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隣で「おはよう」と笑う君を見たいから  作者: 山田 太郎丸
第二章 今はまだ遠くても誰よりも近いから

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24.綾乃の暴走

 


 綾乃がとんでもないことをやらかした。いや、もしかしたらとは思ってたけどね?本当にやると思わないだろ。本人はめっちゃ満足そうだし。


 さて、ここからどうフォローするかな。とりあえず正直に答えるのだけはアウト。いっそのこともっと匂わせるか?いやダメだな、それだと余計に騒ぎが大きくなる。何とかして誤魔化すしかないか?でも、俺誤魔化すの下手らしいしな……。


 周りがざわつく中、俺は諦めの境地に至った。これ俺が何しても悪化するだけだ。だったら何もしないのが一番じゃないか?


「名前呼びとはどういうことだ戸張」


「いや俺だって知らないよ。急に呼ばれたんだから」


「もしかして今までの出来事は氷川さん主導だったってこと?戸張君は隠れ蓑にされてただけ?」


「どうなんだ氷川さん?」


「あら、いつもみたいに綾乃って呼んでくれてもいいのよ?」


 これ以上余計なことを言うなぁぁぁぁぁ!!!事態がどんどんややこしくなるだろうがぁぁ!!


 抗議の目線を向けても綾乃は知らぬ存ぜぬの態度。というか、そもそも綾乃は何がしたいんだ?………まさか学校でも寂しいとか言わないよな。いや、言いそうだな。急に大胆な行動に出たのもそういうことなのか?


「そんなこと知らないし呼ばない。そもそも呼び始めたのは昨日だろ?………あ」


 やばいしくじった。昨日のことを考えていたせいで注意力が散漫になっていた。氷川さんも誰にも気づかれないように笑っていた。はあ、もう誤魔化せないか。


「そうだよ、俺と綾乃は名前で呼び合ってる。昨日呼び始めたばっかだけどな」


「そうなのか………いや十分羨ましいわ。ちなみに俺も名前で呼んでもらうことって…………」


「ダメに決まっているでしょう?優心だから特別に呼んでいるだけよ?」


 クラスメイトの男子への返答でさえ、綾乃はひたすらに地雷をばら撒いていく。


「それとも、優心は名前で呼ばれるのは嫌いだったかしら?」


「いやそうじゃないけど………」


 徐々に2人だけの甘い空間が作られていく。


「ならいいわよね?別に誰かに迷惑が掛かる訳でもないでしょう?」


「はあ、綾乃がいいなら俺は構わないけど。でも俺達って()()()()()だろ?そこまでする必要も無いんじゃないか?」


 俺は何とか反撃する。が、これはどうやら悪手だったらしい。

 綾乃は、シュン……と泣きそうな表情になって、


「ただの隣人だなんて………私達の関係はその程度だったのね……… 分かったわ。これからは名前呼びはしない。そしてお弁当も作らないわ。だってただの隣人、だものね………」


 サイテー、クソ野郎、よくも女王様を…等々、罵詈雑言が浴びせられる。…今のは少し言い過ぎたな。後で謝らなければ。あとしれっと俺の弁当も作ってることをバラすな。

 だがその前に、この件の元凶をどうにかする必要がある。


 なあ?山﨑さん。さっきから俺の視界の端で笑いを堪えてるの、気付いてるからな。

 山﨑さんと目が合い、俺は目線で抗議する。すると、山﨑さんは舌をペロっと出し、額に拳をコツンと当てながら謝ってきた。どんなに可愛くやっても許さないからな。昼休み、フルに使ってお説教だ。

 俺が説教をしようとしたのに気付いてか、徐々に縮んでいく山﨑さんの姿が見えた。


 さて、そろそろ茶番も終わらせるか。


「綾乃、もう演技はやめていいぞ」


「あら、意外にバレるのが早かったわね。その様子だと雛がボロでも出したのかしら」


「ずっと腹抱えて笑ってたぞ」


「計画を考えた張本人がバラすような行動してどうするのよ…」


 どうやら俺の考えたとおり黒幕は山﨑さんだったみたいだ。でもどうしてこんなことをしたのか。後で本人に聞かなきゃ分からなそうだな。


「演技?」

「どういうことなんだ?」


 疑問が噴出するのも当然だろう。だって当事者の俺も意味分かんないからね。


「さて、説明してもらおうか?山﨑さん」


「い、いやあ〜?何のことか雛ちゃん分からないなあ〜?」


「これ以上とぼけるようならまた説教…」


「分かった、分かったって!だからお説教は勘弁してください〜〜」


 春馬といい山﨑さんといい、どんだけ俺の説教嫌いなんだよ。確かに少しやりすぎる時はあるけど、取り返しのつかない事態になる前に注意しておかないと、いつかとんでもないことになるからな。

