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勇者の孫の旅先チート 〜最強の船に乗って商売したら千の伝説ができました〜  作者: 長野文三郎


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翡電石が売れました

 ハイネルクへ戻った翌日、僕は一人でニーグリッド商会へ向かった。

いつもの大柄な警備員さんが今日もひきつった笑顔で扉を開けてくれる。

一見怖そうな人だけど、日々笑顔がステキになってきている気がした。


 エントランスホールへ入るとすぐに職員さんが僕のところにやってきてくれた。


「ようこそお越しくださいましたカガミ様。本日はどういったご用件でしょうか?」

「翡電石の買い取りをお願いします。係りの方を呼んでいただけますか?」

「承知いたしました。すぐに伺わせますので応接室でお待ちください」


 僕は立派な応接室に通されて、紅茶とお菓子をご馳走になった。

考えてみれば初めてここに来たときとは待遇が全然違っている。

紅茶を一口すすり、ホッと溜息をついていると、二口目を飲む前に書類を手にした職員さんがやってきた。


「お待たせいたしましたカガミ様。本日は翡電石の買取依頼だそうですね」

「はい。ちょうど仕入れることができましたので」

「量はどれくらいですか?」

「だいたい350キロくらいです」


 石の量を教えると、職員さんの顔色が変わった。


「なかなかの量ですね。翡電石は北のウクレナが産出国として有名ですが、生産量は非常に少ない希少石です。それだけまとまった量が輸入されることは滅多にありません……」


 職員さんは探るような目つきで僕を見つめてきた。


「カガミ様はこれをどこで?」


 それこそ言えるわけがない。

スベッチ島のことは秘密にしておくと、フィオナさんと約束してあるのだ。


「それは内緒です。買い取りが無理な様なら他を当たりますけど……」

「いえいえ、ご心配には及びません。すべてニーグリッド商会で買い取らせていただきます」


 細かいことには目をつぶってくれるようだ。


「それでは現物を確認させていただきたいのですが、ものは船の中ですか?」

「はい。まだ荷下ろしはしていません」

「でしたら港へまいりましょう。お時間の都合は大丈夫ですか?」


 翡電石は輸送船に入れっぱなしだ。

だからわざわざ港へ行く必要はない。

あれは他の船と違って地上で召喚しても倒れてしまうことはないからね。


「どこか広い場所があればすぐにお見せできますよ」

「広い場所?」

「はい、馬車が停められるくらいの」

「はあ……」


 僕と職員さんはニーグリッド商会の裏路地にやってきた。

馬車同士はすれ違えないほど細い路地だけど、輸送船を置くくらいの幅はある。


「それじゃあいきますよ。召喚、小型装甲兵員輸送船!」


 路地の入口を塞ぐようにして、オリーブグリーンの船体が姿を現した。


「うえあっ⁉」


 現れた輸送船に職員さんは意味不明な驚嘆の声を上げてしまう。


「どうぞ確認してください。」


 床に散乱していた翡電石はフィオナさんの工房で重さを量って、きちんと木箱に詰めて変えてある。


「は、はい……」

「どうですか? 全部本物の翡電石ですよ」


 職員さんは書類に何かを書き込みながら、すべての箱を丹念にチェックしていた。


「問題はなさそうですね。あとはニーグリッド商会の倉庫で査定をしてお買取りという流れになります」


 倉庫は港の一等地である第一区画だったな。


「でしたら、このまま倉庫へ行ってしまいましょう」

「このまま?」

「それくらいサービスしますよ。乗ってください」


 職員さんと一緒に倉庫へ行けば仕事はスムーズにいくはずだ。


「乗り心地のいい船じゃないですけど、こちらのシートへ座ってください」


 エンジンをかけると職員さんは唖然とした顔で聞いてきた。


「もしかしてこれ、動くんですか?」

「はい」

「馬もいないのに!?」

「はい。それでは出航します」


 ゆっくりとアクセルを踏み込んで裏路地を抜けた。

大通りでもうまく馬車の車列に乗ることができている。

船長のジョブスキルのおかげで陸上の運転も上手にこなせるようだ。

職員さんは窓に額をくっつけて外の景色を眺めていた。


「カガミ様……」


 興奮した様子の職員さんがぼそりと呟いた。


「ニーグリッド商会にこの船を売っていただくことはできませんか?」

「残念ながらそれは無理なんです」


 以前、シエラさんにもした説明を僕は繰り返した。



 倉庫で翡電石を納品して、僕はしばらく待たされた。

そうは言っても特別待遇で査定は特急便でやってもらっているので、港をブラブラと一周して戻ってきたら査定は終了していた。


「お待たせいたしましたカガミ様。査定はすべて終了いたしております。こちらをご確認ください」


 職員さんは査定の詳細が書かれた書類を僕に渡してくる。

どれどれ、最終買い取り価格はいくらになったかな……えっ!? 

