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隣で「おはよう」と笑う君を見たいから  作者: 山田 太郎丸
第三章 愛の炎は夜空の星より煌めいて

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51.捜索

 


 綾乃が消えた。まだそうと決まった訳ではないが、彼女は何も言わずに出ていくような人じゃない。何かしら理由があるはずなんだ。


 とりあえずメッセージを送ってみるも、いつもなら一瞬で付くはずの既読は付かない。

 電話もかけてみるが、


『お掛けになった電話番号は、現在電波の届かないところにあるか———』


 反応なし。スマホは電源が切れているか、持ってないかのどちらかだろう。後者の可能性は限りなく低いと思うが。


 春馬と雛に連絡してみるも、もちろん知らなかった。話を聞いてすぐに捜すのに協力する、と言ってくれるところは、やはり良い友人を持ったなと感じる。


 あと綾乃の行方を知っているとすれば………大和さんぐらいか。正直力を借りすぎて申し訳ないが、もしかしたら綾乃の一大事かもしれないし、なりふり構っていられない。



「もしもし、大和さんですか?」


『ああ、優心くんか。そろそろ来る頃だと思ってたよ』


「やっぱり………知ってるんですね、綾乃がどこに行ったか」


 ここまでは考えていた通り。だが、なんとなくいつもと雰囲気が違う気がする。


 優心の勘は非常に優れている。これも当然当たる。いや、当たってしまう。


『知っているとも。だけど、これは君自身で解決するべきことだ』


「どういうことですか?」


『君はまだまだ彼女を取り巻く環境を知らない。それらを全て知り、そして向き合うことが出来たのなら、君にはきっと明るい未来が待っているはずさ』


「さっきから一体何を言って………」


『頑張れば良いことがあるって話だよ。それじゃあ、解決した頃にまた』


 そこで通話は切れてしまった。

 環境?向き合う?まさか綾乃に聞いたこと以外にまだあるっていうのか?


 進展は無く、ただ謎が増えただけ。頼みの綱が消えたことによって、優心は手がかり無しでの捜索を余儀なくされることとなった。





 翌日。

 優心は結局、一睡も出来なかった。綾乃がどこにいるのか、今何をしているのか。それをひたすら考え続け、布団に入っても眠りに就けず、気づけば陽の光が差し込む時間になっていた。


 優心はまず、綾乃のことを見たであろう管理人の元へと赴いた。

 このマンションの管理人は気の良いおじいさんで、基本常駐していることから住人にも愛されている。


 この日も例に漏れず管理人室で新聞を読んでいた。


「管理人さん、こんにちは」


「おお、優心くん。こんにちは。君が訪ねてくるなんて珍しいね、どうかしたのかい?」


 少ししゃがれた声で言葉を返す。いつもニコニコしていて、この笑顔と声、それにサンタクロースのような長いヒゲが印象に残る、そんな人だ。


「少し聞きたいことがあって。昨日のことなんですが、あや…氷川さんのことを見ませんでしたか?」


「ああ、そういえば君はお隣さんだったね。うん、綾乃ちゃんなら確かに見たよ。やけに大荷物だったのが気になって聞いてみたんだよ。そんな荷物背負ってどこに行くんだい、ってねえ」


 やはり見かけていたか。しかし大荷物か………となるとあまり遠くには行っていないのか?綾乃は意外と非力だから、重いものを持っての長時間移動は難しいはず。

 これで行動範囲はある程度絞れそうだ。でもまだまだ情報が足りない。


「それで、彼女はなんて答えたんですか?」


「ええっと確か………『あまり気乗りしない所へ。もう、戻ってこないと思います』だったかなあ」


 気乗りしない場所……… 綾乃は特定の何かに強い感情を抱くことはほとんどない。俺に語ってくれた所だと………あそこくらいか。だが場所も分からなければ本当にそこにいるのかも分からない。

