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隣で「おはよう」と笑う君を見たいから  作者: 山田 太郎丸
第一章 1年遅れの関係

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15.決着

 


 迎えた決戦の日。前日、優心は帰宅後に綾乃に散々文句を言われたが、綾乃のためだと言えるわけも無く黙って受け入れるしかなかった。



 そんな優心はいつも通りお弁当の受け渡しをしていた。だが綾乃はどこか緊張した様子の優心に違和感を覚えた。


「戸張くん?何をそんなに緊張しているのかしら?」


「うーん、緊張してるというよりむしろ………いや何でもない。どうせすぐに分かるから」


「何よそれ」


 優心は答えない。少し不満に思いつつも、綾乃はそれ以上詮索することは無かった。




 2人は並んで通学路を歩く。今日は特段早い時間に家を出ていないため、生徒の数もここ数日より多い。すなわち、騒ぎが大きくなるのも必然であるということ。


「おい、見ろよあれ」

「一緒に通学してるっていう噂は本当だったんだ」

「くっ、うらy………許せん!」


 悪意や好奇の視線に晒されつつもどこか緩んだ空気。2人はもう慣れたもので、気にせず校内へと入っていく。


 だが、そんな空気が一変して殺伐としたものに変わる。


「あいつ……どの面下げて氷川さんと一緒に来たんだ」

「ありえない……犯罪者が同じ学校にいるなんて」

「見損なったわ。女王を守っていたんじゃなかったんだな」


 この空気、この間も同じようなことがあったな。でもあの時とは訳が違う。さすがに犯罪者だなんて言われるようなことは無かった。完全に身に覚えのないことだし、渡との件もあるので否定するのは逆効果だろう。


 俺は話し声を無視し、職員室で用事を済ませてから教室へ向かう。氷川さんも着いてきてはいるが、表情はどこか暗い。


 教室の扉を開くと一斉に糾弾するような声が挙がる。やれ犯罪者だの、やれ氷川さんから離れろだの言われたい放題だった。


 そして元凶も分かりきっていた。薄く笑いながら近づいてくる渡。手には1枚の写真があった。



「おい戸張。お前、裏では暴力だの酒だの色々やってたんだなァ。これ見ろよ」


 そこには、氷川さんを助けた際の酔っ払いを投げ飛ばしているところが写っていた。



 はぁ、そういうことか。要はあの出来事でさえこいつが仕組んだ罠。酔っ払いもグルでこいつかその仲間が近くに隠れていたんだろう。俺と氷川さんが鉢合わせる可能性が高いタイミングを調べ、そこで氷川さんを襲わせる。俺が現れなければそのまま襲い、現れたならば酔っ払いを制圧しているところを写真や動画に収めればいいだけ。

 近くにお酒の空き缶でも置いておけば、勝手に周りが勘違いしてくれる。


 なるほど、上手くやったな。確かに完璧な計画だったかもしれない。………相手が俺と大和さんじゃなければな。


「そうか。だがここにはその時の目撃者がいるからな。そうだろ氷川さん?」


「そうね、私はそこに写っている酔っ払いに襲われそうになっていたわ。そこを彼に助けてもらったの」


「戸張に言わされているんだろう?可哀想に、今助けるから」


 こいつは何を言っているんだ?流されている周りもだ。なんでそう簡単に人を信じれるんだ?なんでそう簡単に人に悪意をぶつけられるんだ?いや、きっと大きな悪意に、絶望に晒されたことが無いんだろう。


 人は流されやすい生き物だ。それが学生という時期はより顕著になる。


 別に周りのやつらが悪いとは言わないが、今日でしっかり学んでほしい。誤った悪意の行く先を。



「お前は何を言っているんだ?犯罪をやっているのはお前の方だろ?」


「ははっ、何を言って……」


「おっと、手が滑った」


 適当なことを言って、大量にコピーした例の写真をばら撒く。同時に、俺はとある人に合図を送る。

 その直後、突如として校庭が騒がしくなる。


「おい、なんだこの写真」

「これ1組の渡じゃね?」

「やっぱりあの噂本当だったんだー」


 教室内も異変に気付く。


「戸張、これは?」


「俺と弁護士の人が独自に調査して手に入れた渡の現行犯の現場だ」


「な、なんでこんな物が………」


「どうしたんだ渡。顔色が悪いぞ?」


 渡は明らかに動揺していた。そんな様子を見てクラスメイトたちも少しずつ不信感を持っていく。


「お前、俺たちを騙してたのか!」


「ち、違う!そ、そうだそいつがデマを流しているんだよ」


「ならアリバイはあるのか?一応、俺は警察に事情聴取を受けてるが」


 渡は押し黙る。なんだ、意外と計画は杜撰だったみたいだな。最大限に警戒していた自分が馬鹿らしく思えてくる。だがこの程度で終わらせるつもりはない。やるなら徹底的に、だ。


 あらかじめ呼んでおいた助っ人が現れる。


「おい渡。お前色々と校則違反、どころか犯罪までやらかしてたみたいだな。これは流石に看過出来ないぞ。生徒指導室まで来い」


 日野先生だ。思ったより早かったな。昨日大和さんから渡された紙に書かれていたのは、日野先生の電話番号だった。なぜ大和さんが日野先生の連絡先を知っていたのかは分からないが、日野先生も個人で渡についての情報収集をしていたらしい。流石噂好きの教師として名を馳せているだけある。それとは別に、教師としての正義感が働いたのもあると思うが。


 渡はもう逃げられない。さて、どう動いてくる。




「クソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」




 渡は叫びながらこちらへ向かってくる。どうやら自棄になって暴れることを選んだようだ。

 まあ、大人しくやられてやる理由も無いんだが。


「何余裕振ってやがる!オラァ!」


 渡は腕を振りかぶる。大振りな動きだから避けるのは容易い。

 だが俺はあえて避けない。あの時と同じように相手の勢いを利用して投げる。



 ダァン!!



