第13章エンディング 「後の祭り」
「あーいたいた。まったくもう、こんな所で不貞腐れて」
「……マヤ」
「その顔はま~~たエルドラド君と喧嘩しましたね?ホントにいい加減、子離れしてくださいよ」
「だって……」
天窮空母からポイ捨てされたエデンは、様変わりしたダルダロシア大冥林で黄昏ていた。
白銀比によって直近の記憶を奪われた彼女の視点では、木星竜が戦闘形態になっている理由も、サチナや希望を戴く天王竜が戦っている理由も理解できない。
さらには、尋常じゃない数の皇種が集結し、その殆どが死んでいる。
別大陸にいるはずの帝王騎士団も出動、見知らぬ黒い帝王枢機、一つですら面白そうな大事件が同時多発している状況に付いて行けなかったのだ。
そして、彼女が打ちひしがれている理由。
それは、特大の祭りに参加できなかったこと。
正確には参加したであろうが敗北、そして、その記憶を奪われたことが何よりも不甲斐なくて許せないのだ。
「悪食=イーターのライブビデオを見ました。みんなあんなに楽しそうなのに」
「どれが一番心残りですか?」
「ダンヴィンゲン VS サチナちゃんの戦いに乱入したかった」
「本当に良かった。大陸の代わりの貴女が沈んでいてくれて」
グラム=ヴァニティを持つエデンならば、木星竜が行使する菌による即死フィールドにも対応できる。
時の権能による魂への攻撃は悪食=イーターで。
エデンが空想する戦いが実現した場合、戦局は思わぬ方向に進んでいたであろう。
「そう言えば、サチナちゃんが悪食=イーターっぽいの使っていましたね。エデンが教えたんですか?」
「知りませんよ」
「んー?キツネに悪食=イーターを教えるなんてアホをやらかすの、エデンしか居なくないですか?」
「だから知りませんってば!!もう、何なんですかアレ、凄く戦ってみたいんですけど!!」
木星竜 VS サチナの戦いは、多くのタヌキ帝王が注視していた。
戦闘開始時の下馬評では、木星竜2 : サチナ・天王竜8の勝率と予想。
サチナ単体では木星竜に劣るが、天王竜がやる気になれば逆転すると試算していた。
「金鳳花の人狼狐も終わっちゃいましたし、那由他様から言いつけられた謹慎も復活……、ですよね?」
「どうでしょう?大丈夫な気もしますが」
「え?」
「那由他様は現在、この世界にいらっしゃいませんよ。たまに消えるアレです」
「ってことは、まだ、遊べるチャンスが」
「ありますね。貴女にうじうじされてると私まで気が滅入りますし、ちょっとだけなら付き合いますよ」
切り株にもたれかかって管を巻いていたエデンに向かい、女が手を差し出す。
その顔に張り付いているのは、融通の利かない悪友への笑顔ではなく、扱いやすい手駒へ向けた含み笑い。
そして、エデンは気が付かなかった。
目の前の『インティマヤ』が那由他の居場所を知っているという、その異常性を。
「でも、これだけ大きな戦いなんて、そうそう起こらないですよね?」
「記憶を消された弊害じゃなくて、素で分かっていなさそう」
「なにが?今の私は機嫌が悪いんですっ、マヤにだって噛みつきますよ!!」
「それ痛いじゃ済まないんですけど……、ダンヴィンゲンですよ。ヴィクトリアに侍っているアレが木星竜の中にいるっておかしいですよね?」
世界最強の原生生物であるダンヴィンゲンは、特殊な状況によって誕生した ”個体” だ。
同種は存在せず、故に、交配という概念もない。
愛を抱く資格すらない完全無欠の孤独、だからこそ、ヴィクトリアから向けられた『愛』は彼にとって唯一にして至高の喜びだった。
「そういえばそうですね?ヴィクトリアのお使いって事でもなさそうでしたし。彼女どうしたんですか?」
「存在を蝕む毒」
「……?」
「による記憶崩壊がそろそろ限界なんでしょうね。世界中を飛び回って解決策を模索していた王蟲兵ではなく、護衛のダンヴィンゲンまで動いたのは猶予が無いから。木星竜と一緒に居たのもサチナの権能を奪い、ヴィクトリアに与える為でしょう」
それは推察めいた、確信。
この女が口にしていることは寸分も違えない事実だ。
何故なら、サチナの権能ならヴィクトリアを助けられるとダンヴィンゲンに嘯いたのは、他ならぬこの女。
「記憶に続き護衛まで失うとは、弱り目に祟り目とはこのことです。あぁ、そうそう。彼女はユルドルードに狙われているそうですし、先に攫ってしまうのはどうでしょう?」
「ユルドルードが?確かに面白そうではありますね」
「ヴィクトリアが消息不明となれば王蟲兵が怒り狂う……、のみならず」
「蟲量大数まで出てくると?でもそれって、那由他様も黙ってないんじゃ?」
「最終的にはそうでしょう。でも、これは神が望んだ遊び『ヴィクティム・ゲーム』、世界終焉規模の滅亡の大罪期、その完全上位互換」
「!!ぞくぞくしますね」
「ヴィクトリアの命は有限であり、いつかは終わりが来る。その時に発生する極大の愛の喪失は、もう既に、世界に運命づけられたシナリオです」
「であるならば、那由他様はギリギリまで静観を選ぶと……?」
こくりと頷き、エデンの言葉を肯定する。
親友に背中を押されたエデンも満足そうに頷き、そして、ゆっくりと立ち上がった。
「ヴィクトリアを巡る争奪戦、そう言えば私、500年前の時も蚊帳の外でした」
「大聖母の管轄になると、どうしてもゴモラさんが隠蔽し始めますからね。でも、今回は最初から関われますよ」
「那由他様に怒られたら庇ってくださいね?あと、エルも」
「えー嫌ですよ。その時は尻尾を巻いて逃げだします」
「マ~~ヤ~~!!」
軽口を交じえた、冗談めいた悪行。
犯罪教唆と呼ぶにはあまりにも自然な、悪意。
・王蟲兵
・蟲量大数
・ホーライ
・エデン
・ユルドルード
そして――、この女によって集められた選りすぐりの君臨者、その中心に添えられているのは 『人の皇』。
「最終章・無限の有償救世。さぁて、主人公は誰になるのか。楽しみですね、とても」
皆様、こんばんわ!!青色の鮫です!!
第13章「御祭の天爆爛漫」、完結しました!!
全234話という最長となった今章は、戦いの規模が一気に三段階くらい引きあがった仕上がりとなりました。
皇種、木星竜、サチナ、帝王騎士団……、今まで強さの限界が見えなかった強者が次々に本気を出して衝突。
ソドムもゴモラも本気を出し、そりゃあもう、ドエライ事に。
僕も楽しく執筆させていただきました!!
そして、この作品の連載前プロットに記載された一番の見せ場――、リリンサとワルトナの決着。
皇種襲来は物語を盛り上げる後付けの舞台装置でしかなく、僕が思い描いていたシーンは彼女達が過去を見つめ、未来に向かって歩みだすこの瞬間でした。
リリンサとワルトナ、そしてユニクルフィンの物語はここから始まります。
真の意味で心が繋がった彼らは、幼い頃に願い憧れた未来を手に入れることが出来るのか。
そんな――、物語の集大成である最終章を、どうぞよろしくお願いいたします!!




