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勇者の孫の旅先チート 〜最強の船に乗って商売したら千の伝説ができました〜  作者: 長野文三郎


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ロックナ解放


 魔軍の司令官ブリエルは魔導砲の直撃を食らって吹き飛んだ。

副官のタトールも運命を共にしたようだ。

セーラーウィングと連携した精密射撃は恐ろしい効果を発揮する。

徹底的に魔軍を叩いた僕らは、翌日になってから解放されたダハルへと入城した。


 街は荒廃しきっていた。

かつての大都市に人影はなく、街は傷つき、無言のままに往時の戦乱を物語る。

比類なき美しさと讃えられた白亜の王宮も今はその面影をわずかにとどめるばかりだ。

だけど人々の顔は明るい。

やがてここもかつての美しさを取り戻すことだろう。


 謁見の間に入ると目を真っ赤に腫らしたアルシオ陛下が出迎えてくれた。

きっとまた泣いていたのだろう。

でも今日という日は特別だ。

陛下はずっとこの日のために頑張ってきたのだから。


「レニー、ありがとう……、ありがとう……」


 そう言いながらアルシオ陛下はポロポロと大粒の涙をこぼしている。

ノキア将軍やフェニックス騎士団の面々も声を上げて泣きだしてしまった。



 落ち着くとアルシオ陛下は自ら僕の手を取ってダハルを案内してくれた。

陛下の足取りはいつもよりずっと軽い。


「ほらこっちだ。そう、たしかここだった!」


 思いでの場所を見つけるたびに陛下は駆け出す。

少女時代はかなりのお転婆だったようで、街の隅々まで冒険していたそうだ。


「陛下は好奇心の塊でしたな。奔放に探検されるので私も何度肝を冷やしましたことか。いつぞやは身分を偽り、庶民の酒場でカードギャンブルを体験されようとしましたことも」

「爺っ! そのようなことをレニーにばらすでない」


 普段は無口なアクセルさんも今日ばかりは饒舌だ。

僕はアルシオ陛下に付き合って、一日中ダハルの街をくまなく見て回った。



 夜はささやかな宴が催された。

ミーナさんの作ってくれたご馳走が食卓を飾っている。

アルシオ陛下の音頭で乾杯が叫ばれ、みんなが存分に飲み、食べ、快哉を叫んでいた。

勝利の美酒に酔いしれる大人を横目に、僕は少しだけ沈んだ気持ちでいる。

ロックナが解放されたのは嬉しいことなのだけど僕には頭の痛い問題があるのだ。


「どうしたの、レニー君。お料理が口に合わなかったかしら?」


 僕に声をかけてきたのはミーナさんだった。


「とっても美味しいですよ。ミーナさんの料理が口に合わないなんてこと、あるわけないじゃないですか」

「うふふ、ありがとう。でも、その割に食が進んでいないみたいね。なにか悩み事かしら?」

「実は、今回の戦闘でまたレベルが上がりました」


 本来は喜ばしいことなのだけど、僕のレベルは50に達するとリセットされてしまうのだ。

そうなればまた最初から上げ直しをしなくてはならない。

それは別に構わないのだけど、レベルが低い段階で魔軍が攻めてきたら、そう考えると遣り切れない気持ちになるのだ。


「そっか……。でも大丈夫よ。世界同盟が組まれた今、みんなは一つにまとまりつつあるわ。レニー君だけが責任を背負わなくたっていいのよ」


 世界同盟がいいことだと言うのはわかっている。

でも、なるべくなら犠牲は出したくない。

そのためにもやれるうちに僕ができることをすべきなのだ……。


職業 船長(Lv.47)

MP 7258235

所有スキル「気象予測」「ダガピア」「地理情報」「言語理解」「二重召喚」「伝導の儀式」「三重召喚」「潜水能力」「釣り」「四重召喚」「水上歩行」「五重召喚」「船の構造」「水魔法」「伝導の儀式Ⅱ」「スキル継承」


新船舶

■飛空艇 全長:187m 全幅:21m

 重力魔法の応用によって浮遊する。推進力は魔導モーターによるプロペラ

 甲板の上部と下部に魔導砲を備える。下部は360度回転式。


 ローエンとは各地のデザインアニマルプラントを潰しつつ、魔軍を追い詰めていこうと話し合っていた。

だけどその計画を実行してしまえば、僕のレベルは遠からず50になってしまうだろう。


 それだったら一気に魔王の居城を攻めた方がいいのではないだろうか? 

僕が得意とするのは海戦だ。

魔王の居城があるのは内陸部だから戦艦も輸送艦も使えない。

不利であることは承知している。

でもこの飛空艇があれば、一気に突撃して中央軍を壊滅させることができるかもしれない。


「やっぱりそれがいちばんかも……」

「なにが?」


 ミーナさんには悪いと思ったけど僕は話をはぐらかした。

まだお姉さんたちを心配させたくなかったのだ。


「ちょっとした思い付きです」


 いっそ一人で、誰も巻き込まずにこの戦いを終わらせることができれば……。



 空気が重く寝苦しい夜だった。

そろそろ日付が変わるというのに港の方から重機を動かす音がずっと続いている。

戦闘は一段落したけど、復興作業が忙しくなっているのだ。

今は突貫作業で破壊された港の修復作業をしていた。


 明日には帰還民の第一陣が高速輸送客船でこの港に帰ってくる。

衣食住のすべてを輸入に頼らなくてはならない状況なので大型船を安全に停泊させられる港は絶対に確保しておかなければならない。

必要となる資金もビックリするくらい上昇している。


 幸い貿易は順調だし、潜水艇による財宝の引き上げが大きな利益を上げている。

セイリュウとの組み合わせで獲りたい放題だ。

世界中でこれができるのはロックナだけだから、収益はうなぎ上りなのだ。


 ただ、僕の焦りは尽きない。

船や魔導モービルだけでなく、車両の走行距離だって経験値になってしまう。

みんなが働けば働くほど、僕のレベルは上がってしまうのだ。


「もう一刻の猶予もないんだ……」


 夜の闇の中で僕の覚悟は決まった。

夜明け前にスザクで出発するとしよう。

目指すは最果ての地、北の魔境だ。

お姉さんに相談したら絶対に反対されると思うから、今回は内緒で旅立つことにする。

レベルリセットまでの猶予はあと3レベル。

今動かなければすべてが手遅れになる気がしていた。





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― 新着の感想 ―
[一言] 遂に飛空艇が出ました。 後、どれくらい続くのか分かりませんが楽しみです。
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