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勇者の孫の旅先チート 〜最強の船に乗って商売したら千の伝説ができました〜  作者: 長野文三郎


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仕事の依頼

手書き地図でごめんなさい

挿絵(By みてみん)

 ナビスカさんは大きな籠を片手にぶら下げて港へやってきた。


「ナビスカさーん! ここですよぉ!」


 手を振って呼ぶと、嬉しそうにトコトコと小走りでかけてくる。

大きな体をしているのに、こういうところが可愛らしいおじさんだ。


「なんとも立派な船じゃのぉ! 貴族のヨットよりも豪華じゃわい」

「さあ、乗ってください! お食事の準備も整っていますよ」

「では失礼いたす!」


 中に入ったナビスカさんは船の設備に大きな目玉をさらに大きくして驚いていた。


「まったくもって不思議な船じゃ。帆がない上に、中はこんな風になっているとはなぁ……」

「魔力を利用して動くんですよ。遠慮なさらずにお席へどうぞ」

「ん? すまんの! おお、これは約束の土産じゃ」


 物がぎっしりと詰め込まれたバスケットをナビスカさんはグイッと突き出してきた。

中には酒瓶やパン、大きなチーズや揚げたてのコロッケまで入っている。


「あっ、このコロッケはまだ温かいですね」

「まかないの婆さんに大急ぎで作ってもらったタラのコロッケじゃ。アルケイの郷土料理だぞい。冷めないうちに食ってしまおう! ダハハハハッ!」


 ミーナさんの料理にナビスカさんが持ってきてくれた料理も加えて、ボリューム満点の夕食になった。


「こちらはポセイドン騎士団のオレオ・ナビスカさんです」

「本日はお招きいただき光栄に存ずる。ポセイドン騎士団百人隊長のオレオ・ナビスカと申す。まあ、堅苦しい挨拶はなしじゃ。ライラック殿とレニー殿とは戦友じゃからなっ!」


 ニカッと笑うナビスカさんに食卓の雰囲気も打ち解けていく。

さっそく乾杯のためのワインが注がれた。


「今日はたくさんの騎士たちが亡くなってしまったが、生き残った我々には人生を全うする義務がある。死んだ戦士たちを悼み、生き残ったことを素直に喜ぼう。乾杯!」


 ナビスカさんの挨拶にグラスが重なった。


「タラのコロッケは初めてですけど美味しいです。ニンニクがよく利いていますね」

「この辺ではありきたりの料理だがハイネルケの方々には珍しかろうと思って持ってきた。喜んでもらえたのならよかったわい」


 食事は和やかにすすみ、食卓ではアルケイのワインとハイネルケのワインの飲み比べなんかが行われている。


「ところでレニー殿はコンスタンティプルに行くのだったな?」

「はい。カサックで仕入れた品物をコンスタンティプルで卸す予定です。ついでに向こうでいい物が仕入れられればと考えています」

「ふむ、貿易が君の仕事というわけか」

「貿易だけじゃないですよ。人を乗せた連絡船もやりますし、ディナークルーズなんていうのもやりました」


 ナビスカさんにハイネルケでやった食事つきクルーズの説明をしてあげた。


「それは優雅じゃのぉ。家族や恋人がいるものは喜ぶじゃろう」

「お友達同士で来ている人もいましたね」

「ふむ、いろいろなことをしておるのだな……」


 ずっと陽気に喋っていたナビスカさんがふいに難しい顔をして黙り込んでしまった。

なにかよくないことでもあったのか?


「ナビスカさん?」

「むっ、これは失礼いたした。ふ~む……」

「どうしたのですか?」

「うむ、実はレニー殿に頼みたいことがある」


 ナビスカさんは姿勢を正して真っ直ぐにこちらを見てきた。


「船をチャーターすることはできないだろうか?」


 チャーターということは貸し切りだよね? 

どういうことだろう?


