娘ができた?
兵員輸送船を走らせて港へ帰ると、ポセイドン騎士団の団長から挨拶を受けた。
だけど僕もシエラさんも魔力切れを起こしていて、立っているのがやっとくらいに疲弊している。
だから会談はごく短めで終わった。
騎士団も犠牲者をたくさん出していたのでいろいろと忙しかったのだろう。
ナビスカさんとも改めて挨拶をかわしたけど、兜を脱いだ姿は禿げ頭でごわごわの髭が生えていた。
ゲジゲジ眉毛の下のぎょろりとした目に力がある。
想像通りの顔過ぎてちょっとびっくりしたくらいだ。
海の男らしく黒々とした肌をしていたけど、見た目はちょっぴりシーモンクに似ていた。
黒いシーモンク!?
でも笑うと愛嬌があって好感の持てる人物だった。
「二人ともよくやってくれた。礼を言うぞ」
「騎士の盟約に従ったまで。同じハイネーンの騎士なれば礼など無用」
「お主も生真面目なやつだな。少年の名前はレニーと言ったかな?」
「はい。レニー・カガミです」
「今夜はどこへ泊るのだ?」
人懐っこそうな顔でナビスカさんが聞いてくる。
「自分の船です。桟橋に大きなクルーザーを召喚して、そこに泊まる予定なのです」
「おお、あの術か! 海上で小さな船やら軍船やらが次々消えたり現れたりしていたな」
「はい。あれは僕の『船長』としての能力です」
「年若いながらルマンド騎士団に所属しているのはそういったわけか」
ナビスカさんは腕を組んでうんうんと頷いている。
「ルマンド騎士団所属と言っても名誉騎士ですけどね」
「とにかくよくやってくれた。あとで美味い物を船に届けよう。儂からの個人的な礼じゃ」
「そんな気を使わなくても」
「気にするな。我ら三人はともに戦った戦友だぞ」
「レニー君、こういう時は断らないのが騎士の作法というものなんだよ」
僕は船長であって騎士じゃないんだけど、まあいいか。
「わかりました。それではナビスカさんを船にご招待しますよ」
「ありがたい。すぐにアルケイの酒と海の幸を持って伺うとしよう、ダハハハハッ!」
ナビスカさんはのっしのっしと歩いて去っていった。
港で待っているとミーナさんとルネルナさんが戻ってきた。
ミーナさんに夕飯の用意をお願いして、僕はクルーザーの船長室に降りていく。
ナビスカさんが来る前に、休憩がてらステータスの確認をしておきたかったのだ。
なんせレベルが三つも上がったからね。
ベッドに横になりながらステータス画面を開いた。
名前 レニー・カガミ
年齢 13歳
MP 9217
職業 船長(Lv.17)
所有スキル「気象予測」「ダガピア」「地理情報」
走行距離 3463キロ 討伐ポイント 494105 トータルポイント497568
船長の固有スキル「言語理解」を習得。この世界のあらゆる言葉を理解できる。
レベルアップに伴いオプションを選べます。
a.小型装甲兵員輸送船用、セラミック装甲
b.魔導照明弾打ち上げ機
新所有船舶
■高速輸送客船
全長90.6メートル 全幅26.7メートル
最高速度 時速83キロ
レベルが一気に3も上がったから、いろいろとできることが増えている。
まずは固有スキルの「言語理解」。
これはとっても嬉しいスキルだ。
このスキルがあれば外国に行っても困ることはないだろう。
世界を旅する上ではこれほど役に立つスキルもないかもしれない。
次はオプション。
今回は装甲と照明か。
装甲は異世界の技術で作られた装甲版を船体の上から取り付けられるものだ。
輸送船専用のオプションになる。
戦闘となるとグレネードが使える輸送船の出番になるわけで、防御力が上がるのはありがたい。
一方の魔導照明弾打ち上げ機は、光魔法で作り出した光弾を空中に打ち上げて、周囲を照らして視界を確保するための道具だ。
一発打ち上げるのに60MPが必要になるけど、3分もの間、あたりを昼間のように明るく照らし出すとある。
船のライトやサーチライトはあるけど、周りをすべて照らせるわけじゃない。
戦闘となったら照明弾も役に立ちそうだ。
しかも打ち上げ機は小型で、どの船にも換装が可能だった。
今回は迷わずにb.の魔導照明弾打ち上げ機にしておいた。
やっぱり視界の確保は大切だし、どの船にでも取り付けられるというのが決め手だった。
そして最後は新しい船だ。
この船は人も荷物も運べる船らしい。
異世界では高速カーフェリーと呼ばれていて、自動車を運ぶための船みたいだ。
この世界に自動車はないけど、フィオナさんが開発したら大量に運ぶこともできちゃうな。
これまで僕が持っている船の中で一番大きいのはクルーザーだったけど、全長は19.28メートル、全幅も5.16メートルだ。
今度の船がいかに大きいかがわかるというものである。
すぐにでも召喚して船を確かめたかったけど、この港では90メートル超の船を呼び出すことは不可能だろう。
海軍の巨大帆船だって50メートルちょっとしかないはずだもん。
こんな大きな船を僕一人で動かすことができるのだろうか?
