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距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる  作者: 歩く魚
巻島葉音

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11/30

真相

 六時間目が終わるチャイムが鳴ったあとも、俺はどこかぼんやりとしていた。

 巻島のあの表情。東堂先輩の視線。

 そして、自分がその渦中にいるという異物感。

 全部が現実味を帯びているのに、どこか他人事のようでもある。

 教科書をまとめて教室を出ようとした時、廊下の向こうから隆輝が片手を振りながら近づいてきた。


「おい悟! 何があったんだよ!」

「……分からん」

「分からん!? いやいや、教えてくれよ! お前が帰ってきた瞬間に昼休み終わるし、休み時間はぼーっとしてるし、この時を待ってたんだぜ?」

「一発逆転の罠カードを発動させるのか?」

「なんでその思考力は残ってるんだよ……」


 とはいえ、まだ少しばかり時間はあるし、体育倉庫にでの事を一人で考えても埒が開かない。

 三人よればなんとやらだ。

 俺たちは二人だが、二人も三人も変わらんだろう。

 

「でさ、昼間の件……巻島と――東堂先輩と何があったんだ? 俺は初めて、鬼の形相っていうのを理解したぞ?」


 教室に戻り適当な席に座ると、隆輝が身を乗り出して聞いてくる。


「……手違いで巻島と体育倉庫に閉じ込められることになってな」

「なんだよその全男子の夢は」

「いや、そうでもないんだよ」


 彼に伝わるように、丁寧に言葉を選ぶ。


「……突然、巻島の様子がおかしくなって、額を見せろって言うんだよ。それで、額の傷を見たら近付いてきて、そのまま唇を――」

「なんだよその全男子の夢は!? どこが『いや、そうでもないんだよ』だよシバキ倒すぞ!?」

「まぁ待ってくれよ。重要なのはここからなんだ」


 隆輝は「本当かぁ?」と訝しむ。

 俺は切り札として用意していたカードを、彼に突きつけた。


「巻島は俺の傷を見て、いつだかに彼女を助けた男だと判断したみたいだが……俺には、巻島を助けた覚えは、ない!」


 俺に効果音を鳴らす能力があれば、いま確実に「ドドーン!」とか「バーン!」という音が轟いているはず。

 だというのに……隆輝はこれまでに見たことがないような呆れ顔をしていた。


「はぁ……悟ってさ、頭キレる方だよな」

「ありがとう」


 なんだ。呆れているのではなく、俺の反論に感動していたのか。大袈裟なやつめ。


「……聞かなくてもわかる。絶対に的外れなことを考えてるな」

「そんなことないぞ」

「俺が言いたいのは……お前は時々、とんでもなくアホになるよなってことだよ」

「今から外で殴り合うか?」

「合わんわ。なんなら、ここも外だろ。そうじゃなくて……」


 隆輝は「何か」を言っていいものか、言わないほうがいいのか考えていたようだった。

 しかし、やがて観念したようにため息を吐くと、真っ直ぐに俺を見る。


「なぁ悟、お前……年末年始の記憶をなくしてるだろ?」

「あぁ、そうだな」


 彼のいう通り、去年末から今年の年始にかけての記憶が、俺にはない。

 なんでも俺は、隆輝と街に繰り出した際にテンションが上がって全力疾走。

 人々に新年を迎える喜びを伝えている途中に、とてつもない事故に巻き込まれたせいで全身ボロボロ。余裕で病院送りになったらしい。

 額の傷も、その事故でできたものと聞いた。

 意識を失っている間にデカい地震もあったようだし、恐ろしい年明けである。


「実はあれ……嘘なんだ」

「嘘!?」


 今度は、反対に俺が身を乗り出した。

 どれが嘘だっていうんだ?

 時期も全力疾走も本当だろうし……もしや身体の傷が偽物だったり――。


「時期と全力疾走の件だ」


 隆輝が言った瞬間、俺の中で何かが崩れていくような気がした。


「……は? 待て、それって……どういう」

「いや、ほんとは言うつもりなかったんだけどな」


 隆輝は頭をかきながら、少しだけ目を逸らした。

 そして、低く真剣な声で続けた。


「お前と一緒に新宿に出たのは、年末じゃなくて年始だ。んで……全力疾走なんてしてない。ある意味ではしてたとも言えるが、メインはそこじゃない」

「メイン?」

「知ってるだろ? 地震があったんだよ。俺たちが出かけてた日でさ、とんでもない揺れだった。駅前の地面がマジに波打って、誰かが『地面が生きてる!』って叫んでるのが聞こえたくらいだ」


