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距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる  作者: 歩く魚
東堂涼

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30/31

プロローグ

 

 信号が止まった交差点。冷静さを失った人々の群れ。

 それを他人事のように見ながら私は立ち尽くしていた。

 地面が揺れていたのは、もう数十分前のこと。

 でも、手足はまだ震えていた。

 

(はやく、葉音を探しに行かないと……)


 数年来の付き合いになる私の親友。

 唯一と言っていい心を開ける相手。それが葉音。

 人を寄せ付けない雰囲気があると言われることがある。

 それが原因で人から疎まれることもあった。

 でも、そんな私に笑顔で声をかけてくれたのが彼女だった。

 ダンスが上手く行かなかった時も、ファンの人との交流で悩んでいた時も、すべて葉音が相談に乗ってくれた。

 大切な存在。きっと、あの子は私を探して街を走り回る。

 危険だ。私が先に見つけてあげないと。

 そう思っているのに身体が動かない。

 足元のアスファルトが波のように揺れた光景が、脳裏に焼き付いて離れない。


「……っ、こわい……っ」


 歯の根が合わない。肩がずっと震えている。

 その時、バチンと何かが切れる音が聞こえた。

 上を見ると、ビルの外壁に掲げられていた金属の看板が、ワイヤーごと千切れて落下してくるのが見えた――私目掛けて。


(…………あ)


 身体が凍りついたように動かない。声すら出せなかった。

 看板はそのまま、私に――。


「危ないッ!」


 誰かが私を突き飛ばすようにして抱きかかえる。

 重たい衝撃と共に、身体が横へ転がった。

 耳元で衝突音。

 看板が落ちてきた場所には、私のかばんが落ちていた。


「……ふぅ、ビーチフラッグとか始めてみようかな。……大丈夫か?」


 助けてくれたのは男性のようだった。

 伸ばしてくれた手を取ろうとするが、腰が抜けて立ち上がることができない。

 彼は膝をついて――顔は血塗れで判別できないが、雰囲気で私とそう年が離れていないと分かる――私の無事を確認してくれる。


「あ、あなた……血が……」

「ん……? あぁ、これは気にしないでくれ。君の方が怖かっただろ?」


 彼は、そう言って笑った。

 確かに、彼が間に合っていなければ、私は看板の下敷きになっていた。

 だとしても浅い傷ではない。人のために……私のために傷を。


「わ、私は……」


 言葉が詰まる。

 かと思えば、ただ「ありがとう」と言えばいいだけなのに、余計な言葉が溢れ出してしまう。


「私……友達を見つけなきゃって……思ったのに…………ぜんぜん動けなくて……」

 

 遅れて自分の状態を理解する。

 何もかもが崩れて泣き出しそうになっていた。

 彼は私の言葉を遮らず、何度も頷いて聞いてくれる。

 そして、血の染みたシャツから伸びる手を私の肩に優しく置き、言った。


「じゃあ、君の分まで俺が助けてくるよ」

「えっ……?」

「怖かったよな。悔しいよな。俺にも分かるよ」


 彼の言葉は重かった。

 心から私に共感してくれていると分かるほどに。


「でも、まだ手遅れって決まったわけじゃない。だから俺が行ってくる。――君は頑張ってるよ」


 何も返すことができなかった。

 でも、その言葉が、どれほど私を救ったことか。

 気がついた時には、その人の背中を見送っていた。

 その後、私は無事だった葉音と再会することができた。

 私は、名前も知らない彼への気持ちと、手が届かなくならないように大切な人を守る生き方を抱くことにした。

 



 疲れ果てた私は、どこかの公園のベンチに座る。

 隣には誰もいない。

 

(どうして、今まで気づかなかったの……?)


 七里ヶ浜くんこそが、あの日に私を助けてくれた「彼」だった。

 日に日に忘れてかけていた声と体温。

 ずっと胸の奥に灯っていた小さな火が、いきなり燃え上がった。

 今なら全てを鮮明に思い出せる。


「……なんてことを……」


 私を助けてくれた人は葉音の隣にいる。

 助けてくれた。そう、ただそれだけ。

 でも、私にとっては違った。

 誰かを好きになるのは初めてだった。

 この感情が恋なのか、感謝なのか、執着なのか、今も分からない。

 だけど――知ってしまった。異性を想うということを。

 それなのに私は、私は――。

 葉音を守るためだとはいえ、何度も酷いことを言ってしまった。

 

 そして私は理解してしまった。

 葉音が電波に乗せて「好きな人」について語った時、どこか違和感があった。


『実は私も最近――好きな人ができたの』

『そうなの!? だれだれっ!?』

『ふふっ……誰かしらね?』

『えぇーっ! 教えてよぉ!』


 この話をした時、私は相手が誰か分からないからはぐらかしたが――彼女も同じだったのだ。

 それなら、ずっと同じクラスだった葉音と七里ヶ浜くんが急接近した理由にもなる。

 私と葉音の好きな人は――恩人は同一人物。

 誰よりも早く、彼に救われていたのは自分だと信じたかった。

 誰よりも先に、彼の手を握るのは私だと思いたかった。


(でも……私は何もしてこなかった)


 葉音は違う。彼のことを想い続けて、ちゃんと行動して、苦しんで、でも諦めなかった。

 その結果が、あのベンチにあるのだ。


(私が今さら……彼に何ができるの?)


 この気持ちは何?

 恋? 後悔? それとも嫉妬?

 分からない。

 でも、一つだけ分かっていることがある。


「――奪いたい、なんて……思っちゃダメなのに……」


 心のどこかで思ってしまった。

 彼がこっちを向いてくれたらいいのに。

 私を覚えていてくれたら――と。

 でも、今更どんな顔をすればいいのか。

 負の感情ばかりが次々と湧き上がり、ループしていった。

二章開始です。東堂と悟の関係性はどうなるのか、そして悟は無事なのか。


モチベが落ちて更新が止まらないよう、二章頑張れの評価お願いいたします。

どれも感謝ですが、評価、ブクマ、いいねの順で嬉しいです。


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