船を召喚していたら、エラいところから召喚されました
祝! カドカワBOOKSより書籍化決定です!
それに伴いタイトルが変更になります。
今は旧題と新題を併記しておりますが、そのうち新タイトルのみの表記になります。
『勇者の孫の旅先チート 〜最強の船に乗って商売したら千の伝説ができました〜』
フェニックス騎士団を大鷲城まで送り届け、ようやく僕の肩の荷は半分おりた。
お次は船に積んである荷物を売り捌く番だ。
今回は葉巻を一箱、金細工の宝飾品を数点、絹の布地を20巻き、アゼイア大陸から運ばれてきた紅茶の葉が二箱だ。
本当は新しい船の中で展示即売会をやりたかったのだけど、ナビスカさんを迎えにエディモン諸島へ戻る必要があるのでその暇はない。
ニーグリッド商会にお願いして適正な値段で買い取ってもらうことにした。
ニーグリッド商会本店の応接室で待っていると、会計を終えたルネルナさんが戻ってきた。
「手続きはすべて終わったわ。書類に目を通して問題がなければサインをお願い」
今回の売り上げは162万ジェニーか。
宝飾品は売らずにとってあるので、まずまずの値段だ。
純利益で18万ジェニー(180万円に相当)は出ているだろう。
「紅茶がいい値段で売れていますね」
「前に言ったでしょう、今はアゼイアブームだって」
そう言えば東の国の様式が流行りつつあるって聞いたな。
東洋の紅茶なんかも喜ばれるのか。
「だったら茶器なんかを運んでくるのもいいですね。ティーポットとかティーカップとか。ポセイドン騎士団のことが一段落したらアゼイアまで行ってみようかな」
「アゼイア……」
「ええ。もうすぐレベルも19に上がりそうだし、より長距離航行が可能で強力な船が召喚できそうな気がするんですよね」
「強力で長距離航行が可能な船?」
「もしそうなったらルネルナさんも一緒にアゼイアへ行きませんか? 僕は自分の審美眼には自信がないので、センスのいいルネルナさんに一緒に来ていただけたら心強いのですが」
ルネルナさんも、その場にいた商会の職員さんも呆然としていた。
「そ、そうよね。レニーとシャングリラ号ならそれも可能ですものね! やっぱり私のレニーは最高だわ」
「ルネルナさん、人前でそういうのは……」
あんまり褒められ過ぎるのも恥ずかしいよ。
「照れることなんてないわ。アゼイア大陸だったらニーグリッド商会が仕入れてきてほしいものはたくさんあるはずだから、手付金を貰えるはずよ。ねえ?」
その場にいた職員さんは驚きに声も出せずにコクコクと頷いている。
だったら先に魔石を仕入れられるから安心して出航できそうだ。
「ムシーク、シベルタ、カセマトリウムなんていう香水の原料はアゼイアにしかなくて、とんでもない高値で取引されるわ。それを現地で安く仕入れられたら、それこそすごいことになると思う!」
ルネルナさんはものすごく興奮しているけどちょっと待ってほしい。
「そういう船が召喚できるようになったらの話ですよ。より強力な武装のついたやつです」
「機銃やグレネードより強力な武装?」
「そうですね。それくらいなければ安全にアゼイアまで行くことはできませんから。ルネルナさんを危険に晒すわけにはいかないです」
「……」
ルネルナさんが無言でプルプルと震えている。
アゼイアに思いを馳せて興奮しているのかな?