「期間と料金と仕事内容によりますが可能ですよ。詳しく教えてください」

「エディモン諸島へ儂を連れていってはもらえないだろうか?」

「エディモン諸島というとダークネルス海峡を越えて東に行ったところですよね」

「そうじゃ。そこで野生の海馬を探したい」


 カリブティスとの戦闘では何十人もの騎士が亡くなった。

それと同時に海馬も四十頭以上が渦潮に飲まれている。


「戦は騎士の定めゆえ、いちいち悲しんでいる暇はない。こんなことを言ってはなんだが、騎士の替えはいくらでもいるのだ。儂を含めてな。だが海馬はそうはいかん。アイツらは繁殖が難しく、苦労してようやっと四百頭を超えたのはここ最近じゃ。それが今回の戦では大いに数を減らしてしまった」


 たとえ騎士がいても、海馬がいなければ海上での戦はままならない。

ポセイドン騎士団にとっては大きな痛手だろう。


「でも、野生の海馬はどこにもいないと聞きましたが」

「ハイネーン王国ではな。だがロックナ王国のエディモン諸島では何頭かが目撃されておる」

「ロックナ王国ですか……」


 テーブルにいた全員が沈痛な顔になってしまった。

それもそのはずで、ロックナ王国は魔物に滅ぼされてしまった国なのだ。

ダークネルス海峡を挟んですぐの場所がかつてのロックナ王国である。


「レニー殿、この通りじゃ! 報酬ならいくらでもはずむ。儂をエディモン諸島へ連れていってくれ!」


 ナビスカさんは大きな体を折り曲げて、テーブルに額がついてしまうほど頭を下げた。


「ナビスカさん、頭を上げてください! みんなの意見も聞かないといけないから即答はできませんけど、僕はこのお話を受けてもいいと思っています」

「おお!」

「ちょっと待って」


 発言をしたのはルネルナさんだ。


「最初に確認しておきたいんですけど、この話はポセイドン騎士団からの正式な依頼? それともナビスカさん個人の依頼かしら」


 商人の目は真剣だ。


「まだ上に話は通してはいないが、儂が上申すればすぐにでも正式な依頼となる。それくらい海馬のことは切実なのじゃ」

「いいでしょう。それはナビスカさんを信用するわ。問題は料金ね。ここまでの船を貸し切るんですよ。安くないことは覚悟しておいて」

「いくらくらいかかるんじゃろうか?」

「一週間の貸し切りで80万ジェニーよ」


 それはいくら何でもボッタクリすぎのような……。

僕としては必要経費+10万ジェニーくらいだと思っていたのに。


「それで海馬が見つかるのなら安いくらいじゃ」


 そうなの!? 

やっぱり商売のことはまだまだ分からないな……。


「国防に関わることだから、これでもかなり譲歩しているの。本当なら危険手当も含めて100万ジェニーは欲しいところよ」


 まあ、一週間かけて貿易をすれば、それくらいのお金にはなるかもしれないもんな。


「80万ジェニーをもらえれば、ルネルナさんも引き受けていいと考えているんですね?」

「ええ。ポセイドン騎士団が海の守りの要であることは間違いないもの」


 シエラさんもミーナさんも異存はないそうだ。


「ちょっと質問があるんだけど」


 手をあげたのはミーナさんだ。


「どうしました?」

「もし海馬が見つかったとして、どうやってここまで連れてくるの? 海の上を走らせて来るわけにもいかないでしょう。よく知らないけどエディモン諸島って遠そうだし」


 ここからだと600キロくらいは離れている。


「ポセイドン騎士団所有の運搬船をこの船に引っ張ってもらおうと思っていたが、それは大丈夫かの?」

「その必要はありませんよ。もっと大きな船もありますから」


 輸送客船があれば海馬が200頭いたって平気だ。

さすがにそんなにたくさんは見つけられないだろうけどね。


「それは助かる!」


 詳しいことはポセイドン騎士団の幹部会で話し合ってからということになり、その晩はお開きになった。

どうせすぐには決まらないと思うので先にコンスタンティプルに行って積み荷を降ろしてくる予定だ。

帰りにまたアルケイに寄って、話しが決まっていれば仕事を請け負うことにした。


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― 新着の感想 ―
[良い点] …手書き地図ですが… 私の百万倍絵がうまいですよ先生!!…分かりやすくて良いですよーーー!!!ありがとうございます!
[一言] 長野文三郎 先生!! さっそくの「地図の着色」有難う御座います。 欲を言えば〚川・河の線は【水色】〛〚街・村は●の上から【目立つ赤色】〛を塗ると完成度がより高まると思います。  そして、私の…
[気になる点] 地図を写真で掲載してくれるのは良いのですが、【海】と【陸】が見分けにくいです。100円ショップの色鉛筆で『塗り絵的にでも良いので、⓵海の「青」、川の「水色」⓶交易路の「土色」⓷森、山の…
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