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隣で「おはよう」と笑う君を見たいから  作者: 山田 太郎丸
第三章 愛の炎は夜空の星より煌めいて

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59.積極的

 



 時刻は午後5時。1日で最も暑い時間を過ぎて、多少は快適になってくる時間帯。


 神社から最寄りの駅前に到着した優心は、見覚えのある人だかりができていることに気づく。




 なんか…この間も見た光景だな。女性の方が多いってことは、たぶんそういうことだよなぁ。…はぁ、面倒だけど恩もあるし、いつも通り助けてやるとしますか。



「ちょっと通してください。…またか、春馬」


「俺だってこうなりたくてなってるわけじゃないっての。まあそれはともかく、助かったぜ」


「まだ助けてないだろ」


「助けてくれるだろ?」


 そうだけどさぁ…いつものことすぎて春馬も慣れてきてるし。

 そういう訳で以前のように春馬に女性が群がっていた。祭りの熱気に当てられてつい、とかそんな感じだろう。混じっている男性は彼氏とか付き添いとかだろうし、なんか可哀想だな。


 ちなみに助けると言っても、お巡りさんが来るまでの時間稼ぎだ。この駅前には交番があるので、運悪く外回りに出ていなければすぐに駆けつけてくれるだろう。ましてや今日は花火大会。いつもより多くの警察官が派遣されているはずだ。


 思った通り、文句を適当にいなしているうちにお巡りさんがやってきて、囲んでいた人々はすぐにはけていった。



「「ありがとうございました」」


「いえ、当然のことですので」


 そう事務的な言葉を交わし、すぐに去っていく。

 春馬がここにいる理由は…察しがつくけどな。


「春馬も集合場所、ここに指定されたのか」


「まあな。ってことは………そういうことか」


「結局、二人は一緒に来るみたいだな」


「あの家の周り、バスも電車も遠いしなぁ。車で行き来するしかないんだよな」


 お互い別々に行動するという話だったが、それはあくまでも会場内での話だったと。そういうことだ。

 これで雛の浴衣姿に見惚れようものなら、綾乃とは二度と口を効いてもらえないだろうな。


 集合時間まではあと10分ほどある。毎度のように早く来るのが癖になっているのだ。それは行動を共にしていた春馬も同じこと。俺に合わせようとして、気づいたら癖がついていたらしい。


 それはさておき。

 春馬にチェックを受けながら綾乃たちを待つ。雛はともかく、綾乃が遅刻するとは考えづらい。そこまで待つこともないだろう。


 案の定大して待つこともなく、すぐに来た。来たのだが………どうしてこう、反省しないかねぇ…。

 現れたのは、いつぞやのリムジンであった。別に大人数が乗るわけでもなく、ただ雛が乗りたいから乗ったとかだろうな。


「おっすーハル。トバっちも朝振りー」


「おう。………………あー、あれだ。浴衣、よく似合ってるぞ」


「そ、そう?えへへ…ありがと」


 向こうは向こうで早速ピンク空間を形成していた。春馬なんか雛にすっかり見惚れちゃって。もうこっちのことなんか見向きもしないぞ。


 さて、こっちはというと………



「綾乃、すごく綺麗だ。うん、他の言葉がチンケに思えてくるよ」


「それ、思い付かないだけじゃないの?」


「そんなわけないだろ。どれも薄っぺらくて、だったら思ったことそのまま言った方がいいかなって」


「全く………でも嬉しいわ。ありがとう」



 綾乃らしい紫陽花柄の浴衣に、珍しく三つ編みにされた髪。あの髪飾りも着けてくれていて、思った通り浴衣との相性は抜群だった。


 俺はこの人に相応しい姿でいるだろうか。その答えが出ることは無いが、周りからの悪意の視線というものは普段よりも少ない気がする。


 そうして綾乃に見惚れていると、春馬たちはいつの間にかいなくなっていた。空気を読んだのだろうが、単に自分たちも祭りを楽しみたいのだろう。春馬は一見完璧に見えるが、中身はまあまあ子供だからな。



「春馬たち、行っちゃったみたいだな」


「そうね。人混みが酷くなる前に私たちも行きましょうか」


「だな」


 二人は神社に向かって歩き出す。だが少しでも祭りを楽しもうとする人も多く、目的地に近づくにつれて、道が段々と混雑していく。

 気づけば、隣にいるはずの綾乃の声も聞きとりづらくなる。そのうち、絶えず流れる祭囃子と人々の雑踏にかき消されてしまうだろう。


 その前に優心はとある提案をしようと思った。

 だがそれよりも綾乃が行動に移す方が早かった。




「あ、綾乃?」


「文句は受け付けないわよ。はぐれたら嫌だもの、黙って手、繋がれてなさい」


 何それかっこよすぎるんですけど。俺も同じこと言おうと思ったけどさ。そんなこと言われたら絶対離すわけにはいかないだろ。


 俺は綾乃の小さな手をギュッと握りしめる。離さないようにできるだけ力を込めて、でも綾乃が痛いと感じないくらいの強さで。


 ………心臓がうるさい。綾乃の手に触れる機会なんかほとんどなかったし、この祭り特有の雰囲気が緊張を加速させる。

 ふと隣を見ると、こっちを見て微笑んでいた綾乃と目が合う。



「どうかしたか?俺の顔になんか付いてる?」


「いえ、珍しく優心の顔が固かったから。もしかして人混み、苦手だった?」


「いや…そんなことはない…けど………」



 まさか言えるわけもない。「綾乃が可愛すぎて緊張してます」なんて。その微笑みすら女神のように見えてくる。……そういえば女神なんだっけ。


 どうでもいいことを考えながら手を繋いで歩いていると、ようやく神社の入り口に辿り着いたようだ。少し石段があるので、足元を確かめながら慎重に進んでいく。

 構内に入ってしまえば先ほどよりは人の流れも緩やかになるはずなので、繋いでいた手を離す。だが綾乃の方がなかなか離してくれなかった。なぜかと言えば、ただ優心の考えが甘かっただけである。



「えーっと、綾乃さん?もう着いたので離していただけると嬉しいんですけど………」


「見なさい、この人混みを。さっきよりもすごいわよ。それとも私とはぐれてもいいってことかしら?」


「ごめんなさい僕が間違ってました」


「分かればいいのよ。さ、行きましょう?」



 綾乃は満足そうに頷き、優心の手を引く。

 優心はそんな綾乃の姿を見て、恥ずかしいながらも充足感に包まれるのであった。








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