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隣で「おはよう」と笑う君を見たいから  作者: 山田 太郎丸
第三章 愛の炎は夜空の星より煌めいて

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56.幸運の持ち主

更新遅くなってすみません。

たぶん次の投稿は番外編になります。

 


 ようやく氷川家は一つになれた。多くのものを失い、時間も無為にした道のりだったが、家族として共に歩むことができるようになった。

 だが、綾乃の“なぜここに優心がいるのか”という疑問の回答がまだであった。




「でも優心、本当になぜここが分かったの?」


「ああ、それはな………」


 優心は、ここに至るまで何があったかを簡潔に説明する。それを聞いた綾乃は顔を綻ばせ、感謝の言葉を口にする。



「私、優心に出会えて本当に良かった。貴方がいなかったら、今も家族の蟠りは残ったままだったかもしれないわ」


「こちらこそ、俺と出会ってくれてありがとう。…うん、やっぱり綾乃は笑顔でなくっちゃな」


「またそういうことを………それ、他の女の子に言ったら許さないから」


 これは本人も今まで分からなかったことだが、綾乃はなかなか嫉妬深い性格であった。自らが初めて、心の底から好きになった男性であるが故に、死ぬまで一緒にいたいとまで思うようになっていた。

 他の女の陰でも見えようものなら、どんな手を使ってでも排除に動くだろう。


 優心は、綾乃がそんな過激な考えを持っているとはつゆ知らず、呑気に「嫉妬も可愛いなぁ」などと考えていた。


 だがここにはまだ功労者がいて、その人物たちが甘い空気にげんなりとしていることに気づくべきだった。



「はあ、2人だけの世界に入るのが早過ぎない?あたしたちだって役に立ったと思うんだけどなー。ね、琴乃ちゃん?」


「そうですよ全く。誰がこの部屋の場所を教えたと思ってるんですか」


「えっ?雛が案内してたから、俺はてっきり雛が始めから知ってたのかと」


「言われてみれば、ここは誰も知らない部屋だって言っていたわね」



 そう、本来なら家の中に入れたとしても、この隠し部屋には辿り着けないはずだった。

 それを手助けしたのが琴乃であった。


 姉妹が部屋へ辿り着く直前、琴乃はライトを消すためにスマホを操作していた。その際、家の繋がりで縁があった雛に位置情報を送っていたのだ。

 なお、雛が綾乃と出会ったのは琴乃と知り合う以前のことであり、二人が姉妹であったのも完全な偶然である。




「ありがとね、琴乃。流石は私の妹よ」


「お役に立てて何よりです」


 優心たちも次々と感謝を述べる。そこに繁が近寄ってきて、優心に感謝の言葉を口にする。




「ありがとう優心君。君がいなければ、私はまた過ちを繰り返すところだった」


「いえ、自分こそ数多くの失礼な態度、重ねてお詫びします」


「本当によくできた子だ、流石はあの幸一の息子といったところか。冗談抜きで婿に欲しいくらいだ。どうだ、私が言えたことではないが、2人ともなかなか美人に育ったと思うが」


 目がマジだった。これ本当に冗談抜きで言ってるやつだ。

 だが確かに、綾乃は言わずもがな、琴乃ちゃんも綾乃によく似て綺麗系の美人といった印象だ。

 違う点を挙げるとすれば、少々幼い雰囲気と、それに比例して主張の控えめな胸部くらいだろうか。



 優心が胸部に向けた視線は気づかれなかった………なんてことがある訳もなく。当然、琴乃に見咎められた。



「ふふ…優心様、あなたは私たち姉妹の恩人ですが、それとこれとは話が別です。最後に、言い残すことはありますか?」


「えっ、俺死ぬの?いや、俺は小さいのも良いと思うよ、うん」


「考えうる限り最悪の返答ですね。雛さん、姉様、この男はいけません。いつか痛い目を見ることになりますよ」


「琴乃、それ以上は言わないで。大丈夫だから。それはそれとして、優心には後で話があるわ」


「トバっちぃ………、その発言はあたしにも刺さるって分かって言ってるのかなぁ?」


 助け舟が出された訳じゃなかった。寿命が少し伸びただけだ。後ろで黙って見ていた雛からも非難の声が挙がる。


 うーむ、居心地が悪すぎる。繁さんに話を振ってなんとか脱出しなければ。


「し、繁さん。繁さんの目から見て、父さんって若い頃はどんな人だったんですか?」


「話の振り方が下手ですね。逃がしませんよ?」


 繁さんにも顔を逸らされる。俺にはどこにも味方がいないようだ。春馬?ヒィヒィ言いながら後ろで腹抱えて笑ってるよ。


 女性陣にジリジリと壁際に追い込まれていく。綾乃は後でって言ったじゃないか、なんで距離を詰めて来てるんだ。なあ、さっきまでのシリアスな空気はどこ行ったんだよ。シリアスくん、帰ってきてくれ………。


