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隣で「おはよう」と笑う君を見たいから  作者: 山田 太郎丸
第三章 愛の炎は夜空の星より煌めいて

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49.春馬の作戦

少し長めです

 


 しばらくわちゃわちゃした後、優奈は迎えが来たということで帰っていった。

 最後に、「男見せなよ、お兄ちゃん」という余計な一言も添えて。


 今はいつものように二人でゆっくりする時間。旅のことを話したり、日常生活で気になったことの話だったり。

 そんな落ち着いた時間を過ごしているが、俺の心は全く落ち着いていない。


 その原因が、俺のポケットに入っている1枚の紙。さっき優奈から渡された花火大会のチラシである。

 正直、まだ誘うか決めかねているが、開催まであと3日しかない。誘うのであれば綾乃にも準備があるだろうし、遅くても明日が限度。そもそもOKをもらえるのかも分からない。


 だけどせっかくの機会だし、花火なんてもう何年も観てない。偶にはこういうのもいいんじゃないか。

 そう思ってはいるが、実際は優奈の言葉が耳から離れないだけだ。


『好きでもない人と一緒に生活するとか、ありえないから』


 分かってる、これは優奈からのエールだ。俺ならやれるって、背中を押してくれてるんだ。


 とりあえず誘うだけ誘ってみよう。あれこれ考えるのは、綾乃の同意を得てからだ。


「な、なあ綾乃」


「どうしたの優心。何か真面目な話かしら」


「い、いやそういうことじゃないんだけど………」


 ただ一言、花火大会に行こうって言うだけなのに口が思うように動かない。臆病な自分に嫌気が差す。


「…?変な優心ね」


 勇気を出せ優心。今出さなきゃいつ出すんだ、覚悟を決めろ!


 瞬間、思考が鮮明になる。

 そうだ、俺は綾乃が好きだ。その気持ち以外は何も要らないじゃないか。


「綾乃、これ」


「これは………花火大会?近くの神社で…へえ、お祭りもやるのね」


「一緒に行かないか?」


「日にちは…3日後………ええ、大丈夫よ。ふふ、楽しみね」


 っっっっはぁ〜〜〜〜〜。緊張した……………… これで第一関門は突破だな。

 第二関門は………頼れる親友にお願いするとしよう。









 翌日。


 時間が無いので、この日はお互い準備する日にしようと決め、朝食を食べたらすぐに家を出る。


 俺の目下の問題は格好だ。せめて綾乃の横を歩いていても違和感のないくらいには整えておきたい。

 そんな時は我が親友、春馬の出番だ。春馬なら服装だけではなく、整髪やメイクの心得もある。なにか大事なイベントがある時は、いつも春馬にお願いしているのだ。


 待ち合わせの駅前に到着し、春馬を待つ。集合時間の10分前だが、春馬を待つならこのくらいで良いだろう。多分あと2、3分もすれば来るから。


 3分後、周りからざわめきが聞こえ始める。これもいつものこと。春馬がカッコ良すぎて周りがどよめくんだよな。


「おーっす優心。深夜に連絡来たから何かと思ったわ」


「悪いな春馬、急に呼び出して。用件は伝えた通りなんだが………」


「任せろ、この俺が優心を最高にカッコよくしてやるぜ!」


 今日は電車で少し行ったところにある、ショッピングモールに行く予定だ。そこなら今回の目的である服やメイク用品が売っているし、それ以外にもありとあらゆる物が揃っている。


 電車に乗る前に沢山の人が春馬に話しかけていたが、春馬はそれら全てを無視していた。俺との会話に夢中だったってことにしておこう、うん。

 そうでなきゃ、この嫉妬と羨望の視線に説明がつかないからな。この感じもなんか久々だ。




 そんなこんなでショッピングモールに到着。時間的にはまだ店が開き始めたばかりなので、まずは適当にぶらぶらすることにする。


 時々、気になるものを見つけたらその店に立ち寄ってみたりして、中でも良かったものをリストアップしていく。

 自分の好みや春馬からのオススメも参考にしながら店を巡る。


 お昼過ぎ、そろそろお腹も空いてきたので何か食べようかと考えたその時。

 通り過ぎようとした店の中に見えた、一つの髪飾りが目に止まる。浮かんだのは、これを着けて祭りに行く綾乃の姿。


 俺は春馬に一言断りを入れてから、すぐにその髪飾りを買いに行く。

 買い終わって出てきた時には、春馬は若いお姉さんや芸能事務所のスカウトらしき人たちに囲まれていた。店に入っていたのは一瞬のことなのに、こんなことになるとは………1人になる瞬間を待ってたんだろうな。


 すぐにこちらに気づいた春馬は、助けを求めるような視線を送ってくる。いつもだったら自業自得だと笑い飛ばしているところだが、今日は俺の方が付き合ってもらってるんだし。さすがに助けてやるのが道理だよな。


