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隣で「おはよう」と笑う君を見たいから  作者: 山田 太郎丸
第四章 君の隣でどこまでも歩み続ける

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クリスマス特別編.忘れられないクリスマス

せっかくなので。イブに投稿する予定がド忘れしてました。


 



「………寒いな」




 高校に入って最初のクリスマス。正確にはまだイブだが、そこまで気にすることでもない。


 2学期は既に終わり、今日から冬休みに入った。

 友人は結局出来ずじまいで、頼れるのは春馬だけなのだが、その春馬にも今日は予定があると言われてしまった。






 家に居ても暇なのでとりあえず近くの商店街まで歩いてみたが、あまりの寒さに後悔していた。


 街はクリスマス一色で、陽気な音楽が流れていたり、ケーキやチキンのポップが目を引く。


 うーん、偶にはコンビニ飯以外もありだな。せっかく外に出たんだし、ローストチキンでも買っていこうか。




「すいません、ローストチキン1つください」


「種類はいかが致しますか?」



 そうか。てっきり丸焼きだけだと思ってたけど、骨付きのチキンレッグなんてのもあるのか。

 1人だし、丸焼きは食べ切れなさそうだったからちょうどいい。



「そうだな…じゃあこの足のところのやつ2つで」


「はーい。1300円になります」



 足りなかったら嫌だし二本買ったが、これ思ったよりでかいな。持った感じ、そこそこ重量がある感じがする。




 その後も商店街を物色する。食べ物だけじゃなく飾り付けを売っていたり、海外のよく分からない人形を売っているお店もあった。ちょっと怖い。


 そこで見つけた、見覚えのある顔。というか氷川さんだ。


 何をしているのかと様子を伺ってみれば、スーパーの前でセールのチラシとにらめっこしていた。あまり安くなかったのだろうか、華の女子高生がしない方がいいであろう表情でスーパーを後にしていた。



 やばい、何してるのかすごい気になる。流石に声はかけられないけど、着いていってみよう。これは断じてストーカー行為ではないからな。







 氷川さんがスーパーを後にして向かったのは、ラ・ブール・ド………………なんかおしゃれなパン屋だ。


 見た感じ節約しているようだったし、こんなとこ入って大丈夫なのか?外見が高そうなオーラを醸し出してるんだけど。


 しばらくして、店から出てきた氷川さんが手にしていたのは一斤の食パン。

 後から分かったことだが、あの食パンは店売りできないようないわゆる規格外品であり、格安で譲ってもらっていたらしい。




 ある種の執念を感じたところで、次に向かったのは八百屋さん。店主のお爺さんとは顔見知りらしく、楽しそうに話す様子が見受けられた。


 果物をいくつか買い、小さくお辞儀をしていた。見た目に違わず礼儀正しいんだな。




 さて、次は一体どこに………ってそっちには何もなかったはず。

 マンションとも反対方向だし、穴場的なお店でもあるのだろうか。


 そのまま真っ直ぐ歩いていき、突き当たりを右に曲がる。

 ん?ここから先に行くとすぐに行き止まりに当たるんじゃ………。




「さっきから尾けられていると思っていたけど、貴方だったのね」


「うっ………」


「悪意は感じなかったけれど、迷惑だからやめてくれる?」


「すみませんでした………」



 気づかれてたのか………。だとしたら本当に申し訳ないことをしたな。

 俺の好奇心で余計な不安を与えただろうし、ましてや色々と悪印象を持たれているはず。


 冷静に考えてみたら、何やってるんだろうな。人のこと尾けまわして、迷惑までかけて。


 そんな様子を見かねてか、氷川さんが声をかけてくる。



「えっと…大丈夫よ。そこまで怒ってないから。隣人でクラスメイトなのに何も知らないのは、流石に気になるわよね」


「気を遣わなくていいよ。悪いのは俺だから。それじゃあまた」


「ちょっと待って」



 なぜか呼び止められる。まさか、本当はめちゃくちゃ怒ってるんじゃ。

 氷川さんは感情が読み取りにくいから、そうだとしてもこっちが知る術はない。


 だとしたらもうどうしようもないか。今までの行いが悪かったってことで割り切ろう。


 だからその言葉に耳を疑っても仕方ないよな。



「えっと、メリークリスマス。戸張くん」


「………………………えっ?」


「何?文句でもあるの?」


「あっいや、そういうわけじゃなくて。まさか氷川さんの口からそんな言葉が出てくるとは思わなくて」


「別に私だってクリスマスは祝うわよ。そんな血も涙もない人間ではないつもりよ」



 それは見ていれば分かる。氷川さんって分かりにくいだけで、よく見ればしっかりと感情がある。

 だから今も、本気で怒ってないことは見分けがつく。それでも不安なものは不安なのだ。




 でも、メリークリスマス、か。それを俺に言ってくれるってことは、まだ嫌われてないって認識でいいんだよな。


 素直に嬉しいと感じる。そもそもまともに会話すらできていなかったんだ。これだけでもかなりの進歩じゃないか?


 そう思ってるのは俺だけだと思うけど、今日出会えたことは良かった。

 それはそれとして、もう一度きちんと謝っておくべきだろう。



「でも、やっぱり迷惑かけちゃったよな。ごめん」


「だから気にしなくていいの。私がいいって言ってるのだから、素直に受け入れておきなさい」


「ああ、ありがとう。それと、メリークリスマス」




 今年のクリスマスは、忘れられない………いや。忘れてはいけないものになった。







 ——— ——— ——— ——— ——— ——— ——— ——— ———







「そんなこともあったわね」


「まさか一緒にご飯を食べるようになって、さらに付き合うことになるとは思いもしなかったけどな」


「あの時も嫌っていなかったって分かってくれた?」


「痛いほどにね。綾乃は優しい人だって分かってたけど」


「嘘おっしゃい。最初の頃はずっとビビってたじゃないの」



 それ言われると否定できないんだよね。ビビってたとまでは言わないけど、ちょっと怯えてはいたかな。ちゃんと関わる前の綾乃、正直怖かったし。


 でも綾乃が怒ってたときは、大体俺が悪かったからな。綾乃から怒ることはなかった。


 それでこの人は優しい人なんだって気づいたし、普段の表情からも少しずつ読み取れるようになった。



「でも綾乃、俺と春馬以外の男子と話すときはまだ無表情のままだぞ?」


「いいじゃない。私は貴方達が信頼できることを知ってるから。他の人なんてどうでもいいわ」



 そう言って綾乃は、その深い愛情を表現するように頭を擦り付けてくる。

 綾乃は幸せそうだし、まあ…俺も幸せだし。確かにこれはどうでもよく思えてくるな。


 綾乃は上目遣いになって、魅力的な言葉を囁いてくる。



「今年のクリスマス、楽しみね。初めて誰かと過ごすクリスマスが、こんな素敵な彼氏となのだから」


「プレッシャーかかるなあ。でも任せてくれ。一番忘れられないクリスマスにするから」


「ええ、待ってるわ」



 そうして俺たちは、迫り来る聖夜に想いを馳せるのだった。





感想と誤字報告どんどん下さい。

高評価も付けてくださると作者が喜びで小躍りします。

それでは、メリークリスマス。

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