 渡は強く床に叩きつけられ気絶していた。………やり過ぎたか?そう思い近づくと、小さく呻き声が聞こえた。よかった、投げる時に少し勢いを殺した甲斐があった。

 だが、今すぐ立ち上がれる状態にはなさそうだ。


 辛うじて身体を起こした渡は、俺の顔を見るなり、


「ひっ、ば、化け物………」


 人を悪人に仕立て上げようとした次は化け物扱いか、本当に救えないな。渡は怯えるような目でこちらを見ている。


「お、俺が悪かった!だからこんなことはもうやめるんだ、な?」


 今度は命乞いか。俺がどうしようとこいつはもう終わりだ。周りは完全にこちらに傾いている。………だが、周りのこいつらも許すつもりはない。後で必ず自分たちの行動を省みてもらう。

 とりあえず今は目の前のこいつだ。


「やめるだと?そもそも先に仕掛けてきたのはそっちだろ。俺への悪口や嫌がらせは百歩譲って構わないが、氷川さんに迷惑を掛けたのは絶対に許さない」


「元はと言えばお前が綾乃のことを」


「まず勝手に名前で呼ぶのをやめてくれないかしら。極めて不愉快だわ」


 氷川さんも本気で怒っているようだ。俺と話す時とは比べ物にならないほど冷たい声だった。


「ぐっ……お、お前が氷川さんのことを狙ってるって聞いたから……」


 こいつ、どこかで俺と春馬が話しているのを聞いていたのか。だから新学期早々こんな暴挙に出たんだな。


「語弊があるな。多分、お前が思っているような意味じゃないぞ」


「じゃあどういう意味だっていうんだよ」


「それに答えてやる理由は無いだろ?」


 この場でこいつに教えてやる義理は無い。渡は反論する気力を失ったのか、力が抜けたように項垂れる。そこに日野先生が近づく。


「もういいだろ。生徒指導の先生も来たから早く行け」


 渡は抵抗せずに生徒指導の先生に大人しくついていく。その瞬間教室が沸き立つ。


「戸張、お前すごいな!?」

「疑って悪かった!」

「戸張くんって強かったんだ!」


 こいつらは本当に……。調子のいい奴らだ。さっきまで俺たちを口汚く罵っていたくせに、渡がいなくなった瞬間この態度の変わり様。自分たちがしたことの重大さをまるで分かっていない。一歩間違えば言葉は人を殺し得る武器になるというのに。


 教室が騒がしくなるが、春馬の姿が見当たらない。こういったときは真っ先に駆けつけてくるんだが………。

 そう思った矢先、春馬が教室に入ってくる。


「よっす優心」


「春馬、今までどこにいたんだ?」


「まあ、ちょっとな。でも優心のカッコいいところ、久々に見たかったんだけどなー」


「志田、さっきは助かったよ。おかげで早く教室に向かえた」


「いやいや、俺は優心の力になれるならどこへでも駆けつけますから」



 まさかさっきの校庭の騒ぎは………



「妙に日野先生が来るのが早いと思ったらお前の仕業か!ついでに外が騒がしかったのも」


「こうしておけば騒ぎが収まるのも早くなるだろうと思ってな。自分で言うのもなんだけど俺ってそこそこ影響力あるじゃん?」


「本当に自分で言うことじゃないな。でもその通りだな。ありがとな春馬」


「いいってことよ。お前には返しきれない借りがあるからな」


「だからあれはもう十分返してもらったって言ってるだろ?」


 俺は自分の信条に従って動いただけだから、あれは借りに思う必要はないっていつも言ってるのに……


「いいんだよ、俺がそう思ってるんだから」


「そうは言ってもな……俺の方こそ貰いすぎなくらいだ。いやそれは置いといて」


 このままだと終わらなそうなので話を先に進める。


「はぁ、お前らも俺のことを持ち上げてるけど、氷川さんに迷惑掛けたって分かってるのか?言葉はいつだって武器になるんだ。自分や友人がやられたらどうなるか想像してみてくれ」


「戸張の言うとおりだ。お前たちがやったことはいじめとそう大差はないんだぞ」


 日野先生が注意し、隣で春馬も頷いている。

 クラスメイトたちはそこでようやく自分のしたことに気付いたのか次々に謝りだす。


「その、ごめん。俺もっと他の人のことを考えるべきだった」

「私も!自分が良くても友達がやられたら嫌だもん」

「俺も」「私も」


 皆がしっかり反省できる人間でよかった。これで後腐れなく学校生活を送っていけるな。




 30分にも満たない時間だったけど、もう1日が終わったかのように感じる。



 そうしてまた、日常が始まっていく。




お読みいただきありがとうございます!

これにて一章は完結となります!短いですが、きりのいいところで章は終わらせようと思ってるのでこれからも短くなるかもしれません。しばらくは作者の気力が続く限り毎日投稿頑張ろうと思います!


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