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隣で「おはよう」と笑う君を見たいから  作者: 山田 太郎丸
第二章 今はまだ遠くても誰よりも近いから

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21/69

20.負けられない戦い 後編

短めです

 


 図らずも注目を集めてしまった優心。この後に控えている発表を考えると、絶対に負けられない戦いになってしまった。

 もしここで負けてしまえば、発表の際に相応しくないだの近づくなだの、いちゃもんをつけられる可能性がある。これからも綾乃の近くに居続けるためには、ここである程度活躍しておく必要があるだろう。

 そう考えた優心は試合前、仲間達にとある作戦を伝えた。



 そして戦いの火蓋は切って落とされた。序盤、優心は慎重な動きを見せる。自分から攻めることはせず、敵が来ても戦わずに躱わす。1試合目とは打って変わって地味な試合になっていた。

 だがこれこそが優心の作戦。少しずつ、相手の陣形に綻びが生まれていく。そして痺れを切らした敵の騎馬が一騎、優心の方に向かって突っ込んでくる。

 そこを周りに控えた騎馬達が囲んで、一気に叩く。それを見た黄色組の面々が数騎、また突っ込んでくる。優心達は迷わず全員で多対一の状況を作り出す。数的有利によって、相手の騎馬を一騎、また一騎と落としていく。


 残る相手の騎馬は三騎。最後の足掻きなのか、まとめて向かってくる。乱戦になったが、優心達は一騎も落とされることなく、危なげなく勝利を収めた。


 会場のボルテージは、かたや力押し、かたや作戦勝ちと二種類の完封試合を見せられ、最高潮に達していた。

 水分補給と少しの休憩を挟んだ後、3位以下には得点が入らないためすぐに決勝戦が行われる。


 俺達は赤組と相対する。………なんかこっち見てる奴ら多くない?しかもすごい睨まれてるし。少し注意した方がいいかもな。仲間に元々伝えていた作戦に変更はないが、そのことについても伝えておく。




 準備が整い、審判がピストルを構える。



 パンッ!



 甲高い音が鳴り響き、決勝戦が始まる。と同時にお互いの騎馬が全て駆け出す。俺達の作戦は、全員で一気に攻めて相手の意表を突くというものだったが、どうやら相手も同じ作戦だったようだ。だが、これは予想通り。1試合目、赤組は力押しで勝利していた。そのためこちらは初戦、力を温存し作戦だけで勝つことを選んだ。

 だが、こちらが力で負けているとは思っていない。むしろ互角以上だと思っている。


 しかしここで、想定外の事態が起きる。相手の騎馬が全員俺の方目がけて突っ込んできた。しかもなんか呟いてるし。

 なになに………くたばれ?女王様に近づくな?羨ましいんだよこの野郎?



 ……………ただの妬みじゃねえか!!!!!


 聞いて損したわ!なんでこいつらこんな団結してんだよ!春馬、笑ってないで早く退がれよ!このままだとむさ苦しい男どもに揉みくちゃにされちまうぞ!


 そう伝えると、春馬はようやく動き出す。その瞬間、計ったようなタイミングで仲間の騎馬が相手に襲い掛かる。そのまま乱戦状態に陥り、こちらは3騎、相手は6騎もの騎馬が落とされていた。お互いは一度距離を取って睨み合う。

 これで3騎の差をつけることに成功した。だが、まだまだ油断出来ない。相手は有力な騎馬がほとんど残っている。対してこちらは最高戦力が一騎落とされてしまった。


 数的有利はあるが、すぐに引っくり返せる差でもある。なら、相手の感情を逆手に取るだけだ。

 そうしてまた、お互いが駆け出す。今度も同じく俺をターゲットにしているようだ。どうせ俺のかっこ悪いところを晒してやろう、とでも思っているのだろう。目が血走っている。


 これが特に何も無いのなら負けてやってもよかったんだが、生憎と負けるわけにはいかないからな。俺達が敵の騎馬を引きつける。その横から味方の騎馬がまたしても襲い掛かる。だがすぐに対策したようで、なかなかハチマキを取らせてもらえない。

 その間にも少しずつ仲間の騎馬が落とされていく。味方もただでは落とされず、何騎か相手を道連れにしていた。


 試合は進み、お互い残り3騎ずつ。俺達以外の2騎が相討ちとなり、俺達と赤組の大将らしき騎馬のみがそれぞれ残った。正面で向き合う俺達。そういえば、と戦う前に気になったことがあったので聞いてみる。


「なあ、アンタ。何で俺のことをそんなに妬んでるんだ?」


「何故かって?それはなあ、俺たちは氷川綾乃ファンクラブ会員だからだよ!!!!」



 ……………え?いや、え?ファンクラブって何?初めて聞いたんだが、そんなのあったのか?どうやら俺以外のチームメイトは皆知っていたらしく、納得したような顔をしていた。


「女王様を影から推し、孤高の存在であることを守るための組織だ!」


 もしや、氷川さんに友達が出来なかったのってこいつらのせいじゃないのか?高校に入ってから最初に友達になったらしい山﨑さんは例外として、それ以上増えない、どころか誰からも話しかけられることは無かった。こいつらの身勝手で氷川さんは孤立しそうになっていたんだな。


 ………そうだな。もう手加減するのはやめよう。怪我させるといけないと思っていたが、こいつらには全力で。


 俺達は真正面からぶつかり合う。最初は拮抗していたが、徐々に俺達が押していく。相手も力には自信があったようで、驚愕に目を見開いていた。

 やがて相手が体勢を崩し、その隙を突いて相手のハチマキをもぎ取る。



 その瞬間、会場は大いに湧き立った。下馬表では有利と見られていた赤組が負けたこと、そして話題の的となっていた優心が勝ったことで、今日の中でも一番の盛り上がりを見せていた。


 騎馬戦を終え、俺達は自分のクラスの天幕に戻る。そこには、お祭り騒ぎするクラスメイト達の姿があった。まだ優勝したわけではなく、たかが1種目勝っただけ。それでもこの勝利にはそれだけの価値があったのだろう。



 そしてその後ろには、薄く笑い、静かに拍手を送る氷川さんの姿があった。俺はそれだけで、全てが報われた気がした。皆、俺達に向かって必死に称賛を送っていて、そんな彼女の行動には誰も気がつかない。


 そこには、2人だけの空間が広がっていた。






























 そんな2人を影から見つめている者がいた。


「女王様と仲良さげに見つめ合いやがって………絶対潰してやる………」





 そしてその者を目敏く発見した者もいた。



(優心の、2人の邪魔はさせねえ。他に気づいてる奴も居なさそうだし、俺がどうにかするしかないな。どれ、親友のために一肌脱いでやりますか)



 優心の親友は、心の中でそう独り言ちた。



お読みいただきありがとうございます!

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