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勇者の孫の旅先チート 〜最強の船に乗って商売したら千の伝説ができました〜  作者: 長野文三郎


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スベッチ島

 フィオナさんの教えてくれた島の名前はスベッチ島と言った。


「というわけで、スベッチ島へ行ってくるので、数日は留守をします。騎士団の派遣日までには戻ってきますので心配しないでくださいね」


 ここは大鷲城、シエラさんの居間だ。

シエラさんとミーナさんに僕の今後のスケジュールを伝えたんだけど、わかってもらえたかな?

二人はぽかんと口を開けたまんまなんだけど……。


「レニー君……、ということは、そのフィオナとかいう会ったばかりの魔道具師と、三泊四日のクルージングを楽しんでくる、とこういうことだね?」


 海の魔物は一筋縄ではいかないと聞いている。

クルージングなどという甘い旅とはいかないだろう。


「冒険旅行です、シエラさん」

「つまりあれか? ……冒険したい年頃、とこういうわけか!?」

「な、なにをそんなに怒っているんですか!?」


 翡電石ひでんせきを運んでくれば高値で売り捌けそうな世情だ。

新しい商売を喜んでくれるかと思ったけど、シエラさんもミーナさんも怖い顔でプルプルと震えている。


「許さーん‼」

「シエラさん?」

「どこの馬の骨とも知れない女と二人っきりで旅行など、私は絶対に認めないからなっ!」


 もしかして……シエラさんは僕を心配して?


「大丈夫ですよ。なるべく危ないことは避けますから」

「ダメだ、ダメだ! 絶対に私も一緒に行くからな。君の純潔は……じゃなかった、安全は私が守る!」

「一緒に来てくれるんですか?」

「私は君の護衛だぞ! 何人たりとも君に指一本触れさせん! カッコ私を除くカッコ閉じ!」

「そりゃあシエラさんが一緒に来てくれるなら心強いって思っていたんですけど、僕のわがままに付き合わせるのも悪い気がしていたんです。本当に来ていただけるんですか? 嬉しいなぁ」

「う、うむ。私たちは永遠に一緒だ」


 永遠?


「そ、それぐらい強いきずなで結ばれた仲間という意味だ!」

「ちょっと、シエラさん! ずるいですよ」


 今度はミーナさんが怒り出した。


「危険な航海になるかもしれないので、ミーナさんはここかミラルダで待機していてくださいね」

「いやよ! 私はシャングリラ号の専属料理人よ。航海に料理人は絶対に必要なんですからね」

「ミーナさんも来てくれるんですか?」

「当然ね。さっそく日持ちのする食材を探さなきゃ」


 みんな本当に優しいな……。


「レニー君、どうした!?」

「お二人の気持ちが嬉しくて」


 恥ずかしいけど少しだけ涙が滲んじゃった……。


「魔物など私が蹴散らしてくれるわ!」

「レニー君の好きな物をいっぱい作ってあげるからね!」

「はい。僕も頑張ります!」


 天国のじいちゃん、今日もお姉さんたちは僕に親切です。

でも親切すぎて不安になるよ。

こんなによくしてもらってもいいのかな? 



 出発の日、フィオナさんはれいの荷車で大量の荷物を運んできた。


「なんですかこれは?」


 一番最初に目がいったのは、トゲ付き鉄球がヘッドのハンマーだ。


「おっと、不用意に触るなよ。それは『ビリビリのシャルウル』だ。インパクトの瞬間に強力な雷魔法が敵に流れ込む仕様だからな」


 かすっただけでも動けなくなるそうだ。


「こっちはなんですか? 普通の矢よりだいぶ大きいですけど」

「そいつは『追っかけの矢』だ。実験段階だが、翡電石を組み込んでいて動く敵を追いかける仕様になっている」

「雷撃のシャルウルと誘導矢か。すごいですね!」

「ありがとう。でも、レニーのネーミングセンスはゼロだな。そんなことじゃ女の子にモテないぞ。まあ、私が養ってやるからそれでもいいか! アハハハハ」


 ネーミングセンスが微妙なのはフィオナさんの方だと思う。


「おい、誰が誰を養うだと?」


 船の中にいたシエラさんとミーナさんが桟橋へと出てきた。


「ん? アンタは誰だい?」

「私はシエラ・ライラック。レニー君の親衛隊長だ」


 シエラさんってば真面目な顔をしてたまにこういうジョークを飛ばすんだよね。

凛々しいお顔からは想像もつかないからびっくりしてしまう。


「紹介します。こちらは騎士のシエラさん。とっても強い人なのに、自ら護衛役を買って出てくれるほど優しい人でもあります。僕の目標としている人の一人です」

「レニー君……」

「こちらはミーナさん。シャングリラ号の専属料理人をしてくれています。ミーナさんの作る料理は人を温かい気持ちにしてくれるんですよ。ミーナさんのおかげで僕は毎日元気に働けています」


