第一二二四話、潜水艦隊、殲滅攻撃再び
第五艦隊は堂々と海中を南進。接近しつつあるムンドゥス帝国潜水艦隊に対して主砲をもって対応した。
マ式ソナーは、進軍する旗艦大型潜水艦が数隻と高速潜水艦数十隻を捉えた。五十を超えて、百に近づきそうな規模だ。
しかし神明 龍造少将に怯みはなかった。最終的に敵は大型潜水艦5隻、高速潜水艦80隻で構成されているのが判明する。
敵を識別範囲内に収め、主砲がそれぞれの目標に向けられる。
敵の動きは遅かった。おそらくソナーで日本艦隊をできるだけ早くキャッチしようとしているのだ。
自艦の出すスクリュー音のせいで索敵範囲を小さくしてしまう聴音器。速度を落とし、あるいは停止させれば、水中での索敵範囲を伸ばすことが可能だ。
ムンドゥス帝国艦は、まだ第五艦隊を捕捉していない。しかし第五艦隊は、すでに敵はその掌中だった。
「水中砲撃戦、始め」
第五艦隊の各戦闘艦は、一斉に砲弾を転移させた。
次の瞬間、水中がかき回された。砲弾が貫通し潰れ、潜水艦は爆発する。
・ ・ ・
『前衛潜水艦群、消滅!』
旗艦であるヴァスィア・ネラ級大型潜水艦の発令所。ムンドゥス帝国第4潜水艦隊司令長官、アルダムル中将はくぐもった爆発音が連続する中、事務的に告げた。
「前方に、衝撃魚雷を発射せよ」
予め決められていた手順に従い、装填済みの魚雷の発射を命じる。
「……ソナー、敵の所在はわからないのだな?」
『反応なし。範囲内に敵はいません』
だろうな、とアルダムルはその言葉を飲み込んだ。見つけていれば、攻撃を受ける前に報告があったはずだ。
先に爆発音が響いているということは、敵はアウトレンジから攻撃を仕掛けているということだ。
やはり、一方的な攻撃を受けて、味方が次々とやられている。
魚雷の疾走音すらつかめないということは、例の転移砲を用いているのだろう。手数だけでなく、射程ですら勝っているのだから始末が悪い。
アルダムルは耐える。今はただ艦隊を前進させることしかできない。
そしてその時はきた。
『衝撃魚雷、起爆!』
海中をかき回す水中衝撃の波が連続する。それが数十本同時に爆発すればどれだけの騒音が海中を満たすことになるか。
聴音手がヘッドホンを外す中、アルダムルは命じる。
「全艦、全速前進!」
騒音の間に敵との距離を詰めて、索敵範囲内に収める。一度、敵を捉まえれば、後は数で敵に打撃を与えられるだろう。
日本潜水艦隊の規模は不明で、もしかしたら数でこちらを上回るかもしれない。しかし捕捉してしまえば、敵の規模を総司令部に通報もできる。
衝撃魚雷によるマスキングが収まるころ、ソナー、聴音ともに索敵をかけるが、一足先に砲撃が始まったようで、僚艦が次々にやられ、爆発音が連続する。
参謀長が口元を歪ませた。
「敵に衝撃魚雷がまるで届いていなかったようですねぇ」
「そんな遠方からこちらを把握しているというのか」
「どうしますぅ、閣下?」
「前進だ。敵は前にいるのは間違いない」
ここで引いても、狙い撃ちにされるだけだ。すでに敵の射程内に艦隊はいるのだから。勝算は少なくとも、敵を捕捉できる位置まで進み、反撃しなければ全滅するだけだ。
第4潜水艦隊は突き進む。やられていく味方。一発の被弾でほぼお終いの潜水艦にとって、この前進は銃殺隊に向かっていく自殺行為。さながら死の行進であった。
だが、横にも後ろにも逃げたとて、撃たれることには変わりがない。
もしこれが当初の予定通り、正面を引き受けている間に迂回部隊が敵を包囲してくれていれば、こちらの犠牲も見合う価値はあっただろう。
だが援軍なしの戦いは、ただ死にゆくのみ。これでは犠牲も報われず、一矢報いることもできない。
「ソナーに感! 正面3500に、敵とおぼしき艦隊の反応。十数隻以上!」
ソナーマンがようやく敵を捉えた。日本艦隊、十数隻の砲撃潜水艦。
「魚雷発射用意!」
アルダムルが口走れば、艦長も復唱した。
「貫通魚雷! 二番から十番まで誘導用意!」
せめて一矢報いる。すでに友軍潜水艦は、敵と同数、いやそれ以下にまで減らされている。ボードには、すでに50隻以上の反応があった。
だが、攻撃準備が整った瞬間、旗艦に46センチ砲弾が突っ込んだ。
全長200メートルに達する大型潜水艦であるヴァスィア・ネラ級も外殻を破壊され、その威力は艦内に浸透。潰れるようにきしみ、歪み、そして爆発して泡となった。
第4潜水艦隊は、第3潜水艦隊同様、蹴散らされてしまったのである。
・ ・ ・
『敵潜水艦隊、全滅』
第五艦隊旗艦『大和』。またもムンドゥス帝国潜水艦隊を撃破した。神明少将は、艦隊の被害確認をさせると、敵主力艦隊撃滅のため、前進を命じた。
神 重徳参謀長が、しみじみとした口調になった。
「敵は一歩も引きませんでしたな。潔さは認めますが、何とも後味はよろしくないですな」
堂々と撃ち合った末ならばともかく、こちらが一方的に殲滅した。それでよかったのか、神は考えてしまったのである。
しかし首席参謀である樋端 久利雄大佐は淡々と言う。
「半分機械でしょう。同情に値しません。逆の立場だったとしても、敵は一切手を抜かないでしょうし」
機械と言われ、どこか感傷的だった神の表情が冷めたように引き締まった。つい敵も人間だと考えてしまったが、第五艦隊にしたところで無人コアによる自動制御艦艇が多い。この自動化技術も、異世界人のそれなのだから、敵もまた使っている。
むしろ、あれで敵が無謀な突撃を継続したのも機械だからではないかと思えば、もはや同情するのも馬鹿らしくなってくる。
そこへ通信長がやってきた。
「長官、主力艦隊が動きました。第一艦隊より入電。敵大艦隊に突撃せり!」
「始まったか」
航空攻撃で、敵艦隊の外周を破壊していた地球軍だが、いよいよ艦隊が敵に殴り込みをかけたのであった。




