28.偏見
各々、テストに向けて勉強を進め、気づけば残り一週間というところ。
ついにこの日がやってきた。
「よっしゃー!お泊まり会の始まりじゃー!」
「雛、お泊まり会じゃなくて勉強会よ」
「あと駅前で騒ぐな。ただでさえ人数が多いのに余計目立つだろうが」
来る土曜日。優心達8人は高校から最寄りの駅に集合していた。そしていつもと違う点が3つ。
一つ目はいつもの4人に加えて、それぞれの友人がいること。
二つ目は全員私服であること。
そして最後の一つは——————
「あと何で車で移動するって教えてくれなかったんだよ」
「優心、ツッコむところはそこじゃねえぞ」
「「リムジンだすげー!」」
そう、雛の家はなかなかの富豪であるらしく、道順を尋ねたところ、駅前で集合して待ってろとのことで、雛以外の全員が割と早く集まった。
そのタイミングで優心が雛に連絡を入れたのだが、
『もうすぐ着くよー』
と返信が来たために、特に気にせず待っていた。すると突然、駅前のロータリーに似つかわしくない黒いリムジンが姿を現した。
「よっしゃー!お泊まり会の始まりじゃー!」
そして現在に至る。
車に乗り込んだ優心達は雛を質問責めにしていた。
「雛ちゃ、この車いくらなの!?」
「最初に聞く質問がそれかよ」
「んーとねぇ……… 確か四桁は超えてたと思うけど」
「「「四桁ぁ!?!?」」」
どうやら雛はとんでもないお金持ちだったらしい。四桁超えとか一生乗ることはないんだろうなぁ、と噛みしめながら、雛のお嬢様エピソードを聞き出していく。
専属のお手伝いさんがいるだの、食事は三つ星レストランの元料理長が担当してるだの、俺達一般庶民が辿り着ける領域ではなかった。綾乃はいつものごとく、特に驚きはしていなかったが。
そうこうしている内に目的地に到着したらしい。
今回使わせてもらうのは、普段雛と家族が暮らしている本邸の方ではなく、主に客人が来た際に使われる別邸だということだ。
車を降り、門をくぐり抜ける。…いや、この門のサイズで別邸なのかよ。本邸の入り口は見えなかったが、どれだけ豪華なのか気になるな。後で見せてもらえないだろうか。
「「「お帰りなさいませ、お嬢様」」」
「うん、ただいまー」
「「「ひえぇ………」」」
門の先には、ぱっと見10人以上はいるであろう使用人の姿が並んでいた。こら、そこのギャルズ。勝手に写真を撮るのはやめなさい。
「ようこそおいで下さいました、ご学友の皆様。お荷物、お預かり致します」
「あっ、すみません」
「いえ、お気になさらず」
そんな使用人の中でも、特段オーラの違う方が1人いる。
「ほっほっほ。春馬様、ご無沙汰しております」
「キノじい、久しぶり。もう10年になるか」
「そうですな。春馬様がお引越しなさってめっきり会えなくなりましたからな。ご用件は聞き及んでおります。皆様、どうぞこちらです」
「ありがとうキノじい。みんな、こっちだ」
なんか凄そうな雰囲気を漂わせる老執事。
春馬、あの老執事と知り合いっぽかったな。これも後で聞かなきゃな。
ちなみにあの老執事のお名前は木野さんというらしい。別に髪型がキノコヘアーとかではない。
そして木野さんに案内されること5分。いや家の中で5分て。どんだけ広いんだこの家… しかもこれで別邸とか、本邸に行ったらどうなってしまうのか。
ようやく到着したのは、家だった。
そう、家である。簡単に言うと、家の中に家があるのだ。何言ってんだって思うだろ?でもこんな立派な家が建ってたらみんなこうなると思うぞ。
「「「でっか………」」」
「「雛ちゃすげーーー!!!」」
「いやいや、あたしはすごくないよ。すごいのはパパとママ。今も仕事で海外に行ってるんだから」
俺はてっきり海外旅行にでも行ってるんだと思っていたが違ったのか。世界を股にかける富豪夫妻……… 山﨑という苗字………思い出した。
「なあ、もしかして雛の両親ってあの山﨑財閥だったりしないか?」
「おい優心、流石にそりゃないだろ。あのグループは俺がアメリカにいた頃から世界中で有名だったからな。俺も一度だけあそこのホテルに行ったが、ありゃヤバかった。何というか、天国ってここのことを言ってるんだと思ったぜ」
