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百合色横恋慕  作者: 芝井流歌
第2章 ビビット編

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41/105

41☆オレンジのシュシュから始まる横恋慕

第1章完結から1ヶ月、再連載として戻って参りました!

再びよろしくお願い致します♪

 真夏のような太陽が、衣替えしたてのあたしを照り付ける。まだ六月に入ったばかりだというのに、天気予報では三十度を越えるところもあるでしょうと告げていた。


「あっつ……」


 せっかく夏服が解禁になったのだから半袖にすれば良かったかな、とブラウスの袖を二・三度捲る。首元のタータンチェックの水色リボンも(ほど)きたいくらいだけど、あたしはこの学園の制服が結構気に入っているので少し緩めるだけにして第一ボタンを外した。


 暑い暑いと口にしても、このうなじのジリジリもじっとりとした湿気も治まらないのは分かっているけれど……。


 誰よ、こんなくそ暑い昼休みに裏庭へ呼び出した奴は……。


 レンガ調のプランターに腰掛ける。スカートのポケットに手を突っ込んで今朝下駄箱に入れられていた送り主の分からない手紙をもう一度開いた。丁寧な文字で『渡したい物があるので、お昼休みに裏庭にてお待ちしています』と書かれている。


 お昼休み、裏庭、今あたしはここで待ってるんですけど……? お待ちしていますとか言っておきながら誰もいないじゃない、と頬が膨らむ。


「よっと」


 いよいよ首が焼けてしまいそうだしポニーテールもかなり熱を帯びている。来ないなら帰るか、と花壇から腰を上げた。


「相葉汐音さん」


 声がしたのは頭上からだった。見上げれば校舎の廊下側の窓からひょっこり顔を出している女の子と目が合う。


 あの赤縁メガネっ子は確か……。


「ごめんね、相葉さん。今行くから」


「あたしを呼び出したのって……」


 ぴしゃりと窓を閉じる音にかき消された。声の主が廊下を急ぐ姿を見送ってもう一度花壇に腰掛けた。


 あの赤縁メガネっ子は茉莉花と同じ服飾科、六組の柳原(やなぎはら)奈也(ななり)。クラスも部活も違うので話した事はないけれど、あちらもあたしの名前を知っていた。いや、呼び出した張本人なのだから知っていて当たり前か。


 柳原奈也が来るまで、あたしは呼び出された理由を考えていた。誰からか分からない手紙の差出人が判明したところで、あの子に呼び出されるような事をした覚えが全くないからだ。


 あたしと茉莉花が付き合いだしてから一か月が過ぎた。公表している訳でもないし、逆にどこで洩れ出すか分からないので結構気を付けて隠し続けている。あたしは四組、あいつは六組、部活こそ同じもののこれといって共通点がある訳でもないので廊下で見かけてもあたしは知らんぷりをしている。学校では恋人としてではなく、お互いに相葉汐音と獅子倉茉莉花として過ごしているのだ。


 知っているのはあたしのルームメイトの鈴芽ちゃんと、あいつのルームメイトの千歳だけ。黒宮部長や砂塚先輩は気付いてはいそうだけどあえて確認して来ないのか、それとも平行線だと思っているのか。とにかく事実を知っているのはあたしたちのルームメイト以外にはいないのだ。


 マリッカファンからはたまに睨まれる事もある。あれだけの公然でビンタを食らわせたのだから、あちらからすればあたしは何様な存在なのだろう。だけどあれ以来人前で茉莉花と絡む事をあたしが避けているので、あたしとあいつの仲がなんなのかと尋ねて来る人もいなかった。


 という事は、この呼び出しは茉莉花絡みではない……?