 でも試してみる価値はある。それに知っていそうな人にも心当たりがある。


「すみません、話していただいてありがとうございました」


「こちらこそ、老人の話し相手になってくれてありがとう。また何かあったら聞きに来てくれていいからね」


「はい、その時はまた頼らせてもらいます」


 俺は管理人さんに別れを告げて、すぐに出かける準備をする。行き先は山﨑邸。目的の人物がいるか分からないけど、もしいなくても連絡を取ることくらいは出来るだろう。




 すぐ雛に連絡をして、車を回してもらえないかお願いする。なぜこんなお願いをしているかというと、山﨑邸の周りには交通機関が通っておらず、最寄りの駅でさえ30分以上かかってしまう。

 今は一分一秒を争う事態なので、使えるものは全て使う。


 車はすぐにやってきた。前回のようなリムジンではなく、4人乗りの黒のセダンだ。これも違わず高そうではあるが。


 予想通りというかなんというか、中には雛も乗っていた。


「トバっち、せっかく協力したのに何の説明も無し?それはちょっと酷いんじゃないかなぁ」


「………悪かった。だけど大和さんに言われたんだ、『君自身で解決しなさい』って」


「…それさぁ、多分勘違いしてるよ?」


 雛は呆れたような顔をする。俺1人で解決しろっていう意味以外に何かあるのか?



 優心は“自身の力”という言葉の意味を履き違えていた。自身の力、その中には優心自身だけでなく、“自身で築いた人脈”も当然含まれる。

 今まで優心がやっていたことは、“誠治の力”、つまり誠治が築いた人脈を使うことであった。そこに優心自身の人脈はほぼ関与していない。


「別に大和さんは協力するなって言ってる訳じゃなくて、たぶんいつもは大和さんの調査結果待ちとかそういう感じなんでしょ?」


「よく分かったな。知ってたのか?」


「いんや?あたし、人を見る目だけはあるつもりだから。トバっちは自分でも動くけど、周りに力を借りることが多いタイプでしょ」


 本当に人を、周りをよく見ている。さすが春馬の親友をやっているだけある。俺もそうだが、春馬の近くにいると自然と近寄ってくる人の為人が分かるようになってくるんだ。


「大和さんの力を借りたら、すぐ答えが分かっちゃうでしょ?それじゃ意味が無いってことなんだと思うよ?」


「ありがとう雛。おかげで俺のやるべきことが分かった気がするよ」


「それならアドバイスした甲斐があったってもんだよ。どうする?行き先変える?」


「いや、このままでいいよ。どっちにせよ、場所は分からないからね」


 俺が山﨑邸に向かっている理由、それは昏人さんに会うためだ。大和さんでダメなら昏人さんで、という浅はかな考えからだった。

 そんな考えはもうない。それでも俺が会いに行く理由は、少し疑問に思ったことがあったからだ。


「さ、着いたよ。一応パパは今日の朝まではいたんだけど、まだいるかは分かんないから」


「大丈夫。むしろこっちが無理言って連れてきてもらったんだから、それだけでも感謝しなきゃいけないくらいだ」


 山﨑邸の大きな門を潜り、一番大きな本邸に案内される。

 玄関ではキノじいが待っていた。思ったよりも早い再会となったが、笑顔で出迎えてくれたよ。


 既にこちらの目的を知っているようで、挨拶を終えるなり、俺の望む答えをくれた。


「優心様、旦那様は幸いまだいらっしゃいますよ」


「本当ですか!良かった、手詰まりにならずに済みました」


「ほほほ。さあどうぞ、旦那様はこちらの書斎でお待ちです」


 キノじいは頭を下げながら扉を開ける。そこには昏人さんともう1人、俺のよく知っている人物がいた。


「やあ優心くん。久しぶりだね」


「お久しぶりです、昏人さん。それで…なんでこの人がいるんですか」


「はっはっは、そう警戒しなくても良いじゃないか。君のことだ、僕の次に情報が手に入りそうな所に来ると思っていたよ。まあ正直に言うと、君がくだらないことを聞かないかどうか見張りに来たんだけどね」


「大和さん………………」


 そこでは、俺の行動を先読みしていた大和さんが待ち構えていた。


 でも大丈夫。俺が聞きたいのは、()()()()()()()()()のだから。




お読みいただきありがとうございます!

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