスティア・ブレイブだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
もしよければ、

上記の☆☆☆☆☆評価欄に

★★★★★で、応援していただけるとすごく嬉しいです!


ブクマもありがとうございます!

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