乳母でも知らないことがある
乳母の子供はどんな子供かと考えていたら産まれた話。
推しの乳母に立候補したのではなく。乳母になることが決まったら推しだったというパターン。
「ファルコ殿下」
いつもながら窓から入ってくるのはどうかと思うけど、窓から入ってきた人物は乳兄弟なので警戒はしない。
「警備の者にまた叱られるよ」
一言言わせてもらうけど。
「……母には内緒で」
三歳上の兄同然で、なんとなく勝ち目がないイメージだけど、そんな彼にも弱点があるので的確についておく。
「警備の者よりもアウルが怖いのは相変わらずだね。ヘロン」
まあ、乳母は怒ると怖いが。
「殿下に付きまとっていたクレイン嬢を調べてきたけど。彼女を緊急に保護する必要が出てきた」
「――話を聞こうか」
尋ねると、よく分からない話が出てきて、何度か説明を繰り返させてしまった。
クレイン嬢はかつての婚約者候補だった隣国の王子を忘れられないスワン嬢とそんなスワン嬢の内情を知って強く出れないファルコ。そんな不仲な二人の前に突然現れて、スワン嬢の態度に心を痛めていたファルコの心を癒していく。
だけど、そんなファルコとクレイン嬢を見て、実はかつての恋はすでに淡い思い出になっていて、ファルコのことが好きだが、素直になれていなかっただけのスワン嬢は嫉妬の余りクレイン嬢に嫌がらせを行う。
ファルコにとって今まで自分につれない態度をしていたのにいきなりそんな行動を起こすスワン嬢を流石に看過できないと処罰を下し、婚約も破棄をする。
その時点で突っ込みどころ満載だが、そこに続きがあり、スワン嬢に嫌がらせをされている間に愛を育んでいたクレイン嬢とファルコは真実の愛を誓い一緒になると決意する。
だけど、そこでクレイン嬢が新たな婚約者になるというのは流石に身分差があり過ぎてまずありえない。
「………………………なんだそれ?」
そこでそんなことを問い掛けてしまったのは仕方ないだろう。
「そうだな。スワン嬢とファルコが不仲とか。心痛めているとか実際ないだろう」
ヘロンも頷いている。
「ああ。スワン嬢とは愛を育んでいる」
先日焼きもちを焼いたが、スワン嬢の本音を聞いたので迷いはない。
「だけど、何らかの理由で殿下とスワン嬢の仲が決裂すると思われたんだ。それを決定付けるのが」
「……………件の女子生徒か」
「名前呼びたくないからと言ってその呼び方はどうかと思うぞ」
仕方ないだろう。名前呼びたくないし、あいつとか彼女とか言ったら親しそうな雰囲気でムカつくし。
「で、なんで保護なんだ」
「クレイン嬢との出会いは偶然だ。そこに作為はない。だけど、その後から何者かの思惑が絡んできた。そこは、さり気なくクレイン嬢の友人ポジに収まった妹の話によると」
「スパロウ……同じ学園に居るはずなのに会わないと思ったらそれでか」
乳母にそっくりな顔立ちの乳兄弟を思い出す。兄のヘロンは父親似だが、妹のスパロウは母親である乳母に似ているので乳母を溺愛しているヘロンとスパロウの父親に溺愛されているとか。
「クレイン嬢にあるお願いごとをしてきた輩が居て、スワン嬢は隣国の王子と婚約するはずだったが、我が国の王族に引き離されてしまった哀れな立場。だが、王子が別の女性に興味を持てばきっとスワン嬢は解放されて想い人の元に向かっていける」
「………………はぁぁぁぁぁ!!」
「怒りで王子の顔はがれているぞ。――そこで別れた恋人同士の悲恋という、恋愛ものが大好きなクレイン嬢は協力をすることになった」
「………貴族や王族の婚約を何だと思っているんだ」
そんな簡単なものではないのだ。
「そう。だから、婚約を破棄した続きがあるんだ」
「……僕の立場を危うくさせたいと言うことか」
「危うくさせたいのか。婚約を破棄したからと言って庶民と結婚は出来ないから新しい婚約者を用意する。その新しい婚約者になりたい何者かの策略だった」
脳裏にいくつかのスワン嬢と敵対している勢力の貴族令嬢の顔が浮かぶ。そのどれかと絞るのは時間が掛かりそうだ。
「で、クレイン嬢も殿下とスワン嬢。スワン嬢の婚約者候補のクロウ殿下と接しているうちに違和感を感じてな。自分の危うさを」
そのうち口封じで殺されそうなほど自分が薄氷の上に立っていた事実に怯えているのと。
「それで、保護。という名の囮か」
「そう。計画が上手く行ったら母に数日分の休暇を与えてくれ。父がそろそろ母欠乏症で倒れそうだ」
「――暗部の長であるピーコックが倒れたら厄介だな」
「ああ。――このまま放置しておくと暗部の技巧全てを使って母を拉致して、三人目が出来るまで手放さないだろうな」
年の離れた弟妹が出来るのは……と顔を曇らせてくるヘロンを見て、ああ、やりかねないと納得してしまう。
生まれる前だから詳しく知らないが、乳母になってくれそうな偏った教育をしなさそうなそれでいて、傲慢に育てなさそうな王族に心から忠誠を誓っていそうな女性という難しい問題を解決できる乳母としてアウルを選んだ時点でピーコックが不満たらたらだったとか。
「――分かった。アウルの希望で週休二日。有給あり。9時5時勤務だけど足りなかったんだな」
「暗部に休みなしだからな。――父が情報収集の際にハニトラをした時の母の怒りは凄まじいものだった」
その頃のことを思いだして身震いをしているヘロンを見ながらそれは確かに必要だと思いだす。
暗部が一気に使いモノにならなくなったから。
「ピーコックが暗部を担っているのを教えれば解決なのに」
「後ろ暗い事実を隠しておきたい男心だ」
などと話をして、息子が家を抜け出してそんなことをしていると知らない乳母は今頃引き留め役の娘と家族だんらん中なのだろう。
「分かった。父に進言しておく」
王族は後ろ暗いことをしても隠して微笑むという乳母の教えの元この事実を乳母に晒さないでことを進めるのだった。
乳母の家族
夫ピーコック(孔雀)見た目派手だが暗部の長
妻(乳母)アウル(フクロウ)*オウルではない
息子ヘロン(鷺)詐欺まがいの事をする→暗部という思い付き
娘スパロウ(雀)おしゃべりして情報収集しそう