「おまたせ。ごめんね、遅くなっちゃって」


 少し息切れをしながらにっこり笑われて、熱を帯びたポニーテールを振りながらあたしも微笑み返す。


「ううん、お昼はもう食べたから大丈夫。……それで、あたしに用って何?」


 余所行きの笑顔を取り繕ってはいるけど、あたしの内心は暑さから早くしてよとイラ立っている。急かすように本題を問いかけると、赤縁メガネっ子は二つに束ねられた髪をもじもじといじりながら口を開いた。


「あのね、そのね、えっと……率直に聞くけど、相葉さんて好きな人いる?」


「……へ? す、好きな人?」


 あいつ絡みではないと思っていたけど、ここに来て関係のある話が浮上するとは……。いると言えば誰だと聞かれそうだし、いないと言えば嘘になるし。あいつの無垢な寝顔が脳裏を過ぎったけど、めんどくさいよりはましか、とあたしは後者を選んだ。


「い、いないよ。何で?」


「いないの? いないの? なら、アタシと付き合って!」


「……は?」


 真っ赤になった顔を隠すかのように、柳原奈也はガバッと頭を下げた。突然の事に開いた口が塞がらないあたしがしばらく立ち尽くしていると、チラリと上目使いをした柳原奈也と目が合った。


「ダメ?」


「だ、ダメっていうか、その……あたし、柳原さんとろくに話した事もないし……急にそんな事言われても……」


「いないって事は、マリッカとも何もないんでしょ?」


 ……え?


 疑われてる……?


「や、やだなぁ、そんなんじゃ……」


 ジッと覗き込まれてつい目を泳がせてしまった。声も上ずっていたと思う。暑さからか緊張からか、背筋に汗が一つ落ちていった。


「じゃあいいでしょ? 話した事がないからダメって言うなら、今週末、ううん、今日の放課後デートして!」


「ちょ、ちょっと待って? ろくに話した事もないのにあたしと付き合いたいってどういう事? あたしの何を知って言ってる訳?」


「何って、相葉さん程かっこいい女の子っていないと思うもん。見た目はかわいいしポニーテールとデコ出しパッチンも堪らないけど、サバサバした性格とか言動とか、うちの学校にはいないタイプだから目に入っちゃうんだよね。いつだったかマリッカに思いっ切りビンタしてたの見た時から惚れちゃって……や、やだぁ、何言わせるのぉ」


 か、かっこいい……? 初めて言われましたけど……。むしろ表立ってかっこいいと言われてるのは、あたしにビンタ食らわされてたあいつの方だし……。


 だけどかわいいと言われるのも滅多にない事なので、それはそれでむず痒いというかくすぐったいというか。第一、くねくねと照れながら髪弄(いじ)りしている柳原奈也の方が女の子女の子しててかわいいくらいだというのに。


「そ、そうだ、汐音さんって呼んでもいい? 厚かましい、かな? 憧れの人を下の名前で呼ぶの夢だったの」


「ゆ、夢って……大げさだなぁ。別に構わないけど『さん』付けじゃなくていいよ。同学年なんだし」


「本当っ? ありがとう、じゃあアタシの事は奈也って呼んで?」


「う、うん……」


 調子狂う。こうもキラキラしたお目々をされては嫌な顔も出来ないし……。あ、いや、慕われるのは悪い気はしないけど、好かれる事に慣れないというか何というか……。


 奈也は目を輝かせてあたしの手を取り、「汐音、汐音、汐音」と、上下にぶんぶん振りながら嬉しそうに反芻している。一見頭良さそうなのに幼い少女のような表情を見せる彼女を、あたしはいつの間にか微笑ましく思えていた。


「じゃあ、放課後四組に迎えに行くねっ。デート楽しみにしてるからっ」


「む、迎えに? あたし今日は部活あるから今日はちょっと……」


「あ、そっかぁ。んじゃ週末は? 土曜日なら学校も部活もないしデートしてくれるでしょ?」


「土曜……?」


 あたしは少し躊躇った。茉莉花の顔がチラつく。学校でほぼ話せない分、土日は部屋でまったり過ごしていたから。もちろん夜は毎日ルームメイトを交換しているのだから、一緒にいると言えばそれもそうなんだけど。


