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復活の艦隊 異世界大戦1942  作者: 柊遊馬


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第一二〇九話、未来のために


 永野 修身元帥の私邸を尋ねると、元軍令部総長はすっかり隠居の雰囲気を漂わせていた。服装は人の印象を変えるが、軍服でないと学校の先生か園芸に勤しむご年配にしか見えない。

 一方の神明 龍造海軍少将は軍服である。


「――いよいよ、この戦争にも終わりが見えてきました」

「長かったね」


 うん、と永野は言った。


「夏が来る頃には、世界も落ち着くのかな」

「戦後処理がありますから、多少はごたつくかもしれません」

「ルベル世界からの帰還者が、それぞれの国を建て直す。はてさて……」


 永野はわずかに顔をしかめた。


「それでも世界の人口は大戦前に比べて激減している。戦前のようには、いかないだろうね」

「当面、戦争どころではないでしょうが、落ち着いたら国境線を巡って争いになるかもしれません」

「それは落ち着いたらとは、言えないね」


 苦笑する永野である。神明は微笑したが、すぐに表情を引き締めた。


「それもこれも次の戦いで、ムンドゥス帝国を打倒しなくてはなりません」

「全てはそれからだね。興国の、世界の命運は、この一戦にあり」


 そう言って、永野は寂しそうな顔になった。


「私ももう少し若ければなぁ。せめて陣頭指揮をとれるくらいだったなら……」


 海軍軍人として、戦場で奉公できたものを――と残念がった。神明は尋ねる。


「お体の具合は?」

「最近はだいぶいいよ。私も歳だからね」


 戦前、軍令部総長を受ける前、体調があまり思わしくなく、辞退したかったのだが、他にいないからと仕方なく引き受けた永野である。それでもなんだかんだ、やってはこれた。

 ただ連合艦隊司令長官としての激務の末、たおれた山本 五十六元帥のことを思い出すと、何とも言えない気分になった。


「神明君、次の(いくさ)は、勝てそうかね?」

「そのつもりです」


 神明は淀みなく答えた。


「あまり気の聞いたことは言えませんが、ロシアのバルチック艦隊を迎え撃つ東郷 平八郎元帥の気分でしょうか」

「まったく油断できず、勝てるかわからない重圧はありつつも、必ず勝つ、勝たねばならない、か……」

「今でこそ言えますが、当時のバルチック艦隊は主力艦の数こそ勝っていましたが、練度や士気、疲労度など、連合艦隊側に比べて劣っていました」

「……」

「もちろん、ムンドゥス帝国の兵器の質、練度は高いものがありましょう。しかし、彼らもまた多くの優秀な兵を失っています。確かに強大ではありますが、充分、打ち勝てるものと考えます」

「君の言ったことは、大体そうなるからね。頼もしいよ」


 永野は笑った。


「だが……今回はアメリカ、イギリス、ドイツ、多国籍の軍隊が総動員だ。これで負ければ、後がないだろう。そしてそれは、ムンドゥス帝国も同じであろう」

「……」

「また、大勢が命を落とすんだろうね」

「そうですね」


 神明は認めた。


「ですが、こと海軍の、数字に限れば、それほど多くの人命は失われないと思います」


 これまでが失い過ぎた。少将ごときの自分が、本来なら中将以上が率いる艦隊を任される。だが人数でみればなんてことはない。無人艦に無人機だらけ。

 次の決戦は、中部太平洋決戦同様、双方で多数の艦艇、航空機が失われる結果になるだろう。だが日本軍に限れば、前回以上の死亡者数は出ない。もう兵隊がいないからだ。


 かつて、永野は、日本には人しかないと言った。しかし軍において、その『人』すら残っていない有様だ。

 もし無人化、自動化の技術を魔技研が進めていなかったら、今頃、徴兵の枠が増加し、民間のほうの人員も払底しまっていたのではないか。


 練度の低い兵隊なのはもちろん、未来を担う若者も大量に失われ、たとえ戦争に勝ったとしても将来的に滅亡してしまうほどの人的損失を食らっていたかもしれない。

 民が大勢残っていれば、まだ国は問題ない。戦後の困窮からも脱して蘇るだろう。そのためにも、次の戦いは何としても勝たねばならないのだ。


「神明君」

「はい」

「あまりこういうことは言いたくはないのだけど、軍人は最悪の状況を想定しておくべきだと私は思うんだ」


 永野は改まった。


「ムンドゥス帝国の皇帝を葬ったら、本当に戦争は終わるのだろうか?」

「……」

「不敬な言い回しだが、我が国でも陛下が害されるようなことがあれば、国民も黙ってはおらん。最後の一人まで敵を狩り立てて報復するような……そういうこともあると思う。ムンドゥス帝国人の戦場での勇猛さを考えると、たとえその指導者を討とうとも、戦争は終わらないのではないか?」

「ご懸念はもっともです」


 神明は答えた。


「ですが、皇帝が死す時は、彼の総旗艦たる都市戦艦も滅びる時です。本国から切り離された彼らにとって、自分たちの最後の生命線です。それがなくなれば、もはや大規模な継戦は不可能となります」


 小規模な残党の掃討で、いましばらく軍の仕事は続くだろうが、『戦争』としては大規模な戦いは起こり得ない。

 そもそも彼らムンドゥス帝国人は、この世界では特殊な装置がなくば活動できないというハンデを背負っている。都市戦艦の喪失は、それら生命維持装置の製造にも影響を与えることとなる。

 だからこそ――


「次の戦いで、決着をつけますよ」


 多くの犠牲の上に残っているこの日本を、世界を守るために。

 永野はまたも苦笑した。


「君はとことんシステマティックだったね。感情論でなくてさ」



  ・  ・  ・



 永野邸を出た神明は、そこで思いがけない人に出会った。というより、待っていたというべきか。

 正木 初子。海軍大尉、砲術の女神様と言われ、戦艦『大和』で多くの異世界帝国戦艦を仕留めてきた女性だ。神明の妹の娘でもある。


「こんなところで何をしている?」


 せっかくの休暇なのに、という言葉は言わなかった。お淑やかを絵に描いたような初子はわずかに頭を下げた。


「人を待っておりました」

「……その人には会えたか?」

「はい」

「そうか」


 神明は歩き出すと、初子もついてきた。

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