第232話「第13章余談、それぞれのお祭り(魔王)②」
「エンゲージリングなんてぇ、今の貴女には過分よぉ。ということで、はいこれ」
「……あえて聞きますわね。こちらは?」
「ゲロ鳥の首輪ぁ。9等級奴隷である貴女には、お似合いのアクセサリーよねぇ?」
きらりと光る、金色の装飾。
赤い革ベルトの中心に王冠を被ったゲロ鳥レリーフメダルが輝くそれは、レジェリクエの心情そのもの。
あらゆる機械技術理論を吸収して進化するカミナが誇る、現時点での最高傑作。
発信機、通信機、魔法妨害が盛り込まれた、レジェリクエ渾身の首輪だ。
「二等級ゲロ鳥勲章にぃ、魔法十典範すら妨害するアンチ魔法装置をカミナに付けて貰ったわぁ。もちろん、もともとのゲロ鳥の首輪の性能も強化しているのぉ」
「これを私に付けろと?」
「もちろんよぉ!金鳳花が能動的に仕掛けてこないとしても、貴女からアプローチを掛けた場合は話が別。ペットに二度も手を噛まれるのを許すほど、余は温厚じゃないしねぇ?」
余裕たっぷりで語られる、脅し。
レジェリクエの声には、テトラフィーアで遊ぼうという感情が確かに含まれている。
だがそれは、『思い通りになるのなら』の話だ。
テトラフィーアは、この世界で最も、『女王・レジェリクエ』を知っている。
レジェリクエが『ロゥ姉様』と過ごしたのは3年ほど。
その後に歩んだ8年間のレジェンダリア国王の活躍を、フランベルジュ王国の王宮から、そして外務大臣の席に座った後もずっと見つめて来たのだ。
「……つけますわ」
「あら?意外と素直ねぇ」
「馬鹿にしないでくださいまし!!断れば本当の意味で人間扱いされない、まだ、お人形にされていた方がマシというくらい分かっていましてよッ!?」
レジェリクエは無価値を嫌う。
死罪を適用すればそれ以上の見返りは無く、ただ、死体を処理する費用が生まれるだけ。
だからこそ、罪人を有効的にリサイクルする。
各国の政治を支配するという事は、少なからず恨みを買っているという事。
そんな状態の見目麗しい『テトラフィーア姫の使い道』を想像してしまった彼女は、自ら進んで愛玩動物の道を選ぶしかない。
「はぁ……、はぁ……、くっ……。つけ、ましたわ……」
「あはぁ、生意気な女狐を分からせる瞬間って、どうしてこうもゾクゾクするのかしらぁ?」
「キミの性格がねじ曲がっているからだと思うよ。なお、ぼくも若干興奮している」
再会当初こそローレライの前で猫を被っていたレジェリクエだが、今は趣味趣向を隠しもしない。
リリンサやワルトナから性癖が漏れるのは確実、さらにメルテッサなら証拠影像を簡単に用意できる。
レジェリクエは無駄も嫌う。
どうせバレるのなら、これが成長した自分だと誇る方向に転換したのだ。
なお、ローレライはレジェリクエが奴隷システムを多用しているのは、自分が言った『人間の99%は奴隷側』という発言が元になっている事を理解しつつもドン引きし、碌な教育をしなかったであろう愚王を後でシメようと思っている。
「これで私は一生、陛下のおもちゃ……ですのね」
「死ぬまで遊んであげるから覚悟なさぁい……、って言いたい所だけれどぉ、頑張り次第では首輪を外して上げても良いわよぉ?」
「それはまた、分かりやすい希望ですわね」
「余が欲しいのは優秀なお人形なの。絶対に貴女である必要はない、だけれど、外務大臣テトラフィーアの持っている権力は並大抵では覆せないわ。貴女が退けと命令するだけで、大半の者が頭を垂らして跪くでしょう?それではライバルが育たなくて困るのよぉ」
「この私にライバルが生まれると?陛下、私を安く見積もりすぎでは?どれほど不公平な条件を課せられた所で……、あ」
「ということで、貴女は九等級奴隷に降格ぅ。ゲロ鳥と同じ家畜扱いからスタートよぉ」
レジェンダリア国・隷属階級
『ゼロ等級』
国の最高権力者・国主たる者のみに与えられる階級。
その言葉こそ、法であり秩序。
『特級奴隷』
レジェンダリア国を再建させた伝説の指導者『心無き魔人達の統括者』に与えられた名誉階級。
実質的に国主と同じ権限を持ち、国民には富を与え、敵国はサクッと滅ぼす。
『一等級奴隷』
レジェンダリア国の中心を担う者に与えられる階級。
内政、外務、侵略の三権大臣や、特別な武勲をあげし者が在籍している。
『二等級奴隷』
国の運営上で重要な仕事に就く者に与えられる階級。
軍では指揮官に任命されている者が多い。
一等級奴隷の懐刀。
『三等級奴隷』
侵略活動で武功をあげた者や、大貴族などに与えられる階級。
軍では小隊長を任命されている者が多い。
一等級奴隷の手駒。
『四等級奴隷』
侵略活動で武功をあげつつある者や街を納める中流貴族など、色んな意味で惜しい者に与えられる階級。
軍に在籍する者の殆どがこの階級。
一等級奴隷の捨て駒。
*
『五等級奴隷』
一般的な国民での有力者よぉ。
裕福な暮らしをしている者が多くてぇ、上位者達の派閥争いも無いからぁ、とっても幸せぇ。
『六等級奴隷』
一般的な国民で、ちょっとリッチな生活をしている。
毎日三食、ご飯をしっかり食べるのは当たり前。
10時と3時にはオヤツ、夜遅くまで起きている時には夜食も食べる!