「そんなに褒めてくれてありがとなジョージ〜」
「………えっ…マジ?」
「うん、大マジよ。ウチのパパが会長で、ママが秘書なんだ」
「………みんな、今までありがとな」
ジョージ、お前のことは忘れない。
「いや何もしないよ!?あたしのこと何だと思ってるのさ」
「世界的大企業の社長令嬢。逆らったら消されるような存在」
「そんなことしないって。あたしら友達でしょ?」
なんと雛は世界的企業の令嬢だった。普段の様子を見て、誰が気づけようか。あのおちゃらけた雛を見ていると、どうしても信じられない。
ここまで影になっていた孝太も同じことを思っていたようで、
「でも信じられないな。これがあの山﨑財閥の令嬢だって?」
「これとはなんだ、これとは。あたしは家を継がないから自由にしてるだけだし」
「継がないのか?」
「トバっち、あたしが会社の経営とか出来ると思う?」
うん、無理だな。この人に社員、それもかなり優秀な人達をまとめられるとは到底思えない。俺だったらすぐ倒産させそうで怖いから、後継者候補からは真っ先に外すな。
「出来ないとは思うが、そうしたら誰が継ぐんだ?」
「あたしお兄ちゃん2人いるし、どっちかじゃないかな?今は2人とも日本の支社で重役らしいけど」
「まだ若いのにすごいな」
「そこまで若くないよ。あたしとお兄ちゃん達、結構年離れてるし」
そんな話をしながら、家の中の大部屋に到着する。女子とは建物が違うようで、この後向かいの家に移動するらしい。つまりこの家を男子4人だけで使うということ。………不安だなあ。
「なんかあったらキノじいに言ってね。一応、ここにも人を2、3人残しておくから」
「それは助かる。正直、俺1人じゃこいつらの面倒見切れないからな」
「じゃあまた後でね〜。ほら、あーちゃんも行こ?」
「え、ええ。また後で」
そう言うと女子達は去っていった。…最後、綾乃の表情が少し曇っていたな。何か悩みがあるなら解決してやりたいが、本人に話す気が無ければ無理に話してもらわなくても構わない。俺達はそういう関係だからな。
さて、荷物の整理でもするか。
一時間後。
再び集まった俺達は、各自の現状を把握することにした。
「それじゃ、前回の成績表とこの間配った小テストを渡してちょうだい」
先程の曇った表情は見る影もなく、いつもの無表情に戻った綾乃は用意していた物を渡すように求める。
結局うまくはぐらかされてしまい、原因は分からず仕舞いだった。
「ありがとう。志田君、小テストの採点手伝ってくれる?」
「おう」
少し時間がかかるようなので、俺達は各自の勉強をすることにした。みんな、特に雛も含めたギャルズは意外にも静かに勉強していた。
しばらくして。採点が終わったようなので、自分の勉強を止めて小テストの結果を確認する。…このままじゃダメだな。そこに書かれていた点数は赤点ギリギリのライン。綾乃は少し難しめに作ったというが、それでもこの点数はいただけない。
「優心、そこまで落ち込むことはないぞ?俺も氷川さんも少し難しすぎたかって心配してたぐらいなんだから」
「でもギリギリなことには変わりないし、普段綾乃に教えてもらってるから解けただけかもしれない。どれだけ準備しても、しすぎってことは無いだろ」
「そうだな。それよりも優心。あのギャル2人だがな、割と頭いいぞ」
なんですと?全然そういう風には見えないが。まあ都内でも上位の偏差値を誇る古見高校だからな。ある程度の学力は備わっているはずだけど、このギャルズがねえ。
「少なくともお前よりはかなり上だな。たぶん二桁上位は常連なんじゃねえかな」
「なになに春馬っちょ、ウチらがどうかしたー?」
「いやなんでもないよ。2人とも頭良いんだなーって」
「でっしょー?こう見えてちゃんと勉強してるんだから」
舐めたこと言ってすんませんでした。
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