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隣で「おはよう」と笑う君を見たいから  作者: 山田 太郎丸
第三章 愛の炎は夜空の星より煌めいて

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46.帰路

遅れてすみません。

 


『そんじゃ二人とも。また学校でな』


『お土産、楽しみにしてるからねー』


「ああ、またな」


 優心たちは気づけば日を跨いで、互いの旅の思い出話に華を咲かせていた。

 しかしいつもは早めに寝ている綾乃が、慣れない夜更かしでウトウトし始めたのでそこでお開きとなった。


 そして優心はウトウトを超えてほぼ眠っている綾乃の扱いに困っていた。




「おーい、綾乃。そろそろ離れてくれー」


「………うぅん……」


 さっきから何度も呼びかけているのに、一向に起きる気配がない。

 このままだと俺が寝れなくなってしまう。主に理性の面で。


 何故かって?何を隠そう綾乃は今()()()()()()()()眠っているからだ。

 俺に抱きついて寝息を立てている。少し前にも似たような出来事があったな……… あの時は此処まで酷くは無かったが。


 さて、どうしようか。抜け出そうにも俺の襟元をしっかりと握ってしがみついている。

 だからと言って無理矢理引き剥がして怪我をさせたら最悪だ。


 ………根気強く呼びかけるしかないか。


「綾乃ー、起きてくれー。このままだと俺が寝れないんだけどー」


「………うぅん………」


 ダメだ、さっきと反応が全く同じだ。もっと目が覚めるようなことを言った方がいいか?


「そっちが起きないなら、俺が狼になっても問題ないってことだよな」


「………おおかみ……ふふ………」


 何が面白いのだろうか。でも声は届き始めてるから、もうひと押しだな。

 少し違う方向性で攻めてみようか。


「うっ………苦しい………綾乃が起きないと死んじゃうかも………」


「………ゆうしん………?……死んじゃやだ………独りにしないで……………ん」


 綾乃の目がうっすらと開く。優心はずっと綾乃の目を見ていたので、もちろん目が合う。

 すると顔がみるみる紅く染まっていき、飛び去るように瞬時に離れた。


「ゆ、優心?えっと、その、ごめんなさい?」


「何故に疑問形」


「ちょっと頭が混乱していて………」


 ふむ、なるほど。そういうことなら………


「俺が最初から丁寧に説明しようか?」


「やめてちょうだい。私が何をしでかしたかは理解しているから………」


 そう言って俯く綾乃。どうやらかなり落ち込んでいるようだ。


「大丈夫、綾乃がああなるのは何となく分かってたから」


「それ、フォローになってないわよ………」


「まあ、もう夜も遅いしさっさと寝ようか」


 綾乃は不機嫌そうに頷くと、そのまま布団に潜り込んでしまった。


 そして眠る前に一言。



「優心………本当にいなくならないよね………?」


「神に誓って」


「あらそれは残念。私、神は信じない主義なの」


「ははっ、これは一本取られたな」


 最後の最後でやり返されてしまった。油断ならないな全く。


「おやすみなさい、優心」


「おやすみ、綾乃」


 明日は帰るだけだし、最後くらいゆっくりしたいなぁ。











 迎えた旅行最終日。


 昨日は色々なことがあったというのに、何故か二人ともぐっすり眠れたようだ。

 優心は気持ちの良い朝を迎えていた。




 なんだ、もう朝か。カーテンの隙間から差し込む光が眠気を飛ばしてくれる。

 綾乃は………もう起きてるのか。洗面所の方から音がするから、朝の支度中といったところだろう。


「あら、おはよう優心」


「おはよう。ずいぶん早いな、ちゃんと寝たのか?」


「当たり前よ。いつもより睡眠時間が短いのは確かだけど、その分帰りの新幹線でたっぷり寝るわ」


 準備が出来たら食事会場に向かう。味噌のいい香りがするし、今日は和食みたいだな。

 なお俺たちは二人とも朝食はパン派である。


 朝食を済ませて、荷物をまとめる。今日の昼には東京に戻るので忘れ物がないかの確認もしなければならない。

 とはいえ、昨夜のうちにほとんどチェックは済ませてあるので、確認するのは今朝使ったもののみだ。


 最終確認を終え、部屋を出ようとしたところでチャイムが鳴る。こんな時間に誰だろうか?