でも、召喚出来るんだから何とかなるような気がする。
ステータス画面で確かめてみたけど、内部は小型装甲兵員輸送船が何隻も積めてしまうくらい広いスペースが確保されている。
船底が双胴構造になっていて、船体が波を突き抜けるように進むから高速で安定した航海ができるみたいだ。
波の抵抗を受けにくい構造だと考えればいいだろう。
動力は水上バイクと同じで、船体後部から水流を噴き出すウォータージェット方式だった。
「うわぁー、内部には広いラウンジや会議室なんかまで付いているんだ」
ゲストルームもクルーザーよりたくさんあるし、展望デッキも広い。スピードだって速いから、コンスタンティプルに行くときは高速輸送客船で行った方がいいかもしれないな。
4時間もあれば着いてしまうだろう。
もちろんその分だけ魔力はたくさんかかってしまうけどね。
「レニー、ラウンジがどうしたの?」
ルネルナさんが船長室まで降りてきた。
「新しい船が召喚出来るようになったんですよ」
「それは良かったわね。今度はどんな船?」
「それが全長90メートルもある大きな輸送客船なんです」
「なんですって!?」
ルネルナさんが僕ににじり寄ってきた。
「荷物は!? 荷物はどれくらいつめるの?」
「かなりつめます」
「かなりってどれくらいよ?」
か、顔が近いですルネルナさん……。
「ざっとですけど……460トンくらいかな?」
ルネルナさんの目が大きく見開かれた。
そしてすぐそこにあった顔がそのまま迫ってくる。
「レニーーーっ!」
いきなり抱き着かれた!?
「もう最高! やっぱりお姉さんのものになりなさい! 貴方は本当に期待を裏切らないわね!」
「ルネルナさん離してくださいよ。少し落ち着いてください」
そう言ってもルネルナさんはベッドの上で僕に抱き着いたままだった。
「落ち着いてなんていられないわよ。90メートルの船だなんてニーグリッド商会だって持っていないわ。ううん、世界中のどの船会社だって持っていない大きさよ。これで大規模な貿易が可能になったわ!」
それはそうかもしれないけど、動かすのには大量の魔石がいるんだよね。
僕の魔力だけじゃとても賄えない。
数時間動かすだけで精いっぱいだ。
その分たくさん運べるからいいのかもしれないけど……。
「あっ、でもそれくらい大きかったらクルーザーみたいなスピードは出ないか……」
「でますよ」
「えっ?」
「最高速度はクルーザーよりも速い83キロです」
「ええっ!? ……レニー……」
ルネルナさんがじっと僕の目を見つめてくる。
そして――また抱き着いてきた!?
「なんですかぁ!?」
「お姉さん、レニーの子になる。娘になるから可愛がってぇ!」
お姉さんが娘?
もう、わけがわからないよ。




