第一二〇五話、海軍も何かしなければ……
陸軍がトラック諸島防衛で何かをやっている、いややったという話は、うっすら海軍にも伝わっていた。
これに軍令部から、海軍として何もしないのは体面がよろしくないのでは、と言う話になった。
これに連合艦隊司令長官である小沢 治三郎中将は鼻で笑ったという。体面で戦争ができるか、と。
だがトラック諸島が攻勢にさらされている時点で、何か手頃な攻撃目標と方法がないか模索していた神明 龍造少将は軍令部第一部の富岡少将に、とある案を披露するべく足を運ぶのであった。
「決戦場がどこになるかわからないが、今のところはマーシャル諸島か、占領されればトラック諸島のどちらかになると思う」
「そうだろうね」
「で、現状、総旗艦である都市戦艦を破壊するために、まず取り巻きである艦隊を叩く必要がある」
「大艦隊だ」
同期の富岡は、連日が偵察機が上げてくる報告を確認している。
「その上、マーシャル諸島の基地航空隊も、我々が攻撃を仕掛ければ、防空、または攻撃をしてくるだろう。艦隊と基地航空、同時に相手をするのは不利ではある」
とはいえ、こちらもマリアナの航空要塞があり、さらに海氷飛行場群が参加するので、地球側も基地航空隊の恩恵にあずかれることになっている。
つまり双方とも艦隊と基地の航空戦力が使える状態で決戦を行うことになるだろうというのが、軍令部の見通しである。
「しかし、素直に敵に基地航空隊を使わせるというのも癪な話ではある」
神明は告げた。富岡も同意した。
「こちらとしては、敵艦隊に集中したいが、敵の爆撃機を局地戦闘機で迎え撃たねばならんのだろうな」
「二兎を追う者は一兎をも得ず、とも言う。そこで先んじて、この基地航空隊に打撃を与えて、決戦時の二枚看板のうち、片方を機能不全に追いやる。……追いやれたらいいな、と」
「何故そこでトーンが下がる?」
「仕掛けるタイミングによっては、敵に打撃を与えても回復される」
ムンドゥス帝国の補給は、本国と切り離されているはずだが、まるで無尽蔵であるかのように艦隊を動かしている。武器製造施設も方々で叩いたのだが、まだ都市戦艦自体に生産力が残っている。
「だが、今から仕掛けるならば、敵の侵攻速度の低下に繋がる。トラックがやられ、決戦前にマリアナ諸島が攻撃されでもしたら、こちらの迎撃戦力にも影響する」
「やるなら、戦力回復されてもやるべき、か?」
「補充するというのは、減った分を回復させるだけで、元の戦力から増えるわけではないからな」
「しかし、神明。決戦前に大規模な攻勢をかける余裕はないだろう?」
富岡は指摘した。決戦に使う戦力を早々に投入して、被害が出れば、物資を消耗した上で肝心の決戦に響く。
T艦隊の空母戦隊を用いて、奇襲空爆でも仕掛けるのではないか、とも思うが、話を持ってきたのは神明である。そんなシンプルなものではあるまい。
「君のことだから、また重箱の隅をつつくような戦力でやろうと言うのだろう?」
期待の目を富岡は向ける。神明は例によって淡々と答えた。
「まあ、敵をシベリア送りにしてやろうと思ってね」
・ ・ ・
マーシャル諸島には、日本軍は偵察活動を毎日行っている。
都市戦艦『ウルヴス・ムンドゥス』は、マーシャル諸島中央に陣取っていて、その周りを多数の護衛艦が取り囲んでいる。
さらに環礁もまた異世界氷によって半ば埋め立てられたような状況で、そこに多数の重爆撃機が並べられ、緊急発進可の戦闘機も警戒にあてられていた。
T艦隊特別遊撃隊はマーシャル諸島の西の端にあるエニウェトク環礁に、まず狙いを定めた。
夜間、転移中継ブイを用いて海域に飛び込むと、水上機母艦『早岐』から、四式水上偵察機の『飛雲』がカタパルトから射出された。
対レーダー塗装の飛雲は、敵の対空レーダーを回避。直掩の夜間戦闘機小隊を避けつつ、エニウェトク環礁、氷結飛行場の上空へと侵入した。
「……おお、いるいる。パライナ重爆撃機が百以上」
夜間視認ゴーグルで見れば、整然と駐機されているのが見える。こちらの奇襲に備えて、戦闘機を待機させているようだが、掩体に隠されているわけでもなく、空母航空隊が奇襲することもできただろう。
「さて、お仕事お仕事。転移爆撃装置用意! 敵駐機場のど真ん中へ向かう」
「宜候!」
飛雲は高度を落としつつ、発動機の音を抑える消音装置の作動を確認。隠密偵察には欠かせない装備だ。遮蔽装置は音もほぼ抑えてくれていたが、それが使えなくなってからは、ただレーダーからは映らない程度で、音まではどうにもならなかったのだ。
閑話休題。
「海氷飛行場の駐機場、間もなく中心!」
「宜候……、用意――投下!」
飛雲の転移爆撃装置から、投下式転移中継装置が落下する。海上に落とすブイと違い、地面の上に落とすことを前提にしている装置だ。
と、海氷飛行場周りでサーチライトが活発に動き出した。消音装置で音を殺したが、近くだと聞こえてしまうため、不審なエンジン音が聞こえて通報した敵がいたのだろう。
しかし――
「もう遅い!」
飛雲はスロットルを全開にして離脱する。消音装置を解除。エンジンを聞かせてやり、敵の注意を引く。
無音でパラシュート落下する転移中継装置は、海氷に突き刺さると信管が作動。魔法陣型転移ゲートが開き、駐機されていた爆撃機やその整備要員が慌ただしく行き交うのも無視して、転移に巻き込んだ。
ついでに飛行場の土台である海氷もまた範囲内がごっそり転移でくり貫かれて、環礁内にぽっかりと大穴が開いた。
重爆撃機150機と整備用員、補充用の物資がまとめて消え去ったのであった。