「さて、どうしてやりましょうか」


「そうだね、とりあえず………」


「落ち着きなさい二人とも。優心が怯えているじゃない」


 綾乃がようやく助けてくれた。さっきまで一緒になって詰めてたのは見なかったことにしよう。


 だが綾乃は、すぐに悲しげな表情になって、俺も忘れていた本来の予定のことを口にする。


「でも、今からじゃ花火大会は間に合わないわよね………」


「そうだな………まあ、また来年行けばいいさ。受験とかもあるから忙しいかもしれないけど、絶対一緒に行こう」


 時計の短い針は『6』の文字を指している。俺たちは徹夜で動いていたわけではないので、今は18時ということになる。

 終了予定時刻は20時となっていて、さらにここから会場までは1時間以上かかってしまう。そのため、今から浴衣の着付けをしていたんじゃ、とてもじゃないが間に合わない。


 だがそれは、少し控えめに手を挙げた雛の発言によって、杞憂に終わる。


「あー、そのことなんだけどさ………」


 少し言いづらそうに、だがどこか嬉しそうにスマホの画面を見せてくる。

 そこには、花火大会のポスター画像と大きく押された『延期』のハンコ。


 それが意味するところは、一つしかないだろう。




「今日は花火大会、やらないってことか?」


「それってつまり………」


「今年、行けるってこと!というかこの大雨じゃ無理でしょ。まさに恵みの雨だね」


 はて、大雨?雨なんて………………そういえば土砂降りだったな。必死すぎて気にしてなかった。

 雛も完全に呆れかえっていた。


「なんでトバっちが忘れてるのさ」


「いや必死だったから………」


「というわけであーちゃん、明日の朝迎えに行くから。着付けとか1人じゃ大変でしょ?どうせなら一緒に準備しようよ」


「分かったわ。お父様、浴衣を持っていっても構わないですか?」


「もちろんだ。そうだ、着たら一度写真を見せてくれ。茅乃の形見だからな、成長した綾乃の浴衣姿を茅乃に見せてやりたい」


「………!はい、勿論です!」


 繁さんが薄く笑う。それは綾乃が今まで見た中でも、一番暖かい表情であった。


 だがすぐに真面目な顔に戻り、氷川姉妹にとって衝撃の事実を口にする。




「綾乃、琴乃。話しておきたいことがある」


「何でしょうか、改まって」


「二人には今まで異母姉妹だと説明してきたが、あれは嘘だ。琴乃、お前の母は正真正銘、氷川 茅乃、私の妻だ」


 二人は驚愕に目を見開く。今まで異母姉妹である、という事実が姉妹仲を縮める妨げになっていた。それが偽りだと知って、ただただ呆然とするしかなかった。


 それでも辛うじて口を開いたのは綾乃だった。


「なぜ、そんな大事なことを黙っていたのですか?」


「二人に高め合ってもらうために、馴れ合いを極力無くそうと考えたのだ。妻にも協力してもらい、偽物の母親まで用意した。だがこんな軋轢を生む結果になってしまった………本当にすまなかった」


「そうですか………良かった。姉様、私たち本当の姉妹だったんですね………!」


「ええ、これで何も気にせず姉妹として過ごしていけるわね。でもその話、()()()は知っていたんですか?」


 優心にも隠していた存在。綾乃が“姉さん”と呼び、慕う人物はそのことを知っていたのか。

 繁の返答次第でどうこうなることは無いが、姉さんと呼んでいたことで彼女に負担をかけていなかったかを確かめたかったのだ。


 幸い、綾乃にとって満足のいく解答であった。


「姉さん…ああ彼女か。その話は事前にしていた。そこに首を突っ込まないでくれとも頼んでいた。安心しろ、彼女はそのことを気に病んだことは一度もないと言っていた」


「そうですか…良かった………」


 安堵すると共に、彼女が今どこにいるのかを知りたい気持ちも湧いて出てくる。だが翌日の準備もあるので、そろそろ帰宅しなければいけない時間だった。


「お父様、そろそろ…」


「そうか。確かここからあのマンションまでは距離があったな。車を出させるからそれに乗って帰るといい。もちろん、優心君も一緒にな」


「わざわざありがとうございます」


「当然のことだ、気にするな。それと、これからはいつでも帰ってきてくれて構わない。合鍵も渡しておこう」


 繁は使用人に指示をした後、持って来させた合鍵を2()()渡す。


「えっと、1つ多くないですか?」


「それは優心君に渡してくれ。彼と2人きりで話したいことが山ほどあるのだ。いつでも来てくれて構わないと伝えておいてくれ」


 そういうことなら、と綾乃は鍵を受け取る。




 こうして、氷川家の問題は解決し、綾乃も無事帰ってきた。

 夏休みも気づけば花火大会を残すのみとなっていた。




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