「おはようございます。その様子ですと、丁度部屋を出られるところでしたか?」


 そこにいたのは、支配人の牧野さんだった。


「おはようございます。ええ、そろそろ移動しなければ帰りの新幹線に間に合わなさそうなので」


「そうでしたか。それならこちらでチェックアウトは済ませておきます。と言ってもそんなもの要らないのですけどね」


 牧野さんはハハハッ、と愉快そうに笑う。言われてみれば、ここは関係者だけしか泊まれないプライベートなフロアだから、手続きとかがそもそも無いのか。


「そういう訳ですので、最後まで宮城を存分にお楽しみ下さいませ」


「ありがとうございます。三日間、お世話になりました」


「とても過ごしやすかったです。機会があればまた」


「満足していただけたようで何よりでございます。またのご来館をお待ちしております」


 俺たちはエレベーターに乗り込む。牧野さんはドアが閉まるまで、深々とお辞儀をしていた。




 二人はホテルを後にして、仙台駅に向かう。行きと同様に距離があるので、土産を探している時間はあまり無いと思われるが、雛にはタダで泊まらせてもらってる手前用意しない訳にはいかない。


 電車で一時間と少し。仙台駅に到着したが、現在時刻は11時23分。新幹線の時間が12時半なので、自由に動けるのは一時間も無い。


 ということで二人は、広い駅の中を歩き回って探すことにした。




「なんかいい感じのお土産無いかなー」


「有名なお菓子とかを選んでもいいのでしょうけど、それだと志田君にはあまり意味が無いわよね」


「そんなこともないけどな。ほら、俺たちって結構田舎の方に住んでたから」


 田舎の方に住んでると、正直県外に住んでいるのと変わらないくらいにしか名産品に触れなかったりする。感覚的には結構新鮮なのだ。


「それならそれを買えばいいんじゃない?」


「でもそういうお菓子とかって向こうでも買えたりするしな。せっかくならこっちでしか買えないものが良いよなぁ」


 そんなことを話しながら物色するが、中々良いものが見つからない。そんなこんなで時計の針は正午を回っていた。

 結局何も見つからなかったので、みんな大好き萩の月を選んだ。これを選んでおけば、まず外れることは無い。


 帰りの新幹線に乗り込み、列車は動き出す。綾乃は新幹線で寝るという宣言通り、ものの数分で夢の世界へ旅立った。


 優心は隣で眠る想い人を見ながら、今回の旅を振り返る。

 青葉城を見学したり、雛の悪戯に叫んだり。ベッドが1つしか無くて悶々としたり、風呂上がりに変な空気になったり。それに綾乃の過去の話もしたな。

 でも一番衝撃だったのはやっぱり優奈だな。俺に家族はもういないと割り切って生きてきたけど、優奈が生きていたし、大和さんも俺たちの叔父さんだった。帰ったら色々話し合わないとな。


 ふう、とため息をひとつ。今考えてみても激動の旅だったな。これからどうすればいいんだろうな………

 優奈のこともそうだし、綾乃のことだって。綾乃に想いを伝えたいけど、今の関係が壊れてしまうのがたまらなく恐ろしい。それくらい俺は綾乃無しじゃ生きていけなくなってるんだろう。


 色々考えているうちに、車内アナウンスが流れる。


『次は〜、東京〜。東京〜』


「っと、もう着くのか。綾乃、起きてくれ。そろそろ着くぞ」


「……ん…ありがとう………。ぐっすり眠れたわ」




 二人は帰路に着く。

 帰り道を並んで歩く二人の距離は、少しだけ縮まっていた。



お読みいただきありがとうございます!

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