「大丈夫か、春馬?」


「優心!買い物は終わったか?」


「ああ、バッチリだ」


 春馬は本気で安心したような顔でそう言う。春馬がこんな顔するってことは、相当鬱陶しかったんだろうな。それを示すように、俺の手をグイグイと引っ張っている。


 だが春馬を囲んでいたうちの1人の女が、行く手を遮る。


「ねえキミ、そんな暗そうなヤツと一緒にいないでさ、アタシたちと一緒に遊ぼうよ!そっちの方が絶対楽しいって!」


 その女に同調して他の人もぞろぞろと立ち塞がっていく。反対側に逃げようとしても、既に囲まれてしまった。

 騒ぎはだんだん大きくなり、なんだなんだと見物人まで現れる始末。


 どうしようかと春馬に視線を送った時には、もう遅い。春馬のこめかみには青筋が浮いていた。


「なあ優心。コイツら、どうする?もうやっちまっていいかなぁ?」


「やめなさい春馬。ヤクザみたいなこと言うんじゃありません」


「でもよぉ、久々に優心と遊びに来たってのに、こんなんで時間無駄にすんのはなぁ…」


「ここで暴れて警察のお世話になる方が時間の無駄になるぞ。あとお前が暴れたら洒落にならんからマジでやめろ」


 昔、俺が陰湿な嫌がらせを受けてた時、それを知った春馬が大暴れして木造校舎を破壊しかけた。老朽化のせいにして事なきを得たが。その時何人かは春馬にビビって自主退学していた。


 そんなことを思い出しているうちに、春馬は限界を迎えた。


「すまん優心、俺もう我慢できねぇわ。ま、警察の世話にできるだけならないように努力はしてみるからよ」


「おい待てっ、春………」




 その瞬間、見覚えのある小柄な人影が春馬の前に現れる。


「ハル、落ち着きなさい」


「あだぁっ!?」


 突然春馬に手刀を浴びせたのは雛だった。雛は痛がる春馬を尻目に、今まで聞いたことない鋭い口調で周りの人たちに話す。


「アンタたち邪魔なんですけど。さっさと消えてくんない?」


「ハァ?アンタこそいきなり出てきてなんなのよ。子供は引っ込んでなよ」


 先頭に立つ女は、一撃で雛の地雷を踏み抜いた。


「なんですって………?」


「あら聞こえなかった?背も胸も小さいお子様はとっとと帰れって言ってんだよ!」


「もっぺん言ってみろやゴルァ!」


 いや何しに来たんだよお前。女はことごとく地雷を踏んでいき、周りもあーだこーだと騒ぎ立てる。

 だが雛は発言とは裏腹に余裕そうだった。何か考えがあるのだろうか?


 遠くに警備員の姿が見えたので、ひとまず安心かと思ったが、それに気づかない雛が特大爆弾を投下する。


「まあアンタらがいくら騒ごうと無駄だし。だってコイツ、彼女いるから。ね、トバっち?」


 えっ、そうだったのか?そして俺にキラーパスを投げるな。その話全然知らないから、何も答えられないぞ?

 だが雛から、話を合わせろと言わんばかりの強烈な視線が飛んでくる。この際どうにかなるならなんでもいいや。


「ああ、そうだな。そういうことだからどいてくれないか?」


「証拠を見せなさいよ、証拠を」


「証拠?もうあるだろ。ほら、アンタの目の前に」


 俺は雛の方を指差す。雛は恨めしげな視線を向けてくるが、これが最善だと判断した。


「このちんまいのが?ハハッ、ないない。吐くならもうちょいマシな嘘吐けよ」


「なんだとテメェ!」


 落ち着け雛、本当にお前何しに来たんだよ。今のところ場が混沌となっただけなんだけど。

 ワーギャーと言い争っている二人を見て落ち着いたのか、放心状態になっていた春馬がようやく復活する。


「優心、これどういう状況だ?」


「雛がお前に彼女いるって嘘吐いたんだけど、色々あってその彼女が雛になった」


「はぁ、ならどうにかなりそうだな」


 春馬は喧嘩に近づいていく。一体、何をするつもりだろうか?


「ヒナ」


「あっ、ハル。この人全然聞く耳持たないんだけど」


「それは見りゃ分かる。なあアンタ。俺とヒナが付き合ってる証拠があればいいんだろ?」


「それはそうだけど………」


 すると春馬は、雛にすまんと断りを入れて衝撃の行動に出る。




「ちょっとハル、顔近づけて何するつも………え、いや、待って待って!まだ心の準備がぁ………」


「動くなよ」




 春馬は雛に顔を近づけていって、キスをした………………ように見えた。

 俺以外には見えない角度だったので周りの人々は完全にキスをしたと思っているはずだ。春馬の作戦はどうやら上手くいったようだ。


 一瞬の口づけの後、雛が頬を赤らめてわざとらしく唇を触る。しれっと春馬の腕も握っている。それを見た女は悔しそうに引き下がっていった。

 その様子を見たギャラリーも、これで終わりかと言わんばかりに捌けていく。結局、あの警備員は何もせずにギャラリーと一緒に戻っていった。マジで何しに来たんだ。


 これで残ったのは俺たち3人だけ。結果は知っているが、一応問い質す。


「今の、本当にしてた訳じゃないだろ?」


「さあ、どうだろうな?そんなことよりメシだメシ。余計なカロリー使っちまったぜ」


「あっ、待ってくれよ春馬。雛も一緒に食べるだろ?」


 そう聞くと、雛はコクンと小さく頷いた。依然、頬は赤いままだった。




 結論から言うと、二人はキスをしていなかった。ただほんの少しだけ、ほんの少しだけ唇の先が当たったように見えなくもなかった。



お読みいただきありがとうございます!

感想、誤字報告もどんどんください!

高評価もして下さるとものすごく作者の励みになります………!!!

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