第180話「御神楽幸七・久遠竜鬼-こおりおに-滅びの輪廻竜②」
「《解脱転命・危機廻懐》」
100kmの肉体が変化した二つの木製卵が融合、そして、生まれいずるは――。
「なんなんだこれは……、ですッ!?」
果樹の枝を別の木に移植し、ハイブリッド品種を生み出す行い、差し木。
それと同じ要領で一つとなった巨大な木製卵の表面に、数百万の命が芽吹き、花開き、散る。
ダルダロシア大冥林という名の生態系、その上で起こったあらゆる生殺与奪を繰り返し繰り返し、輪廻の年輪に混ぜ込んで。
それは、奇しくもサチナが考えていたことと同じ、複数の命の権能と敵対すれば成すすべなく死ぬ。
白い毛並みを持つ、不可思議竜の子ら。
それは、白い花が咲いていただけの自分とは違う、本物の証。
――この世界で最も不可思議竜の力を継承した、抗いがたき弟妹たちよ。
――最も命の扱いに長けた者たちよ。
――たった一つの命では、お前たちを殺すに足りぬ。
――数千数万の個の命を使っても、傷一つ付けられぬ。
――だからこそ、この身に輪廻を宿し続けて来た。
――才能の優劣などで、決めさせはせぬ為に。
殺し合おうぞ。命を。
「このままじゃ不味い感じがするです。仕掛けるですよ、ホロビノ」
「きゅぐろ」
全長500mを超える木製卵の表面で繰り返される、生物の一生。
それが何を意味するのか分からない、されど、このまま事態を眺め続けることは悪手だと、サチナは思った。
だからこそ、それを妨害しようと動き出し、急旋回して距離を取ったホロビノに驚愕の声を向ける。
「なにしてるです!?」
「きゅあ。ぐろろろ……」
目の前で繰り返されているそれこそが死だと、ホロビノは知っている。
現在行われているのは、木星竜が蓄えて来た命の逆誕現象。
それは、生まれて、死んでいるのではない。
死んでいたものを甦らせ、生の過程で得たエネルギーを奪い取り、純粋無垢な魂へと戻す行い。
金鳳花が木星竜に与えた無色の悪意は、時の権能が付与された特別製だ。
悪意と好奇心によって生み出された命と時の権能のハイブリッド、それが行きつく先は――。
「金鳳花姉様の力が混じってる……、でも、サチナとは違う、命の権能ベースです」
「きゅあ!」
「終わる……です?」
最後の一つ、初めて背中に宿した小さなタヌキの命を吸い上げ、今、その身に宿す魂の総数は、『千載』となった。
七源の階級であるそれは、不可思議竜を除く竜の中で最も高い、世界で7番目の証明。
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「ちぃ……、やべぇのが生まれそうだな」
「ありゃあかんわ。命の権能を持ってないもんが近づこうもんなら、一瞬で崩壊すんで」
エルドラドを救出したエゼキエルリリーズは、不測の事態に対処するために高みの見物を決め込んでいた。
現在の懸念……、蟲、蛇、人外の皇の参戦。
金鳳花の直接参戦があり得ないことを知っているソドムは、帝王騎士団では対処が難しいそれらへの先手を取るべく、戦場を監視していたのだ。
「不気味だな。ホープがいて、そう簡単に負けるとも思えねぇが」
「ダンヴィンゲンと相打ちした後やからな。そういや、戦った理由って何なん?蟲の姫さんは竜と協定結んでなかったか?」
「俺とゴモラが炊きつけた」
「……は?」
「ホープが定期的に死んだふりして逃亡するのは知ってるだろ?そろそろだろうなって思ってた矢先に、いい感じのダンヴィンゲンいたんで、つい」
「リンサベル家を出禁にされとるクソタヌキの代わりに、ホープを護衛にしようとしたと?」
「あの子がらみの制約で俺達が姿を見せるのはリスクがあると思っててよ。ま、結果的には問題なかった訳だが、当時は警戒してた」
「こんな事になると思ってへぇもんな。アレが温泉郷に降り立った瞬間、そこにいる命は全滅やで。当然、あの子もな」
「金鳳花……、つーか、無色の悪意の思惑とズレてる気がするんだよな。これは、木星竜自体の暴走か?」
現在のソドム、エルドラド、ゴモラ、ムーと連結された悪食=イーターは、那由他の全知に近しい性能を持つ。
それをフル稼働させて木星竜の再誕を調査した結果、今の自分達では荷が重いと判断した。
「任せるしかねぇな」
「ホープの命の残機はほとんど残ってへんのやろ?クソタヌキのせいで」
「そっちじゃねぇ、サチナだよ。アレはな、那由他様が自分に届くと太鼓判を押したやべぇ奴だ。潜在能力じゃ、エデン以上のバケモンだぜ」
「どこぞのクソタヌキもボコられてたもんな。……それがマジなら、レベル9999阿僧祇以上。そりゃ、1000載ごときじゃ相手にならへんわ」
「楽しみだが、怖さもある。俺らの温泉郷がぶっ潰されるんじゃねぇかって恐怖と、それでゴモラがブチ切れるんじゃねぇかって不安がな。戦いの余波の相殺に全力を注ぐぞ」
「しゃーないわ、ぼちぼち身体の痺れも取れて来たし、ワイも出るで」