僕は見間違いかと思ってもう一度数を数えなおす。

352万3400ジェニー……。

とんでもない額の数字が並んでいる。

金貨352枚! 

どれくらいの重さになるんだろう……。


 契約は無事に終わり、僕は受取証だけ貰った。

これがあればニーグリッド商会の系列銀行でいつでも現金に引き換えることが可能だ。


「それにしても先ほどの船というか馬車、あれがあったらいろいろと便利そうですよね」


 職員さんは嬉しそうに話している。

その瞳はやけに子どもっぽくて、僕はなんだか親近感を覚えてしまう。


「自動で走る車だから自動車とでもいうんですかね? そんなものが大量に出回れば流通に革命が起きますよ」


 たしかにこんな輸送船があれば、海から陸へ荷物を運ぶのも簡単かもしれない。

もっとも貿易は大型船で行うのが普通だから、巨大な船が陸上を走るのは無理だと思うけどね。

あっ、港で船から自動車へ荷物を積みかえればいいだけか……。

職員さんをニーグリッド商会へ送り届けてみんなが待っている大鷲城へと戻った。


 輸送車で城門を抜けると、前庭の練兵場にいた騎士たちが騒然となった。

いつも馬車が通っていたから、輸送船で入ってもいいと思ったんだけどまずかったかな?


「レニー君!」


 船から降りた僕にシェーンコップ団長が近づいてきた。


「ごめんなさい。馬車と同じ感覚でついこれで乗り付けてしまいましたけど、まずかったですか?」

「そんなことはどうでもいい。それよりもこれが噂の小型装甲兵員輸送船だね! さっきからシエラが熱く語るもんだから、実物を見たいとみんなで待っていたんだよ」


 団長だけではなく騎士のみなさんが全員キラキラと目を輝かせながら輸送船を取り囲んでいた。


「レニー君、私たちを乗せてはもらえないだろうか?」

「もちろんですよ! どうぞこちらから乗ってください」

「よぉし、ルマンド騎士団、搭乗しろっ!」


 シェーンコップ団長の掛け声に騎士たちが一斉に詰めかけてきた。


「ええっ! そんなにたくさん……」


 騎士たちは押し合いへし合いしながらグイグイと船の中に体を押し込んでいく。


「私は銃塔とやらに座らせてもらうとするか」


 団長はひらりと身を翻し、船の屋根へと飛び乗った。

念のために注意しておくか。


「絶対に発砲しないでくださいよ!」

「…………もちろんさ!」


 微妙な間があったけど大丈夫かな? 

狭い船内になんと21人もの騎士が乗り込んでいた。

しかも、屋根の上にはさらに7人が乗っている。


「それでは走らせますよ」

「おう。ルマンド騎士団、前進!」


 大鷲城の周囲を少しだけドライブしてあげた。



 城に戻ってくると団長は僕の両肩を掴んで懇願した。


「やっぱり、ルマンド騎士団に入団しないか? 今なら幹部候補の特別待遇、三食お昼寝はもちろん、従者は選び放題の特典付きだぞ!」

「その話はやっぱり……。協力は惜しみませんから」


 にこやかに提案するとシェーンコップ団長は長い溜息をついた。


「はあ~~~~~~……、やっぱりダメか。せめて、この輸送船があったらなぁ……」


 団長はがっくりと肩を落として行ってしまった。

ちょっと心が痛むけど、こればっかりはどうしようもない。


「よお、レニー! シスターキラーだけじゃなくて、今度はマダムキラーかい? あんまり女を泣かせるなよ」


 陽気な声がすると思ったらフィオナさんだった。


「またへんな冗談を言って……。シェーンコップ団長は輸送船を欲しがっていただけですよ」

「ああ、こいつか」


 フィオナさんが手にしたドライバーで小さく輸送船を叩いた。


「そういうことです。あっ、分解はダメですからね」

「ん~、そのことなんだけどな……。真面目な話、少しだけでいいから、こいつの構造を見せてくんないか?」

「ええ~……」

「あからさまに嫌な顔をするなよ。私にちょっと考えがあるんだ」

「考えって……、どうせ分解して構造を調べたいだけでしょう?」

「ああ。そして、自走する車を作ろうと思うんだ」

「えっ?」

「レニー、私に投資してみないか?」


 フィオナさんがニッと笑って、ドライバーがクルクルと回った。


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[良い点] ユニークスキルの召喚モノ もし自分がファンタジー世界に居たら主人公でなくても恩恵が得られる・・と妄想できて楽しいです。 [気になる点] どうしても「めざせ豪華客船!!」のアレンジ的なイメー…
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