 野放しにした結果、渡のような奴を生み出してしまうかもしれない。俺の友人にそんなことにはなってほしくない。


「ごめんなさい!トバっちとあーちゃんが、学校でもっと堂々と一緒に居られるようにしたいな、って思ってあーちゃんに協力してもらいました!」


「みんなは今一つ理解出来てないみたいだから補足すると、俺と綾乃と山﨑さん、それに春馬はいつも昼食を一緒に食べてたんだ。でもみんなに見られないように食べてたから、もっと堂々と、ってことだったんだろ?」


「そ、そうそう!このままコソコソ隠れながら関係を続けるのも嫌だなぁ〜って思ってさ!あーちゃんから話は聞いてたし、いっそのことバラしちゃえ!ってね」


 ダメだ、この人全然反省してない。綾乃もなんで話しちゃうかな… この人と春馬に話したら碌なことにならないのは分かってるだろうに。


「山﨑さんはどうやらあまり反省してないみたいだから後で話そうか」


「なんでぇ!?」


「ともかくそういう訳だから、あまり騒ぎ立てないでくれ」


 そう俺が宣言すると、もう何も聞き出せないと悟ったのかゾロゾロと離れていく。

 ちょうど始業のチャイムが鳴ったので、アワアワとしながら怯えている山﨑さんを尻目に俺も席に着いた。


 気になって隣を見てみると、俯いて寂しげにしている綾乃の姿があった。

 ……んん?待てよ、さっきのは演技だろ?まさか演技じゃ無かったのか?だとしたらとんでもなく申し訳ないことをしたかもしれない。演技だと思ってあえて突き放すような言葉を使ったが、やっぱり少し言い過ぎだったか。


 視線に気付いたのか、綾乃がこちらを向く。一瞬目が合ったが、みるみる顔を赤くしてすぐにそっぽを向いてしまった。後で謝らなければ。






 昼休み。俺達は教室内で堂々と一緒に居られるようにはなったが、他クラスの生徒が事情を知らずに押しかけてくる可能性もある。そのため、これからも昼食は屋上で、ということになった。


 綾乃は終始浮かない顔をしていたが、ちゃんとした話は家でしようと伝えてあるので問題ない………はずだ。


 さて、お説教の時間です。


「山﨑さん、弁明は?」


「うっ、…トバっちとあーちゃんのためだったんです」


「というと?」


「だって2人とも可哀想なんだもん。本当はすっごく仲良しなのにさ?学校だと堂々と一緒に居れないって、そんなのあんまりだよ」


「はあ、とりあえず理由は分かった。けど何で綾乃を巻き込んだんだ?」


 こんなことに綾乃が手を貸すとは思えない。彼女はもっと慎重な性格をしているはずだが………


「最初にこのことを相談したのがあーちゃんだったんだけどね?そしたらあーちゃんが」


「………雛?」


 綾乃はギロリと山﨑さんを睨む。その目、久しぶりに見たな。


「ひょえっ!?だ、大丈夫。誰にも話さないって約束、ちゃんと覚えてるから。だから睨まないで〜」


「………分かってるならいいわ。………………」


 すぐに綾乃は俯いてしまった。これはかなり重症かもしれない。今すぐ謝らなければ。


「えっと、あ、綾乃。その、さっきはご」



 キーンコーンカーンコーン。



「………戻りましょう」


「あっ………」


 間の悪いことに昼休みが終わってしまった。綾乃はそのまま1人で教室に戻っていった。


 俺達もすぐに教室に戻ったが、その頃には綾乃は誰も寄せ付けないようなオーラを放っており、俺が席に着いてもそれは変わらなかった。



お読みいただきありがとうございます!

感想、誤字報告もどんどんください!

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