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勇者の孫の旅先チート 〜最強の船に乗って商売したら千の伝説ができました〜  作者: 長野文三郎


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自然を大切に

 海から戻ったシエラさんは額にうっすらと汗をかいていた。

戦闘の興奮が冷めないようで、少しだけ息遣いが荒い。


「お疲れさまでした。ケガはありませんか?」

「大丈夫だ。セイリュウにもかすり傷一つつけていないよ」

「呼吸が少しだけ乱れているみたいですけど……」

「そ、それは、レニー君が……」

「僕がどうかしましたか?」


 シエラさんはチラチラと僕を見ながら、意を決したように口を開く。


「レニー!」


 と、いきなり岸の方からフィオナさんが僕を呼びつけた。


「なんですか?」

「石板の汚れが落ちたぞ。見に来いよ!」


 フィオナさんとミーナさんの作業が終わったらしい。


「行ってみましょう。あっ、お話の途中でしたね。僕が何かしたみたいでしたけど……」

「いや、違うんだ。少し疲れていただけで……。もう、呼吸も収まった」

「そうですか? でしたら行きましょう。大昔の石版だなんてロマンがありますよね」

「ああ……」


 僕は水陸両用の装甲輸送船でそのまま岸へと乗り付けた。


 大きな石板を浜の石に立てかけて、フィオナさんとミーナさんが自慢げに見せてくれた。


「どうだ、綺麗になっただろう? 特別な溶剤を使ってフジツボを落としたんだぜ」


 暑いせいかフィオナさんは黒いタンクトップだけの姿になって、胸を張って威張っている。

普段は意識することはないんだけど、フィオナさんも女性であるわけで……、困ってしまう。

僕は自分の動揺を悟られないように石板に注目した。


「なっ? だいぶかすれているけど文字がわかるだろう? 何が書いてあるんだろうな。ひょっとして魔法薬の秘伝だったりして」

「ちがいますよ」


 ウキウキしているフィオナさんには悪いけど、僕は反射的に答えてしまっていた。


「ちがうって、レニー……、もしかして、これが読めるのか?」

「どうやらそのようです」


 船長の固有ジョブスキル『言語理解』のおかげだ。

説明では、世界のあらゆる言葉を理解できるとあったけど、まさか古代文明の文字まで解読できてしまうとは思わなかった……。


「で、何が書いてあるんだ?」


 純真な瞳で見つめてくるフィオナさんには悪いけど本当のことをいうしかない。


「自然を大切に、ゴミは持ち帰りましょう、と書いてあります」

「はっ? ……なんだそれは?」


 なんだと訊かれても、そう書いてあるんだから仕方がない。


「あっ、端っこの方に小さく『ネピュラス神殿 事務所』って書いてあります。あの遺跡は神殿なのかもしれませんね」

「神殿かぁ……そうかぁ……」


 フィオナさんは明らかにがっかりした顔をしていた。


「なんでそんなにつまらなそうなんですか?」

「だってさ……、アタシはあそこが古代の精錬所か何かだと思ってんたんだよ! あんなでっかいオリハルコンの盾が見つかったからさ……。それが神殿だったなんて……うぅ……」


 フィオナさんが涙ぐんでいる。

よっぽど古代遺跡に思い入れがあったんだな。


「フィオナさんが考えていたものとは違うかもしれませんが、あそこが確実に古代文明の遺跡とわかっただけいいじゃないですか。きっと盾の他にもいいものが出土するかもしれないですよ」

「まあな……」


 フィオナさんはまだ気落ちしているみたいだ。


「元気を出しましょうよ」

「だったらナデナデしてくれ。レニーが励ましてくれないとこれ以上作業ができない気がする……」

「おい!」


 しかりつけようとするシエラさんを制して、僕はフィオナさんの赤髪に手を伸ばした。


「フィオナさんは世界一の魔道具師です。きっといつか古代文明の謎を解き明かす日が来ますよ」


 ナデナデ……、これでいいのかな?


「う~ん、もう少しでエンジンが再始動できそうだけど、まだ無理」

「困りましたねぇ」

「レニーがぎゅっとしてくれたら立ち直るかもしれない」

「今日はずいぶん甘えっ子ですね」

「女には一年に何回か分解されたい日がある……」


 分解? 

たとえがよくわかりませんよ。

とにかくフィオナさんには頑張ってもらわないといけないからな……。


「レニー君! それ以上そいつを甘やかすことはないぞ」

「まあまあ」


 いきり立つシエラさんをミーナさんが宥めている。


「シエラさんだって負け戦の時はちょっとやそっとじゃ立ち直れないくらい落ち込むでしょう?」

「それは、まあ……」

「私だって同じよ。料理で大失敗しちゃったら誰かに慰めてもらいたいもの。だから今回はフィオナさんを許してあげて」

「だが!」

「よく考えてよ。ここでフィオナさんを許しておけば、次にシエラさんが落ち込んだときはレニー君に優しく慰めてもらえるのよ」

「なっ! ぐぬぬっ……おのれ策士め……」

「あらやだ、私はただの料理人よ」


 いったい何の会話なんだろう? 

そんなことより今はフィオナさんだ。

いつもは僕が甘えているから、今日くらいは優しくしてあげないと。

でも、ちょっと照れるかも。


「これでいいですか?」


 僕はフィオナさんの肩を優しく抱き寄せた。


「もう少し強いほうがいい……」

「はいはい。どうですか? 落ち着きましたか?」

「うん……。海底に行ったら古代の魔道具が見つかるかな?」

「それは無理じゃないででょうか? あの遺跡は魔物の住処になっていたみたいですしね」

「う~~~」


 悔しそうにするフィオナさんの頭をよしよししてあげた。


「今回のことで僕は古代文字を読めることがわかりました。今後も遺跡は見つかるかもしれませんし、他の出土品を見る機会もあるでしょう」

「うん……」

「古代文明の手がかりを得る機会はまたきっと訪れますよ」

「そうだな」


 最後に僕の胸へ額をグリグリと押し付けてから、フィオナさんはようやく体を離した。


「よし、気を取り直して遺跡の調査を再開するか!」

「そうこなくっちゃ。まだまだ珍しいものが見つかるかもしれませんからね」


 そろそろ海底の視界もクリアになっているだろう。


「次は僕が出ます。『地理情報』を駆使して内部に入れそうな場所を探ってみますよ」


 集中すれば建物の内部構造もある程度は把握できるはずだ。

僕はセイリュウに乗り込み、波が音を立てる砂利浜から海の中へとダイブした。







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― 新着の感想 ―
[良い点] レニーぼっちゃまも立派になられましたなぁ… [気になる点] 神殿の事務所、神社でいう社務所みたいなものかな。 [一言] そういえば伝導の儀式でお姉さん達に伝わったのは船や車両の技術と知識だ…
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