と、思ったらいきなり飛びついてきた⁉
「レニー! もう、本当に言うことが一々可愛いんだから!」
「いえ……だから、人前でこういうのは……」
恥ずかし過ぎるよ……。
「行くわ! 私も絶対にアゼイアにいく。二人で世界一の商人になりましょうね!」
僕に抱き着きながら高らかに宣言するルネルナさんには悪いんだけど、僕のなりたいのは商人じゃない。
僕はあくまでも船長なんだもん。
積み荷の販売を終えた僕はフェニックス騎士団のノキア団長に面会することにした。
僕としてはすぐにでもナビスカさんのところに戻らなくてはいけないと思っている。
もし、騎士団がエディモン諸島へ戻るのなら、積み荷と一緒に送っていくことを申し出ようと思ったのだ。
ところがノキア団長はアルシオ公爵令嬢やハイネーン王国の重鎮たちとの会議で今は不在とのことだった。
ロックナ王国の今後について国の首脳たちと話し合っているらしい。
そんな大切な会議なら僕の出る幕はないもんね。
仕方がないのでフィオナさんの工房へ魔導エンジン開発の進捗状況を聞きに来た。
こちらも大切な投資先だ。
それに次の出航までの短い間とはいえ、また4馬力エンジンの構造をフィオナさんに見せておいてあげたい。
「よぉ、レニー! 港にでっかい船が現れたって聞いたぜ。どうせレニーの船なんだろう?」
なにがしかの部品の組み立てをしていたようで、フィオナさんはタンクトップ一枚の姿で額の汗をぬぐっていた。
季節は春の終わりにさしかかっていて、工房の中は熱い。
「新しいシャングリラ号ですよ。高速輸送客船っていう種類の船です」
フィオナさんと会うのは久しぶりだから、まだ高速輸送客船の現物は見てもらっていない。
見たらきっと興奮すると思う。
他の人は綺麗で見晴らしの良いラウンジや操舵室に行きたがるけど、この人ならきっと機関室に直行するんだろうな。
「ところで国産魔導エンジンの方はどうですか?」
「おう、それなら試作機用の小型エンジンの部品を鍛冶屋に依頼しているところだ。じきに上がってくるだろう」
「それは残念でした。僕が忙しくなかったら依頼を受注したんですけどね」
「へっ? どういうこと?」
「言っていませんでしたっけ? 僕はもともと鍛冶屋の孫なんですよ。一通りの鍛冶仕事は仕込まれているんで、どうせなら自分の手でエンジンの部品を作ってみたかったです」
「そいつは初耳だな。だったら今度、アタシの工房も手伝ってもらわなきゃ」
僕も機械や鍛冶をするのは大好きだけど今はその暇がない。
「そうしたいのはやまやまなんですけど、すぐにエディモン諸島へ引き返さなくてはならないんですよね。向こうの仕事がまだ途中なんで」
「へぇ……、エディモン諸島かぁ。今度は私も一緒に行ってみようかな」
「ハイネルケを離れても大丈夫なんですか?」
「エンジンの部品ができあがるのはまだまだ先だからね。レニーの新しい船もみたいし、バリバリのバリスタの運用実績もこの目で確認したいしさ」
フィオナさんが来てくれるのはいいことかもしれない。
僕は前回のレベルアップで『二重召喚』が使えるようになった。
このスキルを使えば、高速輸送客船の貨物室で四馬力エンジンを搭載したローボートを呼び出すことも可能だ。
そうすればフィオナさんもじっくりとエンジンの構造を調べられるというものだ。
フィオナさんにこのアイデアを説明すると魔道具師魂に火がついたようだった。
「巨大船の中の研究所かっ! 職人心をくすぐるやべえ響きだな。よっし、アタシもレニーと一緒にエディモン諸島へ行ってやる。いや、絶対について行くからな!」
こんな感じで相談がまとまったところで、慌てた様子のシエラさんが工房へ入ってきた。
「探したぞ、レニー君!」
「慌ててどうしたのですか?」
いつも冷静沈着なシエラさんらしくない様子がうかがえる。
「君に呼び出しがかかっているんだ。大至急私と来てくれ!」
「呼び出し? どこからですか?」
「王宮からだ」
「……ええっ⁉ どういうことなんですか?」
予想外の名称が出てきたぞ。
何か仕事の依頼かな?
それともシャングリラ号をよこせとか言うんじゃないよね?
「王宮は無茶な要求ばかりしてきやがる」とじいちゃんが言っていたから、僕はあまり良いイメージを持っていない。
シエラさんは僕を落ち着かせるように説明をしてくれた。
「エールワルト公爵令嬢と我が国の首脳が会議をしているのは知っているだろう?」
そのためにノキア団長に面会がかなわなかったからよく知っている。
僕は口を挟まずに頷いた。
「その席で、エールワルト公爵令嬢が王位を継ぎ、ロックナ王国の女王になったことをハイネーンが認めたのだ」
たしか王族はアルシオさんだけだったんだよね。
それはいいんだけど……。
「そのことと僕とどういう関係があるんですか?」
「うむ、我が国とロックナ王国は同盟関係にある。王族が生き残っており王位を継いだとなると盟約を果たさなくてはならない」
「盟約?」
「ロックナ王国への派兵だよ。しかし我が国も国境線を守るのが手いっぱいというのが現状でまとまった兵を送る余裕はない。そこで君に白羽の矢が立った」
「つまり、シャングリラ号を派遣するってことですね」
「頭の回転が速くて助かるよ。まさに、その通りだ」
シエラさんはため息交じりに僕を褒めてくれる。
まるで貧乏くじを引いた可哀想な弟を見るような目で。
たぶん断ることなんてできない依頼なんだろうな……。




