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隣で「おはよう」と笑う君を見たいから  作者: 山田 太郎丸
第三章 愛の炎は夜空の星より煌めいて

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48.妹の苦難

不定期にはなりますがなんとか週3更新は続けていきます

 


 事故に遭ってからの話も終えて、優奈がそろそろ帰ろうとしたその時。不意にインターホンから音が鳴る。

 外からの映像を覗くとそこには。


「ん?…今日は来なくていいって言ったのになぁ」


「まさかお義姉さまが来たの!?」


「そうだよ。理由は大体察しがつくけどな」


 大方、ぼっち飯は寂しいとかそういう感じだろう。

 暑い中外で待たせっぱなしなのも悪いので、とりあえず部屋に上げる。この場に優奈がいるのが癪だが。非常に癪だが。


「こんばんは、優心、優奈ちゃん」


「こんばんは。どうかしたのか?」


 回答は案の定、


「一人でご飯食べてても何処か味気なくて………」


「そんなことだろうと思ったよ」


「なっ………!寂しがりで悪かったわね!優心のバカっ!」


「うわぁ、お兄ちゃん最低。私は綾乃お義姉さまの味方ですからね!」


 優奈が綾乃に抱きつき、俺のことを蔑むような目で見てくる。綾乃も優奈の頭を撫でながら、射殺すような視線で見つめてくる。とても居心地が悪いです。


「ありがとう優奈ちゃん。そうだ、優奈ちゃんも一緒に食べていかない?みんなで食べた方が美味しいでしょう?」


「えっ!いいんですか!?そういうことならぜひ!」


「じゃあ早速作るわね。優心、お皿の準備して」


「あっ、はい」


 さっきの失言は無かったことにしてやるからと言わんばかりの圧で、俺に仕事を命じてきた。とはいえ、いつもやっていることだからただのポーズだが。


 お互いいつもと同じようにテキパキと準備を進めていく。今日は優奈がいるので、普段使わない食器も棚から引っ張り出してくる。


「今日は何を作るんだ?」


「そうね………あまり時間も無いし、簡単な炒め物にでもしようかしら」


「そういえば特売の豚肉があったな。分かった、それなら…こっちの皿か」


「完璧に息が合ってる………まるで熟年の夫婦みたいな」


「「っっっっ!?!?」」


 危ない危ない、運んでいた皿を落とすところだった。よし今のは聞かなかったことにしよう。野菜を切っていた綾乃の手が止まっているのと顔が真っ赤になってることも知らない。


「ゆ、優奈ちゃん?一体何を言ってるのかしら」


「だってそうじゃないですか。必要最低限の会話だけでお互いがやるべきことを理解する………無自覚でやってるのが恐ろしいですよ」


「「だって癖になってるし………」」


「そういうとこですよっ!」


 仕方ないじゃないか。毎日、特に夏休みに入ってからは夕食以外も共にすることが多いので、自然と役割分担してしまうのだ。


 それから会話も無く数分が経ち、料理が完成する。

 献立は野菜と豚肉の炒め物に付け合わせのサラダ。そしていつの間にか完成していた味噌汁だ。本当にいつ作ったんだよ。


「「「いただきます」」」


「………お、美味しい……… お兄ちゃん毎日こんなの食べてるの?羨ましいんだけど」


「だろ?綾乃の手料理は絶品なんだよ」


「なんで貴方が誇ってるのよ。そんなに気に入ったのならいつでも食べに来ればいいわよ。今更一人分増えたところで手間は変わらないし」


 さすがに毎日という訳にはいかないが、偶にならいいだろう。綾乃が言った通り、みんなで食べた方が美味しいからな。


 それから綾乃と出会ってからの話などをして、気づけば皿は全て空になっていた。


「「ごちそうさまでした」」


「お粗末様でした」


「お粗末だなんてとんでもない!これが粗末なら世の中の料理は大体粗末ですよ!」


「やめなさい。他の人をあまり貶すものじゃないぞ。それじゃ、俺は食器を洗ってくるから二人はゆっくりしててくれ」


 そう言って優心はシンクの方へ向かう。

 優心の隣に座っていた優奈はすぐに綾乃の隣に座り直した。


「さて、突然ですがお義姉さま。率直に聞きますけど、お兄ちゃんのこと好きですよね?もちろん恋愛的な意味で」


「………私って分かりやすいかしら。出来るだけ隠しているつもりではいるのだけど」


「いやわかりづらいとは思いますよ。私がそういうのに敏感なだけですよ」


 気持ちは分かるわ、優奈ちゃんも可愛いもの。私だって自分の見目が良いのは分かってるし、それが原因でトラブルになることも少なくなかったから。


 だから最初は優心のことも警戒していたし、ここまでする気はなかった。でも優心の、人の温かさに触れて警戒心なんかすぐに無くなったわ。本心からの行動だってすぐ理解したもの。


「それでそのことがどうかしたかしら?言っておくけど、私は優心と付き合うなんて考えてないわよ」


「この二人はほんっとに………はぁ、理由を聞いてもいいですか?」


「私は人を幸せにできないから。どんな人でも最後には私から離れていくのよ」


 お父様や妹、小学生の頃の友人。それにあの人だって………


「その理由って分かってるんですか?」


「いいえ、分からないわ。知らないうちに何かしてしまったのではないかって、ずっと不安で…」


 私は後輩に何を話してるんだろう。自分を慕ってくれているのに情けない姿ばかり。これじゃ、優奈ちゃんも幻滅したでしょうね………


「お義姉さま。これは内緒ですけど、お兄ちゃんは離れる気はなさそうですよ?」


「………えっ?」


「多分ですけど、お兄ちゃんはもうお義姉さま無しでは生きられない体になってます」


「それはむしろ私の方なのだけど………」


 もしも優心がいなくなったら、私は本当に死ぬかもしれない。ウサギではないけれど、それくらい優心に依存してるって、理解してしまっている。


「うっわぁ………もうどうしようもないなぁ…。さっさとくっ付けばいいのに………」


「優奈ちゃん、どうかした?」


「いえいえ、何でもないですよ!と・に・か・く!お義姉さまは気にしなくていいんです!お兄ちゃんが離れていくなんてこと、絶対にありえませんから!」


「そうかしら……… もしそうなら、とても幸せなことね」


 ずっと一緒にいたい、その気持ちが膨れ上がっていく。同時に、それは実現することはないと、心の何処かで思っている自分もいる。

 優奈ちゃんには申し訳ないけれど、()()()()()()()。そう決まっているのだ。それがこの生活を認めてもらう条件だったから。


「二人とも随分楽しそうに話してたけど、何話してたんだ?」


「お兄ちゃんはバカだなぁって」


「おい待て妹。久々に会った兄に対してなんという口の利き方だ。というかさっきから思ってたんだが、俺のこと完全にナメてるよな?」


「ソンナワケナイジャン」


「思ってないだろ。そんなこと言うんだったら合鍵は返してもらうぞ」


 じゃれ合いを始める二人を見て綾乃は、今この瞬間だけは楽しんでいようと思うのだった。



お読みいただきありがとうございます!

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