 だけど、入学して早二カ月、茉莉花とデートらしいデートもしていないし、誰とも出掛けていない。むしろ初めてのお誘いに心が傾く。


 好意を持たれるのは悪い気はしないし、あいつの遊び癖も二人きりでなければ黙認してあげているのだから、あたしだってたまにはいいよね、と改めて奈也を見つめた。


「分かった、土曜日ね。でもあたしあんま出掛けなくて遊ぶとこに疎いから、行先は任せるよ。それと、お小遣いも少ないからあんまお金かからないとこで」


「本当っ? やったぁ。うん、じゃあデートコースはアタシに任せてっ。絶対喜んでもらえるところを探しておくから。あ、そうそう、それと……」


 奈也は早口でそう言うと、スカートのポケットをごそごそとあさり出した。そういえば渡したい物があると手紙に書いてあったっけ。「これ」と差し出してきたのは鮮やかなオレンジ色のシュシュだった。


「これね、服飾の自由製作で作ったの。汐音のイメージにぴったりだと思って。眩しいくらいかっこよくて、太陽みたいに輝いてる汐音のイメージそのものでしょ?」


「ちょっ、それは買い被り過ぎだってば。あたしのどこが眩しくて輝いてるのよ」


 さすがにそこまで言われると歯が浮く。だけど奈也の目は相変わらずキラキラしていて嘘か冗談かと疑わせない程だった。きっと、褒められ慣れてないあたしが捻くれているのだろう。


 おずおず受け取ると、奈也は嬉しそうに目を見開いた。純真そうな笑顔。大げさな物言いをしてくるけど、彼女の気持ちを素直に受け止める事にした。


「ありがと。すごくかわいいね。あたし超が付く程不器用だから、こんな手作りアクセ作れる奈也を尊敬しちゃうよ」


「そんなそんなっ。大した事ないよぉ。でも気に入ってもらえて良かったぁ。絶対似合うと思うから付けてみて?」


「あ、うん」


 話している間にも太陽に照らされて熱を帯びていた髪に触れる。高い位置で束ねていた髪ゴムの上からシュシュを二捻りして振り返ってみせた。オデコのパッチン止め以外の装飾品をあまり身に付けないあたしは、初めてのシュシュにやや緊張していた。


「どう、かな?」


「うんっ、やっぱりすごく似合う。すごくかわいい。自分が作っておきながらなんだけど、シュシュも汐音に付けてもらって喜んでると思うっ」


「あはっ、またまた大げさだなぁ。うん、でもあたしも嬉しい。ほんとありがとね。大事にさせてもらうから」


 振り向くと奈也は目を輝かせてうんうんと頷いた。分かり易くてかわいいな、そう思ってあたしの口元が緩む。普段女の子らしくないあいつばかりに気を取られているせいか、あたしの言葉によって頬を染める奈也が余計に女の子らしくてかわいいと思えてしまう。


「じゃあ、あたし次体育だし着替えなきゃだから教室戻るね。土曜の件はまた今度」


「うんっ。今日はわざわざ来てくれてありがとう。デート、楽しみにしてるからっ」


 手を振って背を向ける。歩き出すとオレンジ色のシュシュに飾られたポニーテールがご機嫌に揺れた。


 あいつも、茉莉花もかわいいって言ってくれるかな……そう考えて笑みがこぼれる。キザなあいつの事だ、当たり前のように褒めてくれるだろうけど、嬉しいのはかわいいと言ってくれる事だけではなく、あたしの為に作ってくれた子がいるんだというニュースも。


 今夜はさっそくあいつに自慢するんだ。モテモテナンパちゃら娘がどんな顔するのか楽しみで仕方がない。モテるのはあんただけじゃないのよ、なんて言ったら怒るだろうか。ふふっ、それはそれで楽しそう。


 足取りもポニーテールもご機嫌がにじみ出ているであろう。終わりかけの昼休みの廊下を、にやけを堪えながら駆け抜ける。


 だけど、あたしはまだ知る由もなかった。この一本のシュシュがあたしを事件に引きずり込もうとしている事を。


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