曜煌器(ようこうき)
国の運営というのはとにかくお金がかかるものだと思い知らされた。
なんかね、いくら稼いでも追いつかないんだよ!
魔導エンジンや貿易でかなり稼いでいるはずなのに、その儲けが次々と吹き飛んでいくんだ。
まだまだ税金を徴収できるような状態じゃないから仕方がないけど、空からお金が降ってこないかなあ、なんて本気で考えてしまうくらい支出が激しい。
僕だって人口は増えてほしいんだよ。
でも増えるとそれだけ食料が必要になる。
住居や道だって作らなくてはならない。
ベッパーの財政は火の車なのだ。
というわけで僕は今日もダークネルス海峡に来ている。
かつては魔の海峡と呼ばれて恐れられていたこの場所も、今では安全な航路になりつつある。
ここにいる魔物は僕たちがほとんど駆逐してしまったからだ。
そして今やこの海自体が、僕らの大事なお財布となっている。
そう、沈没船だ。
ここのお宝をすべて引き上げれば国一つがまるまる買えるなんて言われているけど、それは誇張でもなんでもない。
僕らは今日も財宝を求めてこの海へとやってきた。
「それじゃあ、シエラさんがセイリュウを使ってください」
今日は僕とシエラさんの二人がサルベージの担当だ。
他のお姉さんたちはそれぞれの仕事についている。
「了解した。それではレニー君は岸で待っていてくれたまえ」
「それなんですが、僕は浅いところの船を調査してみます」
僕には船長の特殊スキル「潜水」があるのだ。
息継ぎなしで30分は潜っていられる。
魔物がいないのなら、特に問題はない。
「うーむ、危なくはないか?」
「大丈夫ですって。『地理情報』もありますから」
話ながらも手早く服を脱いで水着姿になる。
今日はあらかじめ服の下に着てきたのだ。
最近、少し背が伸びて、腕にも胸にも筋肉がついてきたかな?
僕はまだまだ成長期だ。
シエラさんは最初こそ難色を示していたけど、僕が着替え終わるともう何も言わなかった。
「それじゃあ行ってきます」
「…………(コクコク)」
黙って弟子の成長を見守ってくれるようだ。
よし、頑張るぞ!
冷たい水にゆっくりと体を慣らしてから、大きく息を吸って潜った。
海の中は暗いけど、フィオナさんが作ってくれた水中ランタンがある。
これさえあれば問題はない。
僕は手近に見つけた沈没船に向かって真っすぐに泳いでいった。
かなり古いもののようで、その沈没船はほとんど朽ちかけていた。
マストなんて当然なく、全体が潰れ、海底に小さな台地のように横たわっている。
この状態の船内に入るのは無理だけど、お宝を掘り出すことはできるかな?
フィオナさんに作ってもらった魔石探知機と金属探知機を起動してみたけど、どちらにも反応はない。
無駄足だったか……。
(あれ? 今何か見えたような……)
引き返そうとした僕だったけど、沈没船の隙間に箱のようなものが見えている。
持ってきたバールを使ってこじ開けて慎重に箱を露出させる。
積もった砂を取り払うと、天井に文字が書いてあるのが分かった。
『言語理解』があっても、汚れがひどく文字の判別はほとんどつかない。
なんとか「曜煌器」という三文字だけが読み取れた。
これはファンロー帝国の文字だけど、この時代のものではなくずっと古い。
おおよそ200―300年前に使われていた文字のようだ。
器というからには食器だろうか?
だとしたら割らないように慎重に運ばないと。
船体と同じで、木製の箱だって今にも壊れてしまいそうだ。
僕は箱ごと陸上に運ぶのを諦め、海の中で開封してしまうことにした。
箱はボロボロだったので、開けるのは簡単だった。
中から出てきたのは布に包まれた食器である。
布の方はヌルヌルと汚れていたけれど、食器は意外にも綺麗だ。
いや、これは美しすぎるぞ。
魔導ランプの光に浮かび上がった食器は夜のように深い紺色をしていた。
大小の斑紋が散りばめられていて、光が当たる角度によって光彩がキラキラと動く。
まるで夜空の星がきらめいているように見える。
これが曜煌器?
僕はルネルナさんのような鑑定眼は持っていないけれど、絶対に価値があるもののような気がする。
じいちゃんが使っていたお茶碗にそっくりな形や、少し小さめのサラダボウルのようなものまで様々だ。
特に酒杯のセットは一揃いあって、使い勝手もよさそうだ。
壊さないよう、一つずつ慎重に運ぶことにした。
岸に上がると、ちょうどシエラさんも戻ってきたところだった。
「見てください、シエラさん。こんなものを見つけましたよ」
運んできたばかりの曜煌器をシエラさんに見せた。
「すごくキラキラしているでしょう」
太陽の下で見る曜煌器はさらに味わいを増している。
透明感を増した色彩が見る者の心を掴むようだ。
こんな色合いは見たことがない。
「きっと価値あるものですよ、そう思いませんか?」
「うん、プライスレス……」
シエラさんは僕をじっと見つめながらそう言った。
あまりの発見に驚いているようだ。
「まだまだたくさんあるんですよ。壊さないように少しずつ運びますね。それじゃあちょっと行ってきます」
水に潜る瞬間、背後でシエラさんの声が聞こえた。
「美しすぎる……」
シエラさんも気に入ってくれたみたいだ。
だったら一つプレゼントしようかな?
普段使いにするようなものじゃないけど、飾っておくのだっていいかもしれない。
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