第45話「リリンサの主張⑧」
「ロリコンさん、すごーい!!」
忌むべき師匠の呼び方を決めかねていたセフィナも、リリンサに習ってロリコンと呼ぶことにした。
それでも、凄い姉に魔法を教えた母の友人である以上、尊敬は必須。
申し訳程度に追加された『さん』がそれを物語っている。
「これは素晴らしい。まぶしい笑顔、本当に素晴らしいですね!!」
リリンサの平均的なジト目も「これはこれでいい」と許容するエアリフェードが、幼女の笑顔に笑顔を返す。
興味津々なセフィナのリクエストに応える度に咲く笑顔が、可愛くて仕方がないのだ。
「むぅぅぅ……なにあれ。セフィナが懐いている。信じられない」
「そりゃあ、お前も一枚嚙んでるからな」
「自業自得ってぇ話だわな」
「むぅ”!?」
「セフィナのリクエスト、すげぇ分かりやすいからな」
「お前ぇみてぇにヒネてねえ。ありゃぁ伸びるぞ」
黒締嵐蛇を瞬殺したエアリフェード達は、三頭熊の縄張りに向かいながら指導を行うことにした。
リリンサへの教えを踏襲しつつ、セフィナのポテンシャルに合わせて内容調整。
アストロズはセフィナと同じ体重と歩幅での回避運動。
シーラインは魔導杖を長柄武器として扱う方法。
そして、同じ創星魔法系統であるエアリフェードは、セフィナがリクエストした魔法のみを使用しての戦闘。
そんな師匠達のドヤ顔の結果、破滅鹿と人形兎の屍の山が出来上がっている。
「にしても、鹿と兎ばっかりだな。どう思うよ?」
「そもそも群れを形成する種族だが……。統率してる奴がいるだろうな。それが眷皇種なら良いんだがよ」
斃した数は優に100を超えている。
どちらの生物も希少性は低いとはいえ、ほとんどの個体のレベルは99999。
それが異常の最極端『皇の出現』の予兆であることを、ここにいる全員が理解している。
「オタク侍、ボディフェチ。あなた達はアマタノ以外の皇種と戦ったことはある?」
「ある。猿の皇種、『追窮狒皇・スグリーヴァ』。10年ぐらい前になるか?あん時もこいつ等と一緒だった」
「猿?確か、魔導枢機霊王国の近くに居たのも猿だったはず。討たれた結果、こっちの大陸で皇種化したというのなら、比較的若いっぽい?」
「若いねぇ。真っ当に強かったが、アマタノほど理不尽じゃなかったしな」
「ちなみに、止めを刺したのってロリコン?」
「だな」
「なるほど。それが超越者になった決め手。美味しい所だけ持っていくとか、ロリコンはやることが汚いと思う!!」
指示したのあなたのお母さんですけどね。
そんな呟きを押し留めつつ、エアリフェードは索敵の魔法を放った。
超越者にふさわしい実力になるように鍛えられた以上、幼女と談笑していようとも、不意の強襲を許す筈がない。
「おっと。また鹿です。数は6」
「処理しとけや、超越者様がよぉ」
「くっ、いいでしょう。やりますよ、役得ですからね!」
セフィナ、リクエストはありますか?
はい!!はい!!ランク7の『星の回廊』の凄い版があるなら見たいです!!
では、『原界に潜みし銀河王』から派生した……、《星雲の外側》でも。
5つ目の魔法十典範を仄めかせながら、エアリフェードが絶望の天蓋から『闇』を引き抜く。
瞬時に形成されたそれは、漆黒の中に数千の光が輝く槍。
二股の切っ先が捻じれて合わさり、末端に向けて色素が薄れてゆく……、そんな槍の投擲攻撃が、着弾地点一帯を跡形もなく爆縮崩壊させた。
「うわーすごいね、綺麗だね!おねーちゃん!!」
「銀河王。私の適正外の魔法。むぅむぅ」
「えっと、じゃあ、私が覚えて使えるようになるよ!!」
「そうして。そして、ロリコンに宇宙の彼方を見せてあげよう」
リリンサは平均的なジト目でエアリフェードを観察し……、ソドムの真理究明の悪食=イーターを使って解析。
適正外の星魔法を扱う足掛かりにするべく、ちゃっかり研究を開始している。
「むぅ。あ、忘れてた」
「はい?何でしょうか?」
「……サチナ達、びじゅある・びーすとのデビューを記念したミニライブ握手会がある」
「「「なん、だと?」」」
「チケットは即完売。次回の開催は未定。歴史に残るスーパーイベント間違いなし。そして私は運営側」
「「「何が欲しいんだ?えぇ?」」」
「あえて何も要求しない。それぞれが思いつく限りの最善の行動をとって欲しい!!」
リリンサが思い出したのは、師匠達が無色の悪意に汚染されている可能性だ。
そして、サチナに会わせる口実として適当な嘘をでっちあげ、後の事も考えて有利な立場を確保。
『ワルトナ流・経済破綻術』を参考に、最大の利益を狙いに行く。
「シーライン、温泉郷に入れなければ話になりません。早急な対処が必要です」
「おう。我は剣を選ばねぇ。邪魔する奴ぁ、サイリウムで一刀両断してやんよ」
「リリンサ、そのミニライブとやらは何時だ……!!」
「だぁああああああぞぉおおおおおおおおおお!!」
全身の毛が逆立つような、強烈な魔力放出。
その発生源は2つと……、不明。
はっきりと感知できたものに加え、隠蔽工作がされている物も混じっている。
「今のはベアトリクスの声。急ごう」
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「しくった、ゾ……」
ぽたり。っとベアトリクスの腕から血液が滴り落ちた。
権能『錬熊術師』による超再生でも治癒できない傷から、絶えず血が滲んでいる。
「エイワズニール……、くんっ、アルミラユエトも居やがるゾ。これじゃ暗号熊を探すどころじゃねーゾ……」
近くに生えていた葉っぱを腕に押し当て、簡易的な止血を行う。
痛々しい顔で、目を引き絞るベアトリクス。
傷の進行を権能で相殺した結果、治癒も悪化もしない状態となっているものの……、それ故に新鮮な傷口が鋭く痛覚を刺激する。
「落ち着け、オイラ、まだ経験が浅い若輩だゾ。奴らに対抗するには、歴代の皇の知識を借りるしかねーゾ」
すぅ、はぁ、と小さく息を整え、ベアトリクスは観察する。
自分の目的、置かれている状況。
取れる手段、互いの戦力差を。
ベアトリクスは生まれて間もない皇種だ。
たったの十数年、ましてや完全に種を統べるようになったのはここ数年の話。
「はっ、上等だゾ。いつかは……って思ってたんだゾ」
相手は数百年を生きた、正真正銘の格上。
ラグナガルムよりも長きを生きる、皇。
『皇鹿蹄死・エイワズニール』
『幻世皇兎・アルミラユエト』
かつて、ベアトリクスに皇の在り方を教えた2匹の皇。
いつの日にかと覚悟していた決別と対峙も、それが同時となれば想定外すぎて。




