クリスマス特別編.忘れられないクリスマス
せっかくなので。イブに投稿する予定がド忘れしてました。
「………寒いな」
高校に入って最初のクリスマス。正確にはまだイブだが、そこまで気にすることでもない。
2学期は既に終わり、今日から冬休みに入った。
友人は結局出来ずじまいで、頼れるのは春馬だけなのだが、その春馬にも今日は予定があると言われてしまった。
家に居ても暇なのでとりあえず近くの商店街まで歩いてみたが、あまりの寒さに後悔していた。
街はクリスマス一色で、陽気な音楽が流れていたり、ケーキやチキンのポップが目を引く。
うーん、偶にはコンビニ飯以外もありだな。せっかく外に出たんだし、ローストチキンでも買っていこうか。
「すいません、ローストチキン1つください」
「種類はいかが致しますか?」
そうか。てっきり丸焼きだけだと思ってたけど、骨付きのチキンレッグなんてのもあるのか。
1人だし、丸焼きは食べ切れなさそうだったからちょうどいい。
「そうだな…じゃあこの足のところのやつ2つで」
「はーい。1300円になります」
足りなかったら嫌だし二本買ったが、これ思ったよりでかいな。持った感じ、そこそこ重量がある感じがする。
その後も商店街を物色する。食べ物だけじゃなく飾り付けを売っていたり、海外のよく分からない人形を売っているお店もあった。ちょっと怖い。
そこで見つけた、見覚えのある顔。というか氷川さんだ。
何をしているのかと様子を伺ってみれば、スーパーの前でセールのチラシとにらめっこしていた。あまり安くなかったのだろうか、華の女子高生がしない方がいいであろう表情でスーパーを後にしていた。
やばい、何してるのかすごい気になる。流石に声はかけられないけど、着いていってみよう。これは断じてストーカー行為ではないからな。
氷川さんがスーパーを後にして向かったのは、ラ・ブール・ド………………なんかおしゃれなパン屋だ。
見た感じ節約しているようだったし、こんなとこ入って大丈夫なのか?外見が高そうなオーラを醸し出してるんだけど。
しばらくして、店から出てきた氷川さんが手にしていたのは一斤の食パン。
後から分かったことだが、あの食パンは店売りできないようないわゆる規格外品であり、格安で譲ってもらっていたらしい。
ある種の執念を感じたところで、次に向かったのは八百屋さん。店主のお爺さんとは顔見知りらしく、楽しそうに話す様子が見受けられた。
果物をいくつか買い、小さくお辞儀をしていた。見た目に違わず礼儀正しいんだな。
さて、次は一体どこに………ってそっちには何もなかったはず。
マンションとも反対方向だし、穴場的なお店でもあるのだろうか。
そのまま真っ直ぐ歩いていき、突き当たりを右に曲がる。
ん?ここから先に行くとすぐに行き止まりに当たるんじゃ………。
「さっきから尾けられていると思っていたけど、貴方だったのね」
「うっ………」
「悪意は感じなかったけれど、迷惑だからやめてくれる?」
「すみませんでした………」
気づかれてたのか………。だとしたら本当に申し訳ないことをしたな。
俺の好奇心で余計な不安を与えただろうし、ましてや色々と悪印象を持たれているはず。
冷静に考えてみたら、何やってるんだろうな。人のこと尾けまわして、迷惑までかけて。
そんな様子を見かねてか、氷川さんが声をかけてくる。
「えっと…大丈夫よ。そこまで怒ってないから。隣人でクラスメイトなのに何も知らないのは、流石に気になるわよね」
「気を遣わなくていいよ。悪いのは俺だから。それじゃあまた」
「ちょっと待って」
なぜか呼び止められる。まさか、本当はめちゃくちゃ怒ってるんじゃ。
氷川さんは感情が読み取りにくいから、そうだとしてもこっちが知る術はない。
だとしたらもうどうしようもないか。今までの行いが悪かったってことで割り切ろう。
だからその言葉に耳を疑っても仕方ないよな。
「えっと、メリークリスマス。戸張くん」
「………………………えっ?」
「何?文句でもあるの?」
「あっいや、そういうわけじゃなくて。まさか氷川さんの口からそんな言葉が出てくるとは思わなくて」
「別に私だってクリスマスは祝うわよ。そんな血も涙もない人間ではないつもりよ」
それは見ていれば分かる。氷川さんって分かりにくいだけで、よく見ればしっかりと感情がある。
だから今も、本気で怒ってないことは見分けがつく。それでも不安なものは不安なのだ。
でも、メリークリスマス、か。それを俺に言ってくれるってことは、まだ嫌われてないって認識でいいんだよな。
素直に嬉しいと感じる。そもそもまともに会話すらできていなかったんだ。これだけでもかなりの進歩じゃないか?
そう思ってるのは俺だけだと思うけど、今日出会えたことは良かった。
それはそれとして、もう一度きちんと謝っておくべきだろう。
「でも、やっぱり迷惑かけちゃったよな。ごめん」
「だから気にしなくていいの。私がいいって言ってるのだから、素直に受け入れておきなさい」
「ああ、ありがとう。それと、メリークリスマス」
今年のクリスマスは、忘れられない………いや。忘れてはいけないものになった。
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「そんなこともあったわね」
「まさか一緒にご飯を食べるようになって、さらに付き合うことになるとは思いもしなかったけどな」
「あの時も嫌っていなかったって分かってくれた?」
「痛いほどにね。綾乃は優しい人だって分かってたけど」
「嘘おっしゃい。最初の頃はずっとビビってたじゃないの」
それ言われると否定できないんだよね。ビビってたとまでは言わないけど、ちょっと怯えてはいたかな。ちゃんと関わる前の綾乃、正直怖かったし。
でも綾乃が怒ってたときは、大体俺が悪かったからな。綾乃から怒ることはなかった。
それでこの人は優しい人なんだって気づいたし、普段の表情からも少しずつ読み取れるようになった。
「でも綾乃、俺と春馬以外の男子と話すときはまだ無表情のままだぞ?」
「いいじゃない。私は貴方達が信頼できることを知ってるから。他の人なんてどうでもいいわ」
そう言って綾乃は、その深い愛情を表現するように頭を擦り付けてくる。
綾乃は幸せそうだし、まあ…俺も幸せだし。確かにこれはどうでもよく思えてくるな。
綾乃は上目遣いになって、魅力的な言葉を囁いてくる。
「今年のクリスマス、楽しみね。初めて誰かと過ごすクリスマスが、こんな素敵な彼氏となのだから」
「プレッシャーかかるなあ。でも任せてくれ。一番忘れられないクリスマスにするから」
「ええ、待ってるわ」
そうして俺たちは、迫り来る聖夜に想いを馳せるのだった。
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それでは、メリークリスマス。