『七等級奴隷』
一般的な国民で、上昇途中にある人たち。
頑張れば上に行けるけど、勢い余って四等級まで行ってしまうと大変だから気を付けてねぇ。
『八等級奴隷』
他国から亡命してきた奴らは、大体がここに属する事になるな。
もっとも、それは犯罪を起こしてない事が大前提だ。
赤髪の魔弾と顔見知りな奴らなんて、もれなく全員、十等級だぜ!
『九等級奴隷』
きゅあららら~~!
ぐるぐるげっげー!
『十等級奴隷』
家畜以下の扱いからスタートよ。
今までの人生を、悔い改めなさい。
「九等級……、お言葉ですが、私を家畜扱いしようとしても無駄ですわ。ゲロ鳥は言葉を発しませんことよ?」
この降格は実質的に無意味だと、テトラフィーアは言った。
テトラフィーアの配下に命じ、隷属階級承認委員会へ申請書を提出。
あとは内務と外務の大臣の押韻があれば一等級に戻れるからだ。
「大臣にペット2匹はやりすぎでしょ。暫定的にメルテッサに大臣職を任せるわ」
「くっ!」
「やった。……言っておくけど、僕はオールドディーンの教育も受けている。よって、君に多少の偏見があることは変えのようの無い事実だ」
メルテッサは指導聖母であり、ブルファム王国の政治経済を回していた実績がある。
政治家としての基本教育が終わっている人材を遊ばせておくなど、レジェリクエにとっては言語道断だ。
「ですが、傀儡を使えるのは私も同じです。1等級奴隷を操り、メルテッサさんとグオさんに賄賂を贈るくらい造作もありませんことよ」
「何を勘違いしているのかしら?余は一度たりとも貴女を無罪放免にするなんて言っていないのだけれど?」
「ひぃ!!」
「これだけの大罪だものぉ、執行猶予なんて付くはずもない。余の国の最上級刑罰をご存じかしら?テトラフィーア・元・外務大臣?」
『ぐるぐるげっ刑』
それは、罪を犯した罪人を家畜として扱い衆目に晒すという、凌辱刑罰。
一糸まとわぬ姿に最低限のゲロ鳥の羽のみを着け、イベント会場・広場・国営放送等で無様を晒させ尊厳を踏みにじるという、精神の処刑だ。
「わ、私の痴態を晒したところで、陛下に何の利益がございまして!?一時的な快楽衝動など、国主にあるまじき行いですわ!!」
「閲覧料1万エドロも取れば、だいぶ儲かりそうだけれど?」
「人でなし!!極悪!!色情魔!!」
「人じゃないのは貴女の方でしょぉ、まぁ、それはサブプラン。本命はこっち」
レジェリクエがベルを鳴らすと、隣の部屋に控えていた者がドアから入って来た。
明らかな挙動不審、だが、友人を助ける為に奮い立つ彼女の名は――。
「……アルフ?」
「テトラが泣きべそを掻いているなんて。これじゃ、どちらが踏みにじられたコンニャクか分からないじゃありませんか」
アルファフォート・ブラッシュパピー・ブルファム
現・ブルファム国王ルイの第三子であり、王妃不在のブルファム王国内の女性の中では最も位が高い女性。
テトラフィーアの幼馴染でもある彼女は国を背負い戦う覚悟を以て、魔王の呼び出しに応じたのだ。
「今の貴女には弁護士が必要かと思ってぇ、ベストチョイスだと思わないかしら?」
「えぇ、ゲロ鳥とコンニャクは大変に相性がよろしくて。……煮込まれる気しかしませんわーーッ!!」
そして、やる気に満ちているコンニャクを見たテトラフィーアは笑顔を零した。
もうどうにもならないという、諦めの失笑だ。




