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隣で「おはよう」と笑う君を見たいから  作者: 山田 太郎丸
第二章 今はまだ遠くても誰よりも近いから

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31.幼馴染み

 


 山﨑家が全員集合するという、なかなかにすごい光景を見た。その後、昏人さん達は泊まらずにそのまま海外に飛び立つと言ってすぐに戻ってしまった。


 また来てくれ、と言っていたが流石に気後れしてしまう。この家にお邪魔することはもう無いだろうな。


 そんな訳で夕食を終え、大浴場へと向かう。ちなみに男風呂と女風呂で分かれているらしい。そもそも家に風呂が二つもあるという時点でおかしいのだが。


「それじゃ、また後でねー」


「トバっち、あーちゃんのこと覗いちゃダメだぜ?」


「誰が覗くか!ったく、馬鹿なこと言ってないでさっさと入れ」


「その通りよ雛。時間は有限なのだから早く行くわよ。………やっぱりきついお説教が必要みたいね」


「ひょえぇぇっっっ!?トバっち、見てないで助けて〜〜!」


 雛の助けを求める声を無視して男風呂に入る。


 そこに広がっていたのは、


「「「でっか……………」」」


「昏人さん張り切ったなー」


 そう、大きい。ただひたすらに大きい。数人が入るとかいうレベルではなく、二十人、下手をすれば三十人は入れそうな巨大な浴槽と、大理石で出来た壁面。そしてよく分からないライオンの置物と、まるで海外のような立派な大浴場だった。


 早速、身体を洗って湯船に浸かる。




 はぁぁぁ〜〜〜、極楽。勉強で疲れた脳に丁度良く熱いお湯が沁みる。


「いや〜最高だなあ。山﨑はこんなのに毎日入れるのかよ、羨ましいぜ」


「ああ、俺も練習後に毎日入りたいくらいだ。柔道はどうしても汗をかく競技だからな」


「これなら何時間でも入ってられるな………」


「やめとけ春馬、のぼせるぞ………」


 控えめに言って最高だ。春馬の言う通り、いつまでも入っていられそうだな。これだけ至れり尽くせりだと、勉強会をするために来たことなど忘れてしまいそうだ。


 俺達はあまりの心地良さに少し長湯してしまった。女子もそろそろ出てくる頃だろうと思い、少し急いで出るとそこには浴衣を着た綾乃達がいた。


 その衝撃に俺は思わず息を飲む。………やばい、これは破壊力がすごすぎる。普段は見ない風呂上がりの姿。少し濡れた髪に火照った肌。全てが俺の精神を刺激してくる。

 と、そこで綾乃と目が合う。


「優心、あんまりジロジロ見ないでくれる?流石に恥ずかしいわ」


「ああごめん、お風呂上がりの綾乃ってなんか新鮮でさ。その、少し見惚れてた」


「そ、そう。………ふーん、見惚れてくれたんだ………」


「あーちゃん、トバっち。人の家であんまりイチャイチャしないでくれる?」


「「してない」」


「そういうとこだよ!」


 たまたま揃っただけだろ?言いがかりにも程がある。………そういえば春馬と雛以外にはただのお隣さんで通して気がする。これ、新鮮とか言ったらダメだったか?

 そしてこの場にはそういうのに敏感な人がいる訳で。


「優心、まるで普段の氷川を知っているような口ぶりだったな。まだ俺達に隠していることがあるんじゃないのか?」


「あら、全て話してなかったのかしら?」


「隠すつもりはなかったんだよ。ただ説明するタイミングが無かっただけで」


「その辺りは後でたっぷりと聞かせてもらうさ。女子がいる場じゃ話しづらいこともあるだろうしな」


 なんだその無駄な配慮は。色々聞かれることは確定なんだな………

 どうせいつかは話さなければならなかったことだし、それ自体は構わないのだが相手が孝太ということに不安しか感じない。


 その後、少し話してからそれぞれの就寝場所へと戻った。





 部屋に戻ると、そこには既に布団が敷いてあっていつでも寝ることができる状態になっていた。メイドさんの仕事が速すぎる。そして机の上に部屋を出た時には無かった一枚の紙が置いてあった。



