第159話「御神楽幸七・久遠竜鬼-こおりおに-真・タヌキside⑦」
「神経速?それがどうした?んなもん、クソ蟲どもと同じだろうが」
「そう思うんは勝手や。が、足元掬われんといいけどな?」
エルヴィティスは待っていた。
最低限のエネルギーで肉体性能を確認しながら、最も欲する獲物がこの場に来るのを待っていたのだ。
いくつもの偶然と必然が駆け合わさって生まれた自我は、とある根源的な欲求を強く求めた。
それは、理想的な自分自身への進化欲。
記憶の中を精査して作り出した理想――、タヌキ帝王ソドムが駆るエゼキエルとの完全融合による、この世界で最も強き機械生命体への進化。
それこそが、自我の根源となった無色の悪意が欲する未来だ。
「行くぞッ!!」
「来いやッ!!」
ソドムとエルドラドが戯れに戦う時、互いに戦闘開始の合図を口ずさむ。
勝敗を問題視しない、純粋な力比べ。
そんな前提で行われてきた戦いは、いつも、互いの威信を賭けた全力のガチバトルだ。
「てめぇの紙装甲も、ちっとはマシになったか?えぇ?」
「関係あらへんな。一撃も貰うつもりはあらへんわ」
物理現象弱体化ジェネレーターの周囲を飛んでいる8基の加減速ユニットが、後方に向けて光粒子をまき散らす。
引力、斥力、重力、磁力、風力、張力、推力、光力、八つの発進器の相互干渉によって発揮されるエゼキエルデモンの稼働速度は、かぎりなく光速に近い。
長距離移動には向かないものの……、数秒以下の急加速・急停止にリスクは存在せず、従来のエルヴィティスが装甲の薄さと引き換えに手に入れていた速度と同等以上を発揮することが出来るのだ。
そんなソドムが取った戦略は、5枚もの刃が連結された右腕による一刀多断。
刃には、エクスカリバーの絶対勝利と、『落ち逝く世界こそ美食』によって得た、ルインズワイズの自滅を付与。
物質を一方的に破壊し、更にそれを悪化させるソドムの刃が、エルヴィティスの『盾』に触れる。
「ッ!!」
「言っとくがなぁ、盾で防いだんは一撃とは呼ばへんで」
4本あるエルヴィティスの腕、もともと利き手だった右下碗が持っているのは、エルヴィティスのメイン装備『神縛盾・ヴァジュラ』だったもの。
ブースターが複数取り付けられた突撃盾だった面影こそ残っている、だが、盾と呼ぶにはあまりにも凶悪な風貌――、高速回転するヴァジュラの刃が刃を受け止め、激しく火花をまき散らした。
「接着剤塗れの電ノコみてぇな武装か、はっ、情緒がねぇな!!」
「お前のボロボロになった爪の方が、余程、みすぼらしいわ!!」
一瞬の拮抗の後、ヴァジュラに接触したエゼキエルリリーズの刃が粒子レベルで崩壊。
ケライノーが行っていたサンドブラスト方式の金属加工の論理を応用した『神縛盾・ヴジュラ改』は対・神製金属武装であり、一方的な優位性を持っていた。
故に、エゼキエルの刃だけが破壊され、そして、その粒子を余すことなく吸収する。
「なぁ、それ、良い装備なんだがよ」
「ガッ!?が、な、なんや!?こっちゃ……!!」
「使い方がなっちゃいねぇよ。エルなら、今の攻撃を受けるなんてヘマはしねぇ」
ソドムは見抜いていた。
エルヴィティスの狙いが自分とエゼキエルの吸収、さらには、神殺しを複数使った『落ち逝く世界こそ美食』を解析することで、タヌキが持つ技術の総合体への進化を目論んでいることを。
だからこそ、刃に仕込むことが出来たのだ。
行方不明の友を助け出す、そんな『勝利』を実現させる一手を。
「右肩のコアの中か。移動させているとは思ったが、案外、分かりやすい所に居るんだな」
エルヴィティスには10個のエネルギーユニットが取り付けられている。
それらは無限の光と呼ばれ、心臓のような役割を持つ。
そして、そのどれか一つにエルドラドが捕らわれているとソドムは勘で判断。
場所を特定しエルドラドを保護するため、ワザと刃を砕かせて吸収させ、それを媒介にエルヴィティスの体内に真理究明の悪食=イーターを出現させた。
「《タヌキ変形認証・魔帝王の双終掌、魔帝王の永滅尾》」
右腕に装備していたブレードユニットを切り離し、尾の先端に装備。
均等に配分された刃は円錐状となり、巨大なドリルへと変貌する。
そして、空いた両腕の先端に、肩の物理現象ジェネレーターが突き刺さった。
巨大な剛腕と化した世界否定ユニット、その先端のアームが、ギィィィィーと軋む。
「《天撃つ硫黄の火》・《地出づる死海の碑》、装填」
炎、光、土、風の魔法十典範を融合させた、天撃つ硫黄の火。
水、強化、回復、防御の魔法十典範を融合させた、地出づる死海の碑。
かつて、シアンと共に開発したソドムとゴモラの奥義が、左右のジェネレーターユニットの中に装填された。
虚無と星……、概念を除いた純粋な物理現象破壊の両掌、それが今、エゼキエルリリーズの眼前で嚙み合わされる。
「無色の悪意から生まれた以上、てめぇはリンサベル家の直系になるな?……が、俺らの守護対象外だぜ」
「なんや、うごかれへ……」
迸るエネルギーの奔流に反応し、仕掛けられていた決戦フィールドが目覚めた。
それは、世界で最も速く、世界で最も硬く、世界で最も眩い蟲を確実に殺す為の、知恵。
エクスカリバー、ヴァジュラ、そして、悪食=イーターによって連結されているルインズワイズとシェキナヴァニティの、結束、絶対防御、自滅、想像による四重拘束渦が、エルヴィティスとエゼキエルと一直線につなぐ。
「じゃあな。もしもあの世でシアンに会ったら、う”ぃー太とルクシィアは楽しく暮らしてるって伝えといてくれ」
「くそが、だれが……ッ!!」
「《神命を決する最終奥義、起動》」
両肩、脚部、そして百節にも及ぶ尾から、虹色の光が放出。
それは周囲に渦巻く神殺しからエネルギーを受け取っている証明。
機械は神経速を発揮できない。
だが、外部から受ける神経速の影響を無効化できるわけではない。
四つの神殺しの、絶対勝利、決別、侵食、創造の力に押し出され、エゼキエルリリーズが一筋の矛と化す。
太すぎる剛腕を無理やりに動かし、狙いを定め、まずは一撃。
「生きてるか?エル」
「なんとかな、マジヤバかったで」
エルヴィティスの肩を粉砕し、エネルギーユニットを剛腕で握りつぶす。
そうして奪い取ったエルドラドをコクピットに転移させ――、憂いなく、終止符を打つ。
「《神の閉口・”想定を超えし絶対勝利”》」
エゼキエルリリーズの胸部に飾られている魔王の口が牙開き、魔帝王の永滅尾で搔き集めた神殺しのエネルギーを束ねた究極の閃光が、エルヴィティスを包み込んだ。
破壊でも撃墜でもない、この世界からの追放消滅。
不死である神を退ける唯一の方法、それは、世界に存在した痕跡すら残さない、完全な抹消だ。




