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隣で「おはよう」と笑う君を見たいから  作者: 山田 太郎丸
第三章 愛の炎は夜空の星より煌めいて

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57.プロポーズ?

 



 春馬たちとは氷川家の前で別れ、優心と綾乃は手配してもらった車で帰宅する。道中、二人とも一切口を開かなかった。話は帰宅してから、ということを言葉は交わさずとも、互いに理解していた。


 運転手にお礼を言って二人は車を降りる。


 優心が自宅のドアを開け、それに従って、綾乃も共に優心の部屋に入る。


 そして靴を脱いだ瞬間、静かに優心の背中に抱きついた。




「………怖かった…優心とこのまま離ればなれになったらどうしようって…」


「綾乃………………」


「二度と会えなくなるのかなって…ちゃんとお別れも言えなかったのにって………!」




 綾乃は嗚咽を漏らす。皆の前では堪えていたが、溜め込んでいた不安を吐き出していることから、とうに限界であったのだろう。

 優心は一度綾乃から離れると、正面に向き直して前から強く抱きしめた。




「俺の方こそ、遅くなってごめん。俺、綾乃のこと全然知らなかったんだな………」


「違う!……私が、優心に嫌われたくなくて色々なことをひた隠しにしてきたから………。家族のことも、私自身のことも、全部ちゃんと話してればこんなことにはならなかった………………」


 すると優心は、唐突に抱きしめたはずの綾乃から距離をとる。


「…確かにその通りだ」


「………………………っ!」




 ここまで綾乃をほとんど否定することのなかった優心が、初めて厳しい言葉を浴びせる。それは、本音で話し合わなければ、真の意味で分かり合うことは出来ないと理解したからである。


 氷川家は、全て曝け出すことで蟠りを取り除くことができた。その光景を見ていた優心は、ただ優しくするだけではいけないと、ぶつかり合わなければ幸せにはなれないと、そう感じた。




「綾乃は俺に何も話してくれなかった。確かに俺がいつまでも待つなんて考えでいたことにも原因はある」


 綾乃は口を開きかけるが、優心が次の言葉を発する方が速かった。


「一度、話してくれたことはあった。でもそれは、曖昧な内容も多かった。最初から全て話す気は無かったんじゃないのか?」


「最初は全部話そうとしたの!………でも…今の関係が崩れる方が怖かった…。今のまま、波風立てずに優心といる方が幸せになれるんじゃないかって、その気持ちがだんだん大きくなっていったの…」


「本当にそれが幸せだと思うのか?」


 以前の綾乃なら、この質問に押し黙ることしかできなかっただろう。だが家族との一件を通して、綾乃が見ている景色は、最高の未来を掴み取るためのビジョンは鮮明になっていた。




「お父様と琴乃と向き合って、本音で話した今なら分かる。それではきっと、本当の意味で幸せにはなれない。どれだけ喧嘩しても、意見が食い違っても、それを解決するために協力しあえる。それこそがより良い未来に繋がるための道なんだって」




 その目に迷いはない。あるのは、優心とどれだけぶつかっても必ず幸せになれる、なってみせるという確固たる覚悟。


 その姿に優心は、ふっ、と目元を柔らかくしてもう一度強く抱きしめた。




「ごめんな綾乃。怖い思いさせて」


「ううん、大丈夫。これからの私たちのために言ってくれてるって、ちゃんと分かってるから」


「これから、お互い言いたいことがあったらしっかり話し合おう。そうじゃないと、どこかですれ違っちゃうからね」



 二人は時間も忘れて抱き合っていた。それに気づいたのは、優心のお腹から大きな音が聞こえてからだった。




 ——— ——— ——— ——— ——— ——— ——— ——— ———




 二人は食事を終えて、ようやく落ち着くことができた。




「はぁ〜、やっぱり綾乃の手料理が一番だな」


「急にどうしたの?褒めても明日の夕食が少し豪華になるだけよ?」


「それならいくらでも褒める………じゃなくて。昨日は綾乃がいなかったし、久々にコンビニ弁当だったんだけどどうしても味気なくて」



 食べても食べても味がしない。いや味はするんだが。何というか、こう無機質な食事というか……いつも綾乃と食べてる時に感じていた暖かさというものを全く感じなかったんだ。


 綾乃が作る手料理だからなのか、それとも綾乃と食事を共にしていたからなのか………やめよう、なんか恥ずかしくなってきた。




「これ、完全に胃袋掴まれちゃったかな」


「ふふっ、なんだか嬉しいわね。優心に褒められると、心がとっても暖かくなるの。ねえ、これからも一緒にいてくれる?」


「当たり前だろ。じゃなきゃ、さっきの話はしないって」


「直接言葉にしてほしかったの」


 そういうことならお安い御用だと、優心は悪戯をする子供のような顔をする。


「綾乃、死ぬまで一緒にいような。この先何があっても二人で手を取り合って、春馬や雛とも協力しながら楽しく生きていこう」



 すると綾乃は、呆気に取られた様子でポカンとした後、言われたことを理解して顔を真っ赤にする。



「ちょっ、急に何を言い出すのよ!それじゃまるで…プ、プロポーズみたいじゃない!」


「ははっ、悪い悪い。ちょっと悪戯したくなって」


「〜〜〜〜〜っっっ!!!優心のバカっっ!!そういうことは軽々しく言っちゃダメでしょ!本気にしちゃうじゃない!」


「えっ?」


「あ………こ、言葉の綾よ!………全く、あまりびっくりさせないで」



 それはごめん。でもあんなこと言われたら悪戯したくもなるだろ。というか先に告白めいたことを言ってきたのは綾乃の方じゃ………。どう考えても悪いのは俺なので、これ以上は突っ込まないが。


 だが………気まずい。あれから綾乃は押し黙っている。どうにも話しかけづらい空気を出していて、こっちとしても良い話題が見つからない。

 と思っていたが、そういえばあるじゃないか。とっておきのものが。




「なあ綾乃。その…これ、受け取ってくれないか?」


 優心が手渡したのは、1つの小さな紙袋。前日に購入したあの髪飾りである。

 綾乃は袋を開き、中身を取り出す。


「これは…髪飾り?」


「ああ。これを見た途端、浴衣姿の綾乃が浮かんできて…似合いそうだなーって………あ、気に入らないとかだったら全然」


「ううん、すっごく嬉しい。一生大事にする」


 綾乃は大事そうに胸元で優しく握る。


 優心は、気に入らなかったらどうしようと内心ドキドキしていたのだが、杞憂に終わってホッとしていた。


「そういえば私からも………」


「鍵………ってさすがに違うよな?」


「当たり前よ。それは実家の合鍵。お父様が帰る時にいつでも遊びに来てくれって」


「ええ………行きづらいなぁ………」


 やや弛緩した空気をきっかけに、そこからはいつも通りの二人に戻り、時は過ぎていく。


 二人は薄らとだが、お互いの気持ちに気づいていた。




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