 隆輝の語気が、徐々に重くなっていく。


「俺たちはたまたま駅前にいて、ガード下に逃げ込もうとしてた。けど、そこでお前……急に走り出したんだよ」

「俺が?」

「周囲の人達が崩れた鉄骨に巻き込まれてるって気づいたんだろうな。お前、何も考えずに突っ込んで行って、瓦礫の中から小さい子を抱えて引きずり出したんだよ」

「…………」

「正直、俺は見てるだけで足が震えてた。けど、お前は迷わず助けに行った。しかも、その後も人が変わったように走り出して、極め付けは――」


 隆輝はポケットからスマホを取り出し、一枚のスクリーンショットを見せてきた。

 それは、ニュース記事の切り抜きだった。


《年始に発生した新宿駅前通り魔事件 人々を救った謎の少年に称賛の声》


 その記事には、ぼやけた後ろ姿の写真が添えられていた。

 背格好、姿勢、服装。何もかもが平凡。

 だけど、俺は見た瞬間に分かった。

 どう見ても俺なのだから。


「……通り魔?」

「そう。俺はお前を見失っちまったけど、地震の混乱に紛れて、どっかの狂ったヤツがナイフ持って暴れ始めたんだよ。逃げる人たちの中に、女の子が一人だけ立ち尽くしてたらしくて……」


 巻島の言葉が脳裏をよぎる。


『君なの……っ! あの日、僕を助けてくれたの……君だったんだ……!』


 なんだよ、巻島の言ってることは間違ってなかったのか。

 今の俺に記憶がないだけで、過去の俺は――巻島相手と知ってか知らずか――関わっていたらしい。

 

「……でも、一つだけ聞かせてほしい」

「ん?」


 隆輝の声が、普段の明るさに戻った。

 隠していた事を打ち明けて、肩の荷が降りたように。


「……どうして俺に、その時のことを秘密にしてたんだ?」

「そりゃあ……てっきり死場所でも探してるのかと思ってな。この読みは間違ってたって今では分かるけど……言い出すに言い出せなかった。すまん」


 隆輝は深々と頭を下げる。

 

「頭上げてくれよ、気にしてないから」

「……そうか?」

「俺を心配してくれてたんだろ? ならむしろ、俺が言うべきはありがとうだ」

 

 そう告げると、彼はゆっくりと顔を上げ、カラッと笑った。


「いやぁ、お前を見つけた時、全身血だらけだったんだぞ? 尊敬とドン引きのハーフ&ハーフだったわ!」

「なんかちょっとムカつくから殴っていい?」

「ごめんて」

「……冗談だよ。それにしても、俺がなぁ……」


 指がふと、自分の生え際にある、消えない傷跡に触れた。

 巻島を助けたのは――きっと、俺だ。


「……だとしても、巻島とどうこうなろうなんて気はサラサラないけどな」

「はぁっ!? お前マジで言ってんのか!? 頭打った後遺症で判断能力を失ったのか!?」

「違うわ。確かに。他の奴が俺の立場だったら……付き合ってるのかもな。でも、俺には助けた記憶もないし、巻島だから助けたわけでもないと思う」

「そりゃあ、まぁ……あの時に人の顔を見てる余裕なんてないだろうからな」

「人助けは、俺にとっては自己満足なんだよ。しかも、相手は学校一と名高い美少女アイドルだぞ? 殺されるわ、俺が」

「もちろんぶっ殺されるね。確実だね」

「だろ? 東堂先輩も怖いしな。明日、呼び出しくらってる」

「うわぁ……」


 彼女からは「今日は仕事があるけど、明日の昼なら時間が取れるから説明してもらうわ」という死刑宣告が出ている。行きたくねえ。


「そういえばお前、今日部活あんだっけ」

「……あ、そうじゃん。忘れるところだった。こっちも行きたくねぇなぁ……」


 何度目か分からないため息。


「行きたくない? 悟の趣味だろ、写真」

「いや、趣味なんだけどさ」


 それとこれとはまた別の話なのだ。


「……とりあえず行くことにするわ。いろいろ教えてくれて、ありがとな」

「おうよ。俺もこれから練習行くわ。明日、放課後にラーメン行こうぜ」

「いいね。隆輝の奢りで」

「嫌だと言いたいところだけど、今日の惨状を見てるからOK」


 持つべきものは寛容な友である。

 そんなことを思いながら、俺は写真部の部室へと向かった。


 

次回、更なるヒロインをin

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