 二人には感謝の言葉しかないよ。


「それで、こちらがフィオナ・ロックウェルさん。魔道具師をしていて、今回僕にスベッチ島のことを教えてくれたお姉さんです。見ての通りすごい魔道具を作る人なんですよ。みなさん、仲良くやっていきましょうね」


「うむ……」「はい……」「ああ……」


 なんとなくぎこちない感じではあったけど、そのうち会話も弾むだろう。

僕らは小雨の降る中を、まずはルギアに向けて出港した。



 メインキャビンの操縦席に座ったフィオナさんは大興奮だった。


「おおおお! レニー、このモニターはもしかして……」

「船舶レーダーというものを使って、川の地形や他の船を捉えています。水深なんかもわかるようになっていますよ」

「なんと素晴らしい! 扱い方を私にも教えてくれないか?」

「もちろんです」


 昨日はシエラさんやミーナさんにも操船方法の講習をしている。

今回の航海中にさらなるスキルアップを目指してもらうつもりだった。



 ルギアへは2時間半ほどで到着し、ワイバーンの買い取り手続きも滞りなく行うことができた。

査定額は63万1230ジェニーだ。

ニーグリッド商会の人に銀行への預け入れを勧められたけど、今回は現金でもらっておく。

僕らの冒険は始まったばかりで、いつお金が必要になるかはわからない。

ずっしりと重たい63枚の金貨は船長室の金庫の中にしまっておいた。


「さあ、いよいよ海ですよ!」


 ついに僕らはルギア港を離れ、青く輝くアドレイア海へと乗り出す。

これまではセミッタ川を主戦場としていたシャングリラ号だけど、ここからは世界が舞台だ。


「レニー、君を信用してスベッチ島の座標を教えるよ。あとは船長に任せる」

「ありがとうございます」


 フィオナさんに渡されたメモに目を通して、僕は南東に進路をとった。



 風は完全な逆風だったけど、魔導エンジンを搭載したシャングリラ号には関係ない。

航海は順調でスベッチ島には二時間くらいで着いてしまった。

心配していた海の魔物に遭遇することもなくここまで来られている。

今は島の沖合に船を停泊させて、みんなで作戦会議中だ。


 フィオナさんは双眼鏡を覗き込みながらスベッチ島の海岸を指さした。

レンズが一つの望遠鏡なら売っているのを見たことがあるけど、両眼で見られるタイプは初めてお目にかかる。

フィオナさんが作った道具だそうだ。


「あった! ひい爺さんの記録通り、海岸に翡電石がごろごろしてるぜ」

「あの緑色の石がそうか。たしかに山のようにあるな」


 シエラさんも身体強化で視力をアップしているようだ。

僕もフィオナさんに双眼鏡を借りて海岸を覗いてみた。

玉砂利を敷き詰めたような海辺には緑色に輝く翡電石が点在している。

これなら採集も楽だろう。

ただし、さっきから何体もの魔物が海岸を行き来している。

四足の動物型がほとんどだけど、たまに昆虫型やスライムのような魔物の姿も見られた。

沖合に停泊しているこちらには気が付いていないようだけど大丈夫かな?


「ひい爺さんの記録によると、スベッチ島には夜行性の魔物はほとんどいないそうだ」

「では、上陸は夜中ですね」

「うん。皆にはこれを着けてもらおう」


 フィオナさんは魔導カンテラのついた額当てを袋から取り出した。


「私が作った『おでこピッカリ』だ。これならば視界を確保しつつ両手が使える。作業にも戦闘にも邪魔にならないってわけさ。ヘルメットや兜の上からでも装着できるすぐれものだぞ」


 おでこピッカリとシャングリラ号のサーチライトを併用すれば夜の作業も楽だろう。


「みなさ~ん、おやつのクレープが焼けましたよ」


 ギャレーの方からミーナさんの声が聞こえてきた。

それと一緒にレモンシロップの甘い香りが海風に混じっている。

僕らはいそいそとフライングデッキを降りて、リビングへと向かった。


(本日の走行距離193キロ 総走行距離1720キロ)


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