『雛様のご学友の方々へ この度は雛様の招待に応じていただきありがとうございます。私どもは久方振りに雛様の笑顔を見ることが出来て大変嬉しく思いました。数年前から他のご家族の皆様がご多忙を極めておられるため、寂しがるような素振りを見せていたのも一度や二度じゃありません。そんな雛様が近頃楽しそうに学校での出来事を話すのです。そこに寂しいといった感情は一切ございませんでした。直接お伝えしたかったのですが、雛様に知られる訳にはいきませんので、文面にて失礼致します。皆様に心からの感謝を。  使用人一同』



「これは………」


「これ、山﨑が知ったら発狂もんじゃないか?」


「だろうなあ。ヒナはこういうの恥ずかしがって絶対口に出さないからな。ま、態度に出てるからバレバレなんだけどな」


 思わぬところで雛も寂しがり屋だということが判明したが、今はそれよりも聞かなければならないことがある。なあ、春馬?


「春馬、ずっと聞こうと思ってたんだが、お前雛と昔からの知り合いなんじゃないのか?」


「そりゃ隠し切れる訳ないよなー。雛の家に来ちゃったらほぼ全員知り合いだし」


「どういう関係なんだ?」


 そして春馬は語り出す。雛とどんな関係なのか。




 俺はそこそこ裕福な家庭で育った。母が山﨑家の使用人で、父は山﨑財閥の中核企業で部長をやっていた。

 その事もあって、割と頻繁に山﨑家には出入りしていた。中でも同い年ということもあってヒナとはよく一緒に遊んだ。昏人さんは忙しいし、お兄さん達も歳が離れていた。俺も両親が忙しかったから、自然とそうなってたんだよな。

 周りもそんな俺達に気を遣ってかずいぶんと良くしてくれた。特に信乃さんなんかは、俺のことを本当の息子のように可愛がってくれたっけな。

 俺達は家も近かったから通う学校も必然的に同じ所になった。学校ではヒナを守れる人がいないから、お前が守ってやれ、なんてお兄さん達に言われてたな。あの人達ヒナのこと溺愛してるからな。


 それからしばらく経って、母さんが体調を崩した。昏人さんや信乃さん、キノじいはいつでも帰ってきてと言ってくれたが、結局そのまま辞めることになった。

 どこか静かな所で療養させようと父さんが言ったのがきっかけで、東京から宮城の比較的田舎の方に引っ越すことになった。もちろんヒナともしっかり別れの挨拶はした。『いつかまた会おう』ってな。





「そして優心に出会った。そこからは知っての通りだ。いわゆる幼馴染みってやつだよ」


「そうだったのか……… あれ?でも春馬と雛が一年生の時に会ってるところ、見たことないんだけど」


「別に優心と四六時中一緒ってわけじゃねえし、俺も何も予定がない日ぐらいある。そういう時に2人で会ったりしてたな」


 マジで初耳なんだが。学校で話しているところは見たことが無かったので、どこで会っているのかと思ったらそういう事情があったのか。


「まさかこの学校を受験するの決めた理由って」


「まあヒナがいたからってのも理由の一つではある。でもそれだけが理由じゃないぞ?ここ普通に進学実績良いし」


「お前からそんな言葉が聞けるとは」


「俺だってちゃんと考えてるんだぞー?」


 春馬がそういうのはしっかり考えるやつだってことは分かってるが、それにしたって違和感がすごい。

 そういえば前から思ってたんだが、春馬と雛って割と似てるよな。普段は呑気だが、やる時はやる。多分幼少期を共に過ごしたからこそ、似たような性格になっていったんだろうな。




 夜は更けていく。他愛もない話をしながら、優心は今はこの時を楽しもうと思った。



お読みいただきありがとうございます!

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