第八十八話、復活の艦艇
九頭島軍港に隣接する秘密ドック。
秘密といっても、単に施設の隣にある山の中をくり抜いてドック施設を拡張しただけなので、上空からわからない程度の秘密でしかないが。
「僕は、設計に関して大した才能はない」
志下造船大佐は言った。
「ただ、人の作ったものの悪いところが目についてねぇ……。そういうところを見つけて直す。そういうところだけは得意だ」
彼は、そう自嘲気味に言うのだ。
ただ、彼は普段は言わないが、九頭島でスタッフとして勤務している時点で、他の才能があることを暗に物語っている。
志下有は、魔術師なのだ。魔核を利用した再生改修の腕では、九頭島、いや日本海軍一の実力者であった。
魔技研が世界中の海で集めてきた自沈艦や標的艦などの素材を、要望や設計に従い、再生したり、改造したり、合体や分離、近代化改装なども全て、志下大佐と彼のチームの仕事である。
ここ最近は、異世界帝国から奪取したイギリス艦艇と、トラック沖海戦で大破した日本海軍艦艇の修理・改修を主に担当していた。
「ネルソン級戦艦は、大工事だったな」
志下は淡々と言った。
ネルソン級は、艦首に三基の主砲を集中させる特異な戦艦だが、運用結果はあまり褒められたものではなかった。世界でも七隻しかなかった16インチ砲戦艦だったが、使い勝手が悪いので、魔技研では『まともな』艦になるよう大改装を施したのである。
「艦首に集められた主砲の一基を船体後部へ移動させて、艦橋を前に出す。言葉にすると簡単だが、実際、戦艦の砲塔となると、船体に埋まっている部分が大きいから、それも移動させるなんて、魔術でなければ、苦労に見合わない作業だよ」
普通に『一から作ったほうが早い』の典型である。
だが、魔核を使い、そこに設計図をぶちこめば、その様に形が変わっていくのだから、『できてしまう』わけだ。つくづく魔法というのは、時に不可能に可能とする。
この魔核というのは、異世界技術ではある。正直に言って、全てを解析できているわけではないが、魔力を供給すればするほど、その仕事も早くなる。
放っておいても、図面さえ与えておけば、自然治癒の如くゆっくり変わっていくが、世の中、そうのんびりもしていられない。だから魔力を外部から供給するわけだが、そこで出てくるのが魔石と呼ばれる魔力の結晶だったり、魔術師だったりする。
「リヴェンジ級戦艦は、比較的楽な仕事だった」
主砲配置を変更する必要もなく、船体延長と機関の換装、艦橋や艤装を日本海軍規格に変更する程度であった。……程度で済むのが、魔核改修のよさである。
神明と志下の視界に、再生、改修中の重巡洋艦が見えてきた。
「『妙高』……」
「『摩耶』そして『熊野』だ」
トラック沖海戦で大きな損傷を受けて、何とか日本本土へ帰還できた重巡洋艦。そのいずれも、近代化改装を施された上で修理されている。
「砲の配置がすっきりしましたね」
「ああ、連装砲五基は、特に艦首側が窮屈に見えるからね」
志下は言った。
妙高型、高雄型、そして最上型は、日本海軍重巡洋艦の主力であり、その主砲は20.3センチ、五基一〇門で共通していた。搭載されている砲に新旧あって、多少の差はあるが、ほぼ同じものといってよい。
だが、今回の魔力再生では、新型砲が搭載され、それに伴い、砲配置にも変更が加えられた。
従来の50口径から55口径に強化された20.3センチ連装砲に変更になったのだ。
これを四基八門搭載。一基二門減っているが、この新型砲は、自動砲であり、一分間の発射速度が、それまでの倍の一分間に約八発となっている。
重巡洋艦用の自動砲については、魔技研が再生建造した伊吹型がすでに装備しているため、おそらく問題はないだろうと思われる。
「本当は、三基九門という案もあったんだけどね」
志下は小さく肩をすくめた。
「結局は、連装砲四基案で決まった。どのみち、それぞれバランスを取るために砲塔設置の穴は調整する必要があったから、手間はかかったがね」
自動砲は、それまでの重巡の砲を比べて、やや大きいため、そのままでは収まらかったのだ。なお、主砲の装甲は、これまでの20.3センチ砲と同じく断片防御程度の薄さであり、重量の削減を図っている。
ただ、今は魔法防弾装甲が使用されるため、実測の数値はほとんど変わらなくても、比較にならないほど頑丈になっている。
「主砲は減りましたが、高角砲は増えていますね」
「ああ、40口径12.7センチ連装高角砲が四基八門から六基十二門に増えている。我が海軍のフネは、防空能力が低いからね」
撤去された艦首第三砲塔の跡に、連装高角砲二基が追加された格好だ。
「電動機が強化したものになっているから、旋回、俯仰ともに向上して、敵機に対する追従性も上がっている。それに――」
志下は、重巡洋艦の艦橋後ろのマストを見やる。
「新式の射撃管制装置、電探も装備した。敵の捕捉能力も高くなった」
さらに機関は、『妙高』『摩耶』も、最上型に合わせたものに換装されて、15万2000馬力。速度も35ノットが発揮可能となった。
「今度こちらへ回される、重巡洋艦――」
「『高雄』『鈴谷』『利根』です」
「うむ、『高雄』と『鈴谷』の改装は、こちらの三隻と同じでいいだろう。問題は『利根』か?」
利根型重巡洋艦は、艦首側に連装砲四基を集め、後部は水上機を運用する航空巡洋艦ともいうべきフネである。見た目からして、それまでの重巡と違うので、同じ改装とはいかない。
さてさて、どうしたものか、と呟く志下。二人はそのまま進み、戦艦用ドックへと到着する。
「遠目から見ると、『伊勢』はあまり変化がないように見えます」
「元々、日本の戦艦だからね。艦橋やその他構造物は、電探の搭載などで近代化改装したものとさほど変わらない。……ただし、主砲は16インチ砲になっている」
伊勢型は、基準排水量3万6000トンほどの超弩級戦艦だ。45口径35.6センチ連装砲六基十二門と、縦に長い印象を与える戦艦である。
しかし、ここにある『伊勢』は、背負い式となっていた35.6センチ連装砲が一基ずつ減らされて、40.6センチ三連装砲を艦首、艦中央、艦尾に一基ずつ、計三基九門装備している。
「当面、ネルソン級――あぁ、紀伊型か。あれと戦隊を組むだろうということで、ネルソン級のマークⅠ、40.6センチ砲をコピーしてそれを載せておいた。日本規格の41センチ三連装砲が完成したら、そっちに換装することになるだろうが」
「砲の完成を待っていたら、就役が先になっていたでしょうから、とりあえずはこれでいいのではないでしょうか」
早期に戦線復帰させるとなれば、多少の譲歩もする。砲が減った分、機関のスペースが広くなったので、こちらも29ノット前後の速度が出せるようになった。
「そして……『大和』ですが」
「うん。君の要望通り、大修理にかこつけて、大改装を施した」
そこで初めて、志下の口元に僅かな笑みが浮かんだ。
「機関は魔式。その他、様々な魔法装備を積んだ。魔術師なしでは、その性能をフルに発揮できない」
これは趣味の世界だね――6万4000トンの巨艦は、復活の時を待っている。
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