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勇者の孫の旅先チート 〜最強の船に乗って商売したら千の伝説ができました〜  作者: 長野文三郎


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シエラの特訓

 物音で目が覚めた。

自分がどこにいるのか一瞬分からなかったけど、すぐにクルーザーの船長室にいたことを思い出す。

時刻は夜明け前のようで、窓から見える海はまだ暗かった。


 専用階段を上って居間の方へ行くと、そこには着替えを済ませたシエラさんがいた。


「おはようございます。ずいぶんと早いですね」

「これから日課のトレーニングなんだ」


 さすがは戦闘のプロフェッショナルだけはある。

シエラさんの強さはこうした日々の努力の積み重ねにあるんだと理解した。


「トレーニングって、具体的にはどんなことをされるんですか?」

「まずは走り込みだよ。戦場では動けなくなった者から死んでいくからね」


 シエラさんは毎朝10キロも走っているそうだ。

僕も走れば体力がつくかな?


「あの、一緒に走ってもいいですか?」

「レニー君がかい? 別に構わんが……」


 船長のスキルでせっかく「ダガピア」を覚えたのだから、じゅうぶんに使いこなせる体が欲しい。

僕も頑張って鍛えるぞ!



 シエラさんの足は速くて、追いつくのがやっとだった。

それでも止まることなく、何とか明け方の街を走る。

シエラさんは僕に合わせてかなりスピードをセーブしてくれていたみたいで、迷惑をかけてしまったようだ。


「ごめんなさい……ハァハァ……脚を引っ張ってしまって……ハァハァ……」

「初めてにしては上出来さ。よく最後までついてこられたね」


 シエラさんは呼吸一つ乱さず、笑顔で剣の素振りを続けている。

これが騎士の強さか。

自分の未熟さを思い知らされた感じだけど、この調子で毎日走ることを続ければいつかは……。


「僕も頑張れば、いつかシエラさんのように強くなれますか?」

「ああ、君には才能がある。きっと私よりも強くなれるさ」

「そっか、じゃあ僕もいつかは勇者になれるのかな……」

「勇者に?」

「祖父が言ってたんです。人は守りたい人がいれば誰だって勇者になれるって」


 じいちゃんは鍛冶屋だったけど真の勇者だった。

僕は船長だけど、大切な人のためにいつか本当の勇者になりたい。


「うん、君ならきっとなれるさ」

「よ~し、頑張るぞ。強くなったら僕がシエラさんの背中を守ってあげますね!」

「えっ!?」

「シエラさんに信用されるくらい強くなってみせます」

「レニー君……」


 あれ? 

シエラさんが俯いてプルプルと震えている。

もしかして僕があまりに突拍子もないことを言ったから笑いをこらえているの? 

ひょっとしたらすごく恥ずかしいことを言っちゃったかな……。


「レニー君」

「はい?」

「特訓をしよう!」


 ええ!?


「急にどうしたんですか?」

「私が君を鍛える! 私好みの少年に君を育て上げる‼ さっそく組手を始めよう!!!」


 不用意にシエラさんのやる気スイッチを押しちゃった!? 

でも一流の騎士を相手に訓練ができるだなんて僕は恵まれた環境にいると思う。

ちょっと気になるのは「シエラさん好みの少年」ってところだけど、これはなんだろう? 

戦闘スタイルのことかな?

訓練はミーナさんが「朝食ができましたよ」と呼びに来るまでみっちりと続けられた。



 お店が開くと同時に僕らはキャヴィータ探しを開始した。

キャヴィータを扱う高級食材店のリストはニーグリッド商会ルギア支部の職員さんが作成してくれてある。

とりあえず港に一番近い店に入ってみたけど、とってもオシャレな店で聞いたこともないような食材が所狭しと並んでいた。

アドレイア海に面するルギア港だから、外国の珍しい食材も豊富だ。

そのせいでさっきからミーナさんの興奮が収まらない。


「これはなにかしら?」

「パイナップルという果物をシロップ煮にしたものの瓶詰です」

「じゃあこれは?」

「こちらは怪鳥ロックの卵です。これで作るプリンは最高になめらかと言われております」


 店員さんの説明を受けながらうっとりとした顔をしていた。


「ミーナさん、シャングリラ号に詰め込めそうな食材は好きなだけ買ってもらって構いませんから」

「本当に!?」

「遠慮はいらないです」


 でも今はキャヴィータを探すのが一番重要なことだ。


「すみません、キャヴィータはありませんか?」

「申し訳ございません。今年の入荷は遅れておりまして」


 港町ルギアでもまだキャヴィータは出回っていないようだ。


 午前中にさらに二件のお店をまわったけど、キャヴィータを仕入れている店はなかった。

最初は余裕をもって他の食材を購入していた僕らだったけど、だんだんと焦りが滲んできている。


「こうなっては仕方がない、午後からは別行動で探すとしよう」


 シエラさんが提案してくれる。


「申し訳ありませんがお願いします」

「重複してしまうかもしれないけど、見つけたらすぐに買ってしまった方がよさそうよね。品薄みたいだからすぐに売れてしまうかもしれないわよ」


 ミーナさんの意見ももっともだ。


「余ったらシャングリラ号の備蓄にしてしまいましょう」


 購入費用をシエラさんとミーナさんにも渡して、僕も次の店へと走った。



 どこの店にもキャヴィータを見つけられないまま、僕は集合場所の港へと戻ってきた。

時刻はもうそろそろ四時になろうとしている。

太陽はだいぶ西の方に傾いていた。

ひょっとしたらシエラさんかミーナさんが見つけてくれるかもしれないと淡い期待を抱いていたけど、戻ってきた二人も手ぶらだった。


「ごめん、どこのお店もまだって言ってたわ」

「こちらも同じだ」

「仕方ありませんね。これだけ探してないならどうしようもありません」


 諦めてハイネルケへ帰ろうかと思ったとき、ミーナさんが一つの発見をした。


「あの木箱……」


 入港していた船が積み荷を降ろす現場を、ミーナさんが目を凝らして見ている。


「どうしたんですか?」

「前に調理場で同じものを見たことがあるわ。ちょっと行ってくる!」


 ミーナさんは荷下ろしをしている船員のところへ走っていく。

ひょっとして……。


「レニー君! やっぱりこの箱、キャヴィータだって!」


 ミーナさんは木箱に押されたロゴでキャヴィータを見つけてくれたのだ。

料理人であるミーナさん以外だったら見逃していただろう。

すぐに荷を運んでいる船長に交渉すると、1箱だけ譲ってくれるという話になった。

通常の1.5倍の値段を取られたけどね。


「間に合うかな?」

「水上バイクなら何とか。船体を軽くするために機銃は外しますけどいいですか?」

「べ、別に私に断ることはないではないか……好きにしたまえ……」


 だってシエラさんは大好きだから……。

シエラカスタムから通常形態へ戻した水上バイクに三人で乗り込んだ。


「最高速で行きますからね!」

「大丈夫だ。存分に飛ばしたまえ!」


 シエラさんが振り落とされないように僕の腰に手を回してきた。


「シエラさん」

「どうしたミーナ?」

「位置を代わってもらえませんか。最後尾は不安で……」

「こ、断る!」


 なんの相談をしているんだろう?


「ずるいじゃないですか! 休憩のときに代わってくださいよ」

「……」

「聞こえないふりなんて騎士らしくないですよ!」

「あの、仲良くしていただけませんか? 早く出発もしたいですし……」

「休憩時に交代ですよ」

「承知した……」


 最後尾は振り落とされそうで疲れるのかもしれないな。

僕は運転したことしかないのでよくわからない。

その辺りのローテーションも船長の僕がしっかりと計画を立てなければならないだろう。

新たな責任を胸に、僕はバイクを発進させた。



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― 新着の感想 ―
[一言] 今回の案件は「期日が短いが現在流通してるか自体が怪しい」「言い値で買って貰える」なので1.5倍で入手出来たなら御の字どころか大勝利なのだけどね。 貴族向けの高級品なんて高くてなんぼみたいな面…
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] 次の入荷まで待つという「時間」を「たったの五割増し」ぽっちの金で買えました。
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