番外編.もう一つの花火大会
本当の三章ラスト。
これはもう一つの恋の物語。
優心と綾乃が二人だけの世界に入り込んでいた頃。
こっそりとその場から離脱した春馬と雛の、その後のお話。
二人はイチャつく優心たちを置いて、先に神社へと向かう。雛は綾乃の話を基に、どうにか春馬に意識してもらおうと画策していた。
(言葉?ボディタッチ?こういうのやったことないから、何にも分かんないよ〜〜!)
あーちゃん、君はすごいよ。こんなの恥ずかしくて、あたしにはできそうもない。
う〜〜ん、でも他に方法も無いしなぁ………………覚悟を決めるしかないか。
「えいっ!」
「うわっ!?どうしたんだヒナ!?」
思い切って腕に抱きついてみる。反応は………あんまりよくなさそうだなぁ。
「本当にどうしたんだよ。なんか嫌なことでもあったか?」
「べっつにー?でも今日はずっとこのままね」
「なんでだよ」
「なんでも!」
むぅ、ハルってば鈍すぎないかな?さすがのトバっちでも、あーちゃんにこんなことされたらひとたまりも………………そういえばトバっちも大概だったな。これが類は友を呼ぶってやつかぁ。
でもこれでハルの腕はあたしのもの。周りに見せつけて、ハルに意識させてやる。
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一方、春馬の心の中はというと。
(いやいやいやいや、何やってんだヒナ!?そんなんされたら、俺だって正気じゃいられないって!?)
動揺しまくっていた。そもそも浴衣姿でさえかなりギリギリであったというのに、突然腕を組まれようものなら動揺を隠し切ることなど出来ようものか。
とはいえそこは百戦錬磨の春馬さん。心の内を隠すことなどお手の物である。こんなシチュエーションでなければ。
ずっとこのまま!?何言ってんだヒナは!?このままじゃ俺の心臓が持たねぇ。それどころか、ポロッと告白してしまいそうだ。
それは避けたい。避けたいはずなのだが、漫画とかでよく見かける天使と悪魔みたいなヤツらが突如として現れる。
「なあ俺よ。このまま流れに身を任せて、告白しちまってもいいんじゃねぇかぁ?」
「ダメだ!慎重にいかないと、ここまで一緒に過ごしてきた長い年月が無駄になってしまうぞ!」
「お前らは何なんだよ………」
17年間生きてきて初めて出会ったんだが。こんなヤツら、俺の側にいたっけか?
「「いや、初めましてだ!」」
だよね。あとお前ら息ピッタリじゃねーか。なんで敵対してんだよ。
「そりゃあ、な?説明してくれ、天使の」
「仕方ないなぁ。俺たちは春馬、お前の心に棲む善の部分と悪の部分だ」
「はあ?」
「俺らはお前だ。春馬の一部ってことだよ」
説明になってねえよ。じゃあなんで今さらになって出てきたんだよ。どうせ昔からいたんだろ?
「そうだな。俺たちはお前が産まれた時から存在している」
「今までお前は困るようなことがほとんど無かったからな。俺たちが出る幕も無かったって訳だ」
「いやそうでもなかったと思うけどな」
「「だがお前は今、初めて困難に直面している!」」
やっぱ仲良いじゃん。俺でも優心とはここまでじゃないぞ。しっかし、困難…確かに難しくはあるな。
今まで俺は、恋愛というものを極端に避けてきた。俺に告白してきた女子たちは、俺の外見しか見てなかったからな。小学生の頃のことが主な原因だが、付き合うなら内面をしっかり見てくれる人がいいと思ってた。
考えてみれば、昔からヒナは俺の中身ばかり見ていた。たぶん見た目なんてほとんど気にしていなかったんだろうな。
俺はそういうところに惹かれたんだ。あいつは基本アホだけど、人を見る目だけはズバ抜けてる。俺を見つけてくれたヒナを、幸せにしたいんだ。
「で、お前らなんか解決策あんの?」
「「無い!」」
「何しにきたんだよお前ら!」
マジでなんなんだコイツら。もう邪魔だからどっか行ってくんねえかな。
「まあ待て。解決はないがアドバイスならしてやれる」
「俺はしないけどな!」
「こんなとこで悪魔要素出さなくていいよ」
で、アドバイスってなんだよ。
「ズバリ、反応するな!」
「というと?」
「お前も本当は気づいてるんだろ?ヒナの方も意識しまくってて、この間から若干気まずいって」
そうなんだよなぁ。表面上は平静を装っているが、キス未遂事件があってからそのことをなんとなく思い出してしまう。
それはヒナの方も同じなんだと思う。話しかけた時、一言目が詰まったり挙動不審になることがある。よく顔を逸らされるし、確実に意識はしてるはずだ。
「でも反応するなってどういうことだよ」
「反応しなければ、ヒナは今より積極的になるはずだ。そうすれば両想いだって確かめられるだろ?」
「いや…まあ、そういう見方もできるのか?」
「大丈夫だ、俺を信じろ!」
不安だ………………………。
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と春馬は思っていたが、まさかまさかの大的中。
雛は春馬の腕に頬を擦り付けながら、「むぅ………!」などと唸っていた。
その姿を見た春馬はというと。
(な、なんだこの可愛い生き物は………)
ものの見事に魅了されていた。言い方を気にせずに言えば、春馬は雛にゾッコンである。正直、他の女など眼中にも無いくらいに好きなので、そんな春馬のためになんとか振り向かせようと努力する雛は、可愛くて仕方がないのだ。
要するにこの状況は、側から見ればただイチャついているようにしか思えないのである。
二人は腕を組んだまま神社に到着し、その瞬間、同時に口を開く。
「ねえっ!」
「なあ…」
「「あっ………」」
本来ならあーだこーだ言うところなのだが、やはり気まずくなってしまう。
お互いは何も言わず歩き出し、何をするというわけでもなく、境内をぐるぐると回るだけ。
やがて辿り着いたのは、焼きそばの屋台。立ち止まるのは仕方のないことだった。
「おいおい、あの志田が彼女連れだと?」
「何やってんスか、先生………」
「ん?監視だよ。不純異性交友を見張ってるのさ。ああ、そうそう、さっき戸張と氷川もいたんだが、お前たちは二人が付き合ってること知ってたのか?」
監視するだけなら焼きそば作る必要ないだろ。この人、本当はサボりたいだけじゃないのか?あんま浮ついた話も聞かないし、独り身だからこそ出来るんだろうな………。
「いや、あの二人は付き合ってないっスよ。付き合ってるようにしか見えない気持ちは分かりますけどね」
「は…ってことは、お前らは付き合ってるんだな」
「ち、違います!………そりゃあ、付き合いたいなって思いますけどぅ………」
「え?ヒナ、どうかしたのか?」
「うるさいっ、ハルの鈍感っ!」
そう言って雛は逃げ出してしまう。呆気に取られていた春馬は、日野の一言で我を取り戻す。
「早く追いかけた方がいいんじゃないか?ここ、結構広いし迷子になったら大変だよ?」
「誰のせいだと思ってんですか!お節介クソ教師はありったけ焼きそば作っててください!」
そう言って春馬も走り去ってしまう。日野は後ろ姿を見送り、
「はあ、これでも一応カウンセラーの資格、持ってるはずなんだけどなぁ」
少し自信を失くしていた。
探し回ること30分。早くしなければ花火が始まってしまう。時間にも追われている春馬は、かなり焦っていた。
幸いにも、想い人はその前に見つけることが出来た。幼い頃、共に遊んだ場所によく似た大木の下。人が誰一人としていないそこは、幻想的な光で雛を映し出していた。
「ヒナっ!!!」
「ハル………………?」
「探したぞ………急に走り出してどうしたんだよ」
「別に、ハルには関係ないじゃん………」
「あるに決まってんだろ!」
春馬は思わず大声を出してしまう。雛はビクッとなるが、すぐに春馬が心から心配していることに気づき、申し訳なさでいっぱいになる。
だがそれ以上に、幸福感で満たされることとなった。
「関係ある。ヒナの一番の親友として、辛いときとか悩んでるときは、側にいてやりたいんだよ」
「ハル………………」
「それにさ」
「好きな女の子には、笑っていて欲しいんだよ」
「………………へっ!?」
「好きだ、ヒナ。俺と付き合ってください」
雛にとっては予想外の告白。あまりの急展開に、頭が回らない。
ようやく状況を理解した時には、勝手に口元が緩んでいた。
「ええっと、そのぅ。ハルは本当にあたしでいいの?」
「ああ、ヒナ以外考えられない」
「本当の本当に?」
「だからそう言ってるだろ。俺は山﨑 雛を、一人の女の子として好きだ。大好きだ!」
春馬は心の底から、そう叫ぶ。いくら神社の端とはいえ、他の人がいることに変わりはない。
それでもお構いなしに、雛が頷くまで好きだと言い続ける。これが春馬なりの好意の伝え方だから。
「だあーーー!分かったから叫ぶのやめて!こっちが恥ずかしくなってくるじゃん!」
「はぁはぁ…わ、悪い。とにかく気持ちを伝えようと必死でつい………」
「もう、ハルってば。でもあたしも………あたしもハルが好きっ!」
雛は春馬に飛びつく。涙こそ流しているものの、それが悲しいものでないことは明らか。
ここに、もう一つのカップルが誕生した。
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