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勇者の孫の旅先チート 〜最強の船に乗って商売したら千の伝説ができました〜  作者: 長野文三郎


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毒の小瓶


       ◇


 魔物の軍勢は、リミックを脱出した人々のすぐ背後まで迫ってきていた。

逃げ惑う人々の中に立派な馬車が一台見える。

御者は馬車のスピードを上げようとしているが、道には人々が溢れていて通り抜けることはできないようだ。


 馬車の中には一人の少女とお付きの乳母がいた。


「メリーベルお嬢様……」


 少女の手を握るばあやの手がブルブルと震えている。

だが、それは仕方のないことだろう。

魔物に捕まった人間は食料として食べられるか、奴隷になるかのいずれかだ。

どちらにしたって過酷な運命であることに変わりはない。


 目の見えない自分は惨劇を目撃しないで済む。

それは人生の最期の最期で盲目であることがわずかにもたらした幸運かもしれない、メリーベルは一瞬そう考えた。

だがすぐに思い直す。

たとえ悲惨な死に方であっても、自分は何が起こったのかを、きちんと見て死にたいと考えたのだ。


 外を走る人々がひときわ大きな叫び声を上げた。

いよいよ魔物がメリーベルたちの最後尾に追いついてしまったようだ。


「お嬢様、もうこれまでかと……」


 涙ながらにそういうばあやに頷いて見せ、メリーベルは父から授かった薬瓶を取り出した。

これにはカンタレラという猛毒が入っている。

魔物に凌辱されるくらいなら、これを用いて自害するようにと言われていたのだ。


 覚悟を決めて瓶のふたを開けようとするが、指が震えて上手く開けられない。

そんなとき、耳をつんざく大爆音が轟き、大地がぐらぐらと揺れた。


「きゃっ!」

「お嬢様!」


 メリーベルは乳母と二人で抱き合いながら、周囲の様子に耳をそばだてた。

ところが、どういうわけか悲嘆に暮れていたはずの人々の声がおさまっている。


「ばあや、なにが起こっているのです?」


 乳母が馬車の窓を開ける音が聞こえた。


「きょ、巨人が暴れております!」

「巨人とは何ですか?」

「緑色の甲冑を身に着け、巨大な剣を持った戦士でございます。それが魔物たちを打ち倒しているのでございます!」


 私たちを助けるために英雄がこの地にやってきたのだろうか? 

メリーベルは重ねてばあやに尋ねた。


「巨人の戦士ってどれくらい大きいの?」

「身の丈はゆうに3メートルくらいはありそうですよ」

「そんなに!?」

「それなのに動きは獣のように速いのです。先ほどから一撃で魔物を真っ二つにしております」


 とてつもない豪傑ごうけつが助けに来てくれたようだ。

きっと、筋骨たくましく、厳めしい顔をした人なのだろう、とメリーベルは考えた。


 しばらくすると、人々を捕まえようとしていた魔物はすべてその巨人が倒してくれてしまったようだ。


「僕はロックナ王国のレニー・カガミと申します。リミックの港は必ず守りますのでご安心を。皆さんの護衛としてゴーレムを召喚しますので、落ち着いて行動してくださいね」


 豪傑はそう言い残して去っていく。

魔物を一撃でほふる巨人にしては、やけに幼い声をしている気がした。


「お嬢様……」

「もう、大丈夫なのですか?」

「はい。カガミ様とやらは港の方へ救援に行かれました。きっと旦那様と奥様をお助けくださいますよ」


 港ではメリーベルの両親が戦っているはずである。

この目で見たわけではないが、あの方がご助勢くださるのなら心配は要らない、メリーベルはそんな気がした。


「ロックナ王国のレニー・カガミ様……」

「ご存じなのですか、お嬢様?」

「聞いたことがあります。たしか伯爵でカガミゼネラルカンパニーの総帥を務められている方ですわ」

「まあ!」


 なんだか手が痛いと思ったら、メリーベルは痕がつくほど強く毒薬の小瓶を握りしめていた。

強張った指の一本一本を引きはがすように手を開く。

毒薬が急に恐ろしいものに思えてきて、メリーベルはポケットのいちばん奥へと押し込んだ。


 どうやら危機は去ったらしい。

緊張から解放された体は熱っぽく、メリーベルは今にも意識を失ってしまいそうに辛かった。


       ◇


 将を失った魔軍は、ほどなく潰走かいそうを始めた。


「追撃する。各銃座は個々の判断で手近にいる敵を狙え。前部魔導砲発射用意。二時の方角にいる集団の先頭部分をめがけて三連斉射!」


 通信機から強襲揚陸艦を指揮するアルシオ陛下の声が聞こえてきた。

魔物が二度とこの地を襲わないように、少しでも敵の数を減らしておく方がいいだろう。

陛下の指揮は的確で、セーラ―3が操る機銃は空と海の敵を撃墜している。


 僕のゲンブはそろそろ魔石がつきそうだ。

追撃に加わるのは無理だろう。


「怪我はないか、レニー君?」


 スザクに乗ったシエラさんが機体を寄せてきた。


「ゲンブの機体にかすり傷が少し。補給さえすれば動けますよ」


 轟音が響き、発射された魔導砲に海が大きな水柱を立てていた。


「アハッ♡ すごい、すごい!」


 シエラさんが恍惚とした表情をして胸の前で手を組んでいる。

お師匠様のこういうところはちょっとだけ怖い……。

僕の視線に気がついて、シエラさんは居住まいを正した。


「コホン……、さて、これからどうしたものかな?」

「まずは負傷者の手当ですね。重傷者には特殊医務室を開放しないと」

「うむ。では、私は空から怪我人の捜索と警戒にあたろう」

「お願いします。アルシオ陛下、聞こえますか?」

(どうしたのだ?)

「追撃はそれくらいにして、港の横にある砂浜から強襲揚陸艦を上陸させてください。医務室で怪我人を手当てします」

(了解だ。すぐにそちらへ向かう)


 入港よりも上陸の方が速いから、この判断は間違っていないだろう。

僕らはそれぞれの役割を果たすため、次なる行動を開始した。


11月10日にカドカワブックスより3巻